消費者の好み、注文がお茶を変える
中国茶評論家・工藤佳治
――中国茶にみる「なぜお茶は時代を超える飲み物か」
「深蒸し」「ヤブキタ」。現在の日本茶の売れ筋キーワードである。店頭に並ぶお茶の中で、この二つの言葉が見えるものを消費者は好んで買うという。「深蒸し」は製法。「ヤブキタ」は茶種である。この意味を、すべての消費者が知って買っているわけではない。この二つの言葉がつくと、なんとなくおいしく感じるので、手が伸びるようである。
このキーワードの特徴は、「緑色が鮮やかに出る」、「旨味を強く感じる」。これが最近の日本人のお茶に対する好みである。それに適した茶種が「ヤブキタ」。成長も早いから、収穫量が稼げる。もう一つの消費者の要求、「100グラム1000円以下」も可能になる。そのため、『ここ10年で、日本の茶木の80%は「ヤブキタ」に変わってしまった』という人もいるくらい、茶木、製法の変化があった。
これは、日本で起きているお茶の歴史の最近の出来事である。お茶が、「消費者に合わせて変化する」ものであることを示している。
中国茶の歴史の中でも、このような「消費者ニーズ」に対応して変化してしまったお茶が
いくつもある。
まず「正山小種」という福建省の紅茶が挙げられる。
漢字で書くと紅茶に詳しい方でもわかりにくいが、「ラプサンスーチョン」というと紅茶好きなら誰でも知っている。現在でも「英国貴族がハイティ(アフタヌーンティ)で飲む紅茶は、ラプサンスーチョン」というくらい、正統派英国流紅茶の代表でもある。
このお茶は、この名前になる前ではあるが、福建省桐木というところで生まれた。世界に広がる紅茶のルーツのお茶である。現在のこのお茶の香りは、「正露丸」に例えられる。薬のようにスモーキーで、好きな人、嫌いな人が分かれる。
じつはこのお茶が生まれた頃のものは、現在の香りとは違う。薬くささは感じない軽いスモーキーさはあるものの、むしろ後味に上品な甘さが残るおいしい紅茶である。
それを英国人が変えてしまった。英国で紅茶が人気を博し、ハイティが誕生し始めると、「もっと強い香りに」と、英国から注文が来た。もともと松の木を燃やして乾燥させていたお茶を、さらに大胆に松の木で燻(いぶ)すことで、香りづけをきつくしたところ好評であった。結果、これが「正山小種」となり、古いタイプはなくなった。
余談だが、紅茶の世界で「ペコ(Pekoe)」と同様に茶葉の5葉目を指す「スーチョン」としても名をとどめている。
同じように変わったのが「プーアル茶」。雲南省で作られるこのお茶は緑茶で、香港まで運ばれていた。その途中雨にでもあったのか、気温と湿気が高かったのか、菌(カビ?)が発生した。それを香港人は、飲んでみた。おいしいと思った。それ以来、緑茶を高温多湿のところにおいて菌を発生させ、発酵させて数年置いて飲む。このカビ臭いお茶が、香港では一般家庭からレストランまで、日常どこでも飲まれるお茶となった。
そして今、原型といえるカビを作用させないお茶が復活し、一部ファンを広げているが、圧倒的消費地香港では未だにカビ臭いプーアル茶を一般的には飲んでいる。
こうした例は、中国茶に数多くある。このように消費者の嗜好、あるいはその変化にあわせてお茶は変化し、対応してきた。ある場合は、原型をとどめないくらいに。だからこそ、1500年を超えて、お茶が飲み続けられてきたともいえる。
次回は、「緑茶に砂糖を入れて飲む! 気持ち悪い?」というお話しを。
(08/03)