2008年10月31日10時55分
天候によって色が変わる鶴の湯の混浴露天風呂=小松ひとみ撮影
ちょこんとした岩山の山頂が見える乳頭山=小松ひとみ撮影
【所在地】仙北市【交通】東北道盛岡インターから車で約1時間。秋田新幹線田沢湖駅からバスで約45分。【泉質】炭酸水素塩泉、硫黄泉など
雪深い秋田の山奥で、1人の女が湯につかる。透き通る白い肌と、それを包み込むミルクのごとき湯。湯屋の屋根に真綿のような雪が積み重なり、あたり一面、静寂に包まれている。
乳頭温泉郷。その名と乳白色の湯から、ふと妖艶(ようえん)な女の姿が浮かぶ。美人や母性の象徴だろうか。訪ねてみたくなった。
バスを降りて1時間ほど、ブナ林に囲まれた山道を歩く。クマがいそうな奥地に、茅(かや)葺(ぶ)き屋根の秘湯「鶴の湯」はあった。かつて農家の人たちでにぎわった湯治場。厳しい農作業から解放され、つかの間の安らぎに浸る姿を想像した。
10月ともなれば、夜は冷たい風が吹き抜ける。身を縮めながら混浴の露天風呂に向かう。ふいに、真っ暗な景色に浮かぶ真っ白な湯が広がった。
静かにつかると、足先から順に体が白い湯に隠れてゆく。湯をすくい上げるとうっすらと手のしわが見え、手を広げたら母乳のような湯に落ちて戻った。空には満天の星が輝いていた。
乳頭の由来を宿主の佐藤和志さん(61)に聞くと、意外な答えが返ってきた。「戦前かな。昔のお偉いさんたちが酒を酌み交わしながら、女性の乳房に似た形の山を乳頭山と名付けたとか。そのふもとの湯だから、乳頭温泉となったんです」
妖艶な女のイメージを膨らませた私は、風呂にもう一度つかりながら、ちょっぴり恥ずかしくなった。うす紅色になったほおを隠してくれたのは真っ白な湯だった。(伊藤美枝子)
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◎乳頭温泉郷 乳頭山のふもとに点在する鶴の湯、妙乃湯、黒湯温泉、蟹場温泉、孫六温泉、大釜温泉、休暇村乳頭温泉郷の7湯があり、それぞれ色や泉質が異なる自家源泉をもつ。宿泊客限定で「湯めぐり帖(ちょう)」(1500円)の販売も。一般の日帰り入浴も可(有料、時間は要問い合わせ)。電話休暇村乳頭温泉郷内・同温泉組合(0187・46・2244、http://www.nyuto-onsenkyo.com)。
◎乳頭山 秋田、岩手県境に位置し、岩手側からの呼称は烏帽子岳。標高1478メートルの山頂からは、秋田駒ケ岳や岩手山などが一望できる。
◎湯めぐり号 今年初の試みの、7湯をめぐる乗り合いタクシー。11月30日[日]まで期間限定で運行する。区間内の乗降1回につき1人200円〜300円。湯めぐり帖購入者は、湯めぐり号1日乗車券を500円で販売。
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(2008年10月28日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)