現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. トラベル
  4. よくばり湯の旅
  5. 記事

松島の月まづ心にかかりて 松島温泉(宮城県)

2009年10月30日10時28分

写真:松島湾を照らす十五夜の月松島湾を照らす十五夜の月

写真:昼の松島を望む露天風呂=松島町昼の松島を望む露天風呂=松島町

地図:【所在地】松島町松島東浜【交通】JR仙石線松島海岸駅、JR東北線松島駅から徒歩で約15分。【泉質】単純温泉など【所在地】松島町松島東浜【交通】JR仙石線松島海岸駅、JR東北線松島駅から徒歩で約15分。【泉質】単純温泉など

 あかね色から藤色、藍(あい)色に染まってゆく空の中で、松島湾に浮かぶ月の色も白、橙(だいだい)、黄金と変化していく。昇りたての月は島々を照らし、水面に落ちた黄金色の光は海岸へとまっすぐに月の道をのばす。「ここの月が他と違って見えるのは、島があるから」と話す地元の女性の言葉にうなずく。松島の月景色は、月と島と海とが一体になって織りなす不思議な絵のようで、幻想的だった。

 松尾芭蕉(ばしょう)も「松島の月」に心ひかれた一人だ。紀行文「おくのほそ道」の冒頭でも「松島の月先(まづ)心にかかりて」と書いている。にもかかわらず、待望の月を前にして句は残していない。月が昇るにつれて刻々と姿を変えてゆく光景に、表す言葉も追いつかなかったのか。理由が少しだけ分かったような気がした。

 芭蕉が来た320年前にはなかったが、松島には今、温泉がある。湯につかって空を仰げば真上に月。薄いウロコ雲にときどき隠れながら、白い光を地上に注ぐ。ぶくぶくぶく……。首の疲れに負けて、鼻までもぐる。湯に耳をふさがれながら月の光のなかで目を閉じれば、じんわりと首の痛みがとけていった。「(句作を断念して)眠らんとしていねられず」。芭蕉は、松島での夜をそう結んでいる。彼もこの月景色から目が離せなかったのだろうか。

 明くる日。朝日を受けて輝く松島湾を眺めていると、昨夜の光景が幻だったかのように思える。徐々に明るくなっていく空の下、昨日は月の道が浮かんだ海に、今日は陽(ひ)の道がゆらめいていた。

(文・渡部麻衣子 撮影・上田頴人)

    ◇

●松島温泉 08年開湯。アルカリ性単純温泉、ナトリウム塩化物泉、ナトリウム硫酸塩泉。泉質の異なる三つの源泉がある。ホテル海風土(問い合わせは022・355・0022)の前には無料の足湯も。

●ホテル絶景の館 08年から温泉の提供を開始。露天風呂からは松島湾を一望でき、間近に福浦橋、福浦島が見える。1泊2食付き、1万500円から。問い合わせは022・354・3851。

●松島 松島湾の青々とした海と大小260余りの島々が織りなす絶景を楽しめる。島にはすべて名前がついていて、雄島や仁王島などが有名。京都の天橋立、広島の宮島と並ぶ日本三景の一つ。

●観光俳句ポスト 俳句をよんで投函すると、季節ごとに優秀賞3句と佳作が選ばれる。ポストは松島観光協会や五大堂、観瀾亭などに設置。問い合わせは同協会(022・354・2618)。

    ◇

(2009年10月27日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内