2009年6月26日10時31分
母親の毛繕いにうっとりあくびの子ザル
噴泉を眺めながら浸かる露天風呂=山ノ内町
【所在地】山ノ内町平穏【交通】上信越自動車道の信州中野インターから車で約40分。最寄りの地獄谷有料駐車場から徒歩約10分。【泉質】硫酸塩泉
クマザサの包みをほどく。ほのかな湯の香とともに顔を出す白いちまき。懐かしい味だ。
「お客様との語らいが大切な宝物です」と女将(おかみ)の竹節喜久子さん(67)。亡き母の春枝さんとともに山の湯を守り、宿を愛した人たちのたくさんの思い出をちまきに包んできた。
志賀高原の山懐に抱かれた一軒宿、地獄谷温泉後楽館は元治元(1864)年創業。幾度か洪水に流されながらも、灯は消えなかった。美しい自然と素朴な湯、なにより故郷に帰ったかのような温かい人情に引かれ、人は幾度となく足を運ぶ。
絶え間ない横湯川の流れの脇には、「地獄」の由来となった噴泉が天へと噴き出す。やがて渓谷にかかるケーブルをサルが器用に渡り、私の入る露天風呂の縁にちょこんと座った。
昭和30年代、宿の露天風呂に落ちたリンゴを取ろうと湯にはまり込んだサルが目撃されるなどして、本格的な餌付けが始まり、宿の上に地獄谷野猿公苑とサルのための湯が設けられた。
新緑の季節、サルは出産の時期をむかえる。生まれたばかりのあどけない子ザルが、無心に母親の乳を吸い、甘えたような眼差(まなざ)しを向けている。
サルが湯に入るのは大雪に包まれる真冬が本来だが、緑鮮やかなこの季節も赤ん坊ザルは母親の腕にすがり、産湯に浸(つ)かるかのように入っていた。
豊かで深い森と、山の湯は、われら霊長類の悩ましき日々を、心底癒やしてくれるようだ。
(文・考古学研究者 堤隆 撮影・古谷伸二)
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●地獄谷温泉 横湯川渓谷にある温泉。一軒宿の「後楽館」では、地元で採れた山菜や川魚を使った食事を出すほか、もち米を笹(ささ)でくるみ、温泉でゆでたちまきが名物。ちまきは、もともと水害を起こすという龍の霊にささげたもので、1884(明治17)年から作られている。1泊2食付き1万545円から。日帰り入浴も可(500円)。[前]8時〜[後]3時(10時〜正午ごろは清掃)。電話後楽館(0269・33・4376)。
●地獄谷野猿公苑 敷地を含む周囲の山に、200頭ほどの野生のニホンザルが生息。サルの入浴や暮らしを美しい自然環境の中で見学できる。[前]8時半〜[後]5時。500円、5歳〜小学生250円。電話0269・33・4379。
●渋の地獄谷噴泉 すさまじい勢いで、地中から熱湯が噴き上がる。国の天然記念物。電話山ノ内町観光商工課(0269・33・1107)。
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(2009年6月23日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)