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じんわり 藤沢作品のごとく 湯田川温泉(山形県)

2009年6月12日10時26分

写真:藤沢周平の写真の前でほほ笑む大滝澄子さん藤沢周平の写真の前でほほ笑む大滝澄子さん

写真:疲れを癒やす柔らかな湯=鶴岡市疲れを癒やす柔らかな湯=鶴岡市

図:【所在地】鶴岡市湯田川【交通】庄内空港から車で約25分。JR鶴岡駅からバスで約30分。【泉質】硫酸塩泉【所在地】鶴岡市湯田川【交通】庄内空港から車で約25分。JR鶴岡駅からバスで約30分。【泉質】硫酸塩泉

 1949年、庄内地方の山間の小さな温泉地に、新任教師が赴任した。名は小菅留治。のちの藤沢周平である。

 「みんなに目を配り、とにかく優しい先生でした」。中学の教え子だった湯田川温泉「九兵衛旅館」の女将(おかみ)、大滝澄子さん(72)は目を細めて言う。

 戦後間もない貧しい農村で暮らす大滝さんたちにとって、穏やかでいかにも文学青年といった風姿の新米教師は、注目の的だった。同温泉の開湯にまつわる白鷺(さぎ)伝説をモチーフに、藤沢がシナリオを書いて放送劇をしたり、当時見聞きしたこともなかったクリスマスパーティーを企画したり。「演芸会をやって、私は美空ひばりの『悲しき口笛』を歌いました。サンタクロースも初めて見たんですよ」

 しかし藤沢は結核のため2年で休職。復職は叶(かな)わなかった。

 昔ながらの人情豊かな風土で育つ子どもたちと歩んだ歳月は、宝物だったのか。東京に暮らし、作家になってからも、帰郷の折は九兵衛旅館に投宿した。「相談事をすると、『澄ちゃん、その後具合はどげだ?』と必ず聞いてくれる。離れても、先生の心は庄内に密着していました」と大滝さん。故郷とそこに生きる人々に向ける温かい眼差(まなざ)しは、作品世界でも終始一貫していたのだろう。

 湯田川の湯は無色透明で熱すぎず、肌に優しくなじむ。じんわりと沁(し)みてきて、つい長湯してしまうところは、藤沢作品のようだと独りごちた。

 (文・兵藤育子 撮影・真田弘宣)

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●湯田川温泉約1300年前に開湯。鶴岡市の奥座敷と呼ばれ、藤沢の短編小説「花のあと」で武士や町民が通う湯治場として描かれている。宿泊施設は10軒。斎藤茂吉や横光利一、種田山頭火、竹久夢二ら文人墨客も宿泊した△九兵衛旅館 ロビーに直筆の手紙やゆかりの資料が展示。日帰り入浴も可(700円、10〜12歳350円、[前]11時〜[後]2時)。1泊2食付き1万5225円から。10歳未満は利用不可。電話0235・35・2777。

●観光ボランティアガイド鶴岡市に点在する小説の舞台となった場所や映画のロケ地などを市民ボランティアが案内。地元の人ならではの豊富な知識と人情に触れながら、藤沢作品に登場する「海坂藩」のモデルとされる庄内藩の面影をたどる。ガイド1人につき1000円(ガイドの交通費など)。5日前まで要予約。電話市観光物産課(0235・25・2111)。

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(2009年6月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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