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天城越えに人生重ねて 湯ケ島温泉(静岡県)

2009年8月7日10時54分

写真:国の重要文化財でもある旧天城トンネル国の重要文化財でもある旧天城トンネル

写真:狩野川を眺めながら入れる「湯本館」の露天風呂=伊豆市狩野川を眺めながら入れる「湯本館」の露天風呂=伊豆市

地図:【所在地】伊豆市湯ケ島【交通】伊豆箱根鉄道修善寺駅からバスで約30分。東名高速沼津インターから車で約1時間半。【泉質】硫酸塩泉【所在地】伊豆市湯ケ島【交通】伊豆箱根鉄道修善寺駅からバスで約30分。東名高速沼津インターから車で約1時間半。【泉質】硫酸塩泉

 どれほど大勢の旅人が、この道を歩んだのだろう。スギやカエデが生い茂る道は、夏だというのにひんやり、薄暗い。

 「道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思う頃、雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい早さで麓から私を追って来た」。この名文で始まる小説「伊豆の踊子」は、川端康成が19歳のときに伊豆を訪れた体験から生まれた。主人公が踊り子一行と出会う旧天城トンネルは、今も当時の面影を色濃く残す。

 「『伊豆の踊子』は暗く山深い天城からトンネルに入り、温かく明るい河津に抜ける文学。15歳で天涯孤独となった若き日の川端先生が、この旅で初めて人のぬくもりに触れた。旧天城トンネルはその心の動きの象徴なのでは」。湯ケ島温泉湯本館の主人、土屋晃さん(49)は話す。

 湯本館は川端が29歳までの10年間通った。若くて金がない川端を、当時の女将(おかみ)は自分の息子のように面倒をみたという。自分の家のように気ままに滞在し、女中の評判は悪かったというエピソードも残る。自らを「寂しがりやの意固地」と語ったと伝わる川端が素顔をさらけ出せたのも、湯と女将のぬくもりに心解いたからに違いない。

 一方、松本清張の小説「天城越え」は明るい下田から天城へと、「伊豆の踊子」とは逆ルートをたどる。主人公は天城峠で無邪気な人生と決別した。出会いがあり、そして別れがある。今この時代、全長445.5メートルの長く暗いトンネルの先に待ち受けるものは、何だろうか。(ライター 角田麻子)

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●湯ケ島温泉 伊豆・天城山中の渓流沿いに位置する。井上靖、梶井基次郎、若山牧水ら多くの文人たちが訪れた。宿泊施設は10軒。問い合わせは伊豆市観光協会天城支部(0558・85・1056)。

●昭和の森会館 道の駅「天城越え」内にある施設。近隣の国有林の生態系や林業の歴史について紹介する「森の情報館」や、伊豆ゆかりの文学者約120人に関する資料を展示する「伊豆近代文学博物館」(300円、小学生100円)、井上靖が住んでいた家を移築した「井上靖旧邸」も。午前8時半〜午後4時半。問い合わせは0558・85・1110。

●浄蓮の滝 天城国際鱒釣場 浄蓮(じょうれん)の滝を眺めながら釣りが楽しめる。川を利用した釣り堀に、ニジマスやアマゴを放流している。630円(30分、3匹まで持ち帰り可)。道具の貸し出しも(有料)。午前8時半〜午後5時。問い合わせは0558・85・1441。

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(2009年8月4日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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