中国茶・新茶の季節到来
中国茶評論家・工藤佳治
――南から北へ、そして南へ
お茶好きには待ち遠しい季節が到来した。中国でも同じである。お茶関係者は、ワクワク、ソワソワ。作る人はもちろん、とくに流通関係者は、一刻も気を緩めることができない季節でもある。飲む方は、のんびりしながら「まだか!」といって待つのだが、実は飲む方ものんびりしていられない場合もある。店頭に並ぶと同時に売れ切れてしまうお茶があるからだ。
中国緑茶の最高級のお茶は、年一回しか摘まない。
緑茶以外のお茶では、最上のお茶でも年一回というわけでもない。武夷岩茶(福建省)は年一回。安溪鉄観音(福建省)、鳳凰単叢(ほうおうたんそう)(広東省)は、春と秋の年二回。台湾の高山烏龍茶や凍頂烏龍茶も、春と冬の年二回である。 そして季節は今。中国緑茶を代表する龍井茶(浙江省)など江南地方(浙江省、江蘇省などの長江の南部)のお茶は、今まさに一番茶の時期をむかえている。
この一帯のお茶は、「明前」に摘まれるお茶を一番としてきた。「明前」とは、二十四節気の「春分」(3月20日か21日)から「清明」(4月5日)までの間の時期を指している。そして「西湖明前龍井」などと呼ばれ、特別の意味をもって、重要視されてきた。当然、値段も高い。
しかし、最近では温暖化のせいか、龍井茶のマニアの間では「雨前」がよい、と人気である。「雨前」とは、「清明」のあと「穀雨」(4月20日頃)の前に摘み、作られる(ちなみに中国で「谷雨」と書く場合の「谷」は「穀」の簡体字で、山間の「谷」の簡体字も「谷」と書くので注意)。その場合は「西湖雨前龍井」となる。
失敗談を。だいぶ前、「新茶の到来。清明節を祝おう!」といって、中国の人から「ヘン」といわれた。理由を聞いてなるほど。中国では、「清明」はお墓参りの日。祖先の供養の日である。それを「祝う」というのは確かにおかしい。いくら唐代の皇帝が、遠く顧渚山(浙江省)で作らせた「紫笋茶」を清明節までに都に届けさせ、楽しんだとはいえ、祖先供養の日には違いない。
「広い中国」である。南北にも広い。じつは、新茶はもっと早くから収穫が始まる。「広西壮族自治区」。我々にはあまり馴染みがない省だが、一時期中国といえばこの風景であった、谷の岩と川の流れ。日本の水墨画のスケールを大きくした風景で有名な桂林が、この省である。2月中旬から茶摘みが始まる。
そして隣の雲南省。その北の四川省といった具合に北上する。そして、北は山東省まで至る。ここは茶の生育の北限を超えていたが、戦後の「南茶北引」(南のお茶を北へ)といわれた品種改良によって、1970年代半ばに生産されるようになった。この山東省での新茶は4月下旬か5月上旬である。
緑茶の新茶は、こうして約2か月半をかけて北上する。
しかし、中国茶全体でいくと、まだ新茶の摘み取りは終わったわけではない。再び南下するのである。
福建省・広東省の烏龍茶などの半発酵茶は、5月中旬から6月中旬ぐらいにかけて、そのピークをむかえ、4か月にわたる新茶の収穫の旅は終わる。
次回は、日本人には欠かせないお茶うけの話を。
(04/12)