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嗚小小一碗茶

紅茶誕生早まる。世界遺産の奥深い山中から(上)

中国茶評論家・工藤佳治

――「烏茶=Black Tea」誕生の秘話

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 「世界中で一番飲まれているお茶の種類は?」

 答えは、「紅茶」である。中国、日本で一番飲まれているお茶は、「緑茶」であるが、「世界中」となると、幅広く飲まれている「紅茶」ということになる。

 その紅茶をめぐり、ここ数年、その誕生説に異変が起きている。

 紅茶は、ヨーロッパでの歴史も長いので、中国側の歴史資料が不足していても、ヨーロッパ側の資料で補えば、はっきりする部分が多い。ところが、「紅茶の誕生はいつ?」となると、「18世紀後半頃」というのが、今までの中国・ヨーロッパでの共通認識になっていた。

 1700年代の後半であれば、他の中国茶は、もっと具体的な年代を示して説明されることが多い。こと「紅茶」に関しては、それが曖昧(あいまい)である。しかも、その誕生した経緯についても、「烏龍茶が輸送中に発酵(酸化)した」という漠然とした内容しかない。

 論理性を大切にするヨーロッパにあっても、また、伝説までも含めて何事も「文献」に記述して残すことを大切にする中国にあっても、「紅茶がいつ、どのようにして生まれたか」については、今ひとつ歯切れが悪かった。しかし、ここ数年、その「曖昧さ」が明快になりつつある動きが、紅茶が誕生した場所を中心に見え始めている。


 誕生説の中で、従来からはっきりしていることは、誕生した場所。これは中国・ヨーロッパに共通しているので、定説になっている。「福建省武夷山市桐木」。

 この桐木、「武夷岩茶」で有名な武夷山市の中心から車で1時間半ほど山奥に入る。山道がだんだんと細くなり、両側に山が迫る谷あいを進む。並走する川も次第に細くなり、雨が降れば山肌が崩れ、ますます道を狭くする。今でもそのような場所だが、この細い通りが古くから重要な道であったことが、紅茶誕生の遠因となっている。

 交通の要所、「関」を押さえることは、中国では三国志などでもおなじみのとおり戦略上、重要な役割を果たす。この道は、桐木から少しだけ登ると武夷山脈の分水嶺。あとは下って江西省へと入り、北へ上ると南京まで通じる。その分水嶺の手前の「関」が、桐木関である。


 おさらいになるが、「紅茶」は全発酵のお茶。茶葉は、摘んだところから発酵(酸化)が始まる。発酵させないお茶が緑茶。それをそのまま置いておけば、全発酵して紅茶になる。

 この桐木では、古く緑茶が作られていた。山が迫る谷間の集落では、ろくに畑も作れない。山肌にある茶木から緑茶を作る、あるいは竹を切り、売って生計を立てていた。

 春遅く、大切な収入源のお茶を作るべく、茶葉を納屋に広げておいていた。そこに、この交通の要所・桐木関を自軍の勢力下に置くべく、軍隊が入り込んできた。納屋に入りこみ、寝泊りし、そして軍隊が去った。そのあとに残されたお茶は、すでに緑茶ではなかった。

 しかし、収入源にするものに乏しい桐木の農家は、それをふもとの武夷山市星村に来ていた福建省泉州の商人に託した。泉州は、当時のヨーロッパとの主要な交易港。泉州の商人は、ヨーロッパとのお茶の交易が始まっていたため、武夷山に来ていたという。このお茶は、ジャワを経由してオランダへ。

 その後、ヨーロッパから桐木に注文が入った。たまたま発酵が進んだお茶が、「中国でも今までになかったタイプ」と、ヨーロッパで評価され、需要が生まれたのである。

 今までになかったタイプのお茶。香り、味が違うお茶。「このお茶の種類は?」という質問に、桐木の人たちは、「烏茶」と答えたという。色が黒いお茶だったので、カラスに例えた。それが、「Black Tea」の語源になったと桐木の人たちは、先祖の話しとして説明する。「紅茶」がなぜ英語では「黒茶」なのか、ぴたりと説明がつく。

 これが紅茶の誕生であった。


 その軍隊とはどこの軍隊、そしてそれはいつの時代のこと? この続きは次回に。

(08/31)



中国茶メモ


●中国紅茶の特徴

 中国種(小さな葉の種類)が使われるため、アッサムの紅茶などに比べ、タンニン分が少なく、よほど多く茶葉を入れて抽出するか、非常に長時間置かない限り、苦く出ることは少ない。フローラルあるいはフルーティな香りと、後味の甘さが特徴である。十分な香りがあり、甘いので、一般的中国茶と同じく砂糖などを入れて飲むことはない。

 緑茶の作られるところでは、紅茶が存在するように、中国では最近まで広い地域で紅茶が作られていた。沢山の紅茶の銘柄が存在する。

 しかし、中国における最近のコーヒーの普及、欧米メーカーの紅茶ティーバックの普及などで、一部の産地、銘柄を除いて、どんどん縮小の傾向にある。


祁門紅茶(安徽省)

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 ダージリン(インド)、ウバ(スリランカ)と並んで、キーモン、キームンあるいはキーマンとして、世界三大紅茶の一つ。

 中国紅茶の中では、どちらかというと後発で、19世紀後半に誕生する。緑茶の生産圏であるが、武夷山を中心とした紅茶がヨーロッパで評価を得ていたことから、福建省から紅茶の製法を技術移転させて作り始めた。20世紀初頭のパナマ万博で金賞をとり、世界から注目される。

 味は甘く芳醇で、香りは現地では蘭に例えられるようにフローラル。

 現在でも、ヨーロッパを中心に多く輸出されている。





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