中秋に「月餅」走る
中国茶評論家・工藤佳治
――秋に旨味が増す中国茶も
10月6日。今年の「中秋」である。日本人にとってもそうであるように、中国の人にとっても「月をめで…」ということになる。
そのうえに、中国ではこの時期「月餅(げっぺい)」が全国で走り回ることになる。中秋の1カ月ほど前から、街角には「月餅」を売るポスターがそこかしこに張り出される。有名ホテルは、ここぞとばかりに、豪華オリジナル「月餅セット」を売り出す。月餅の大きさを競う場合もあるが、オリジナルの工夫茶セットが組み込まれていたり、日本のおせち料理セットのように、「3段重ね」が登場したりもする。
パッケージも派手になる。知恵とデザインの競争だ。値段は当然高くなる。1万円を超すものも決してめずらしくない。もちろん、庶民が手軽に買えるセットもある。通常は、単品で売られるものを、この時期だけはセットでしか売らない専門店も増える。昨年は、上海市で販売価格の上限を決めた政令が出た、という話も聞いた。
その上に、「ダフ屋」も登場する。有名店、人気店の中には、予約券がないと買うことができない。それらの店の通りには、ちょっとあやしい人たちが立ち、通りかかる人に「買わない?」と声をかけて、予約券を売る。
日本ではいつでも売られている「月餅」だが、中国ではごく一部の専門店を除いては、この時期しか作られることもないし、売られることもないのが常識である。
月餅は、中秋に家族が集まり、食事をし、そしてこれを食べる。全国的に一番多いのは、広東式で、私たちが通常知る形である。中の餡(あん)も多様で、代表的なものは、「五仁」(クルミやナッツ類の餡)、「メイクイ」(日本や欧米では「ローズ」で訳されるが、ハマナスの花で、甘みと香りづけに使われる。これを使った餡)、「蓮蓉」(蓮の実を使った餡)、「豆沙」(豆の餡)、「百果」(ドライフルーツの餡)、「椰蓉」(ココナッツの餡)そのほか胡麻を使った餡もある。月餅の皮に餡の種類が、店の名前などといっしょに刻印され、焼かれる。
そして、餡の中には「咸蛋黄」(アヒルの卵黄の塩漬け)が入れられることもある。切ると真ん中に黄色い部分ができ、それが「中秋の月」を模している。
広東式のほか、皮がパイ状の蘇州式、あるいは餡の代わりに肉類が入った暖かい月餅もある。
もともと料理店の点心師が作るので、レストランを中心に売られるが、10年ほど前からハーゲンダッツがアイスクリームの月餅をこの時期に売っている。また、5年ほど前からコーヒーのスターバックスも売り出している。もちろん、餡はコーヒー味の数種類。予約を受け、中秋になる前には売切れてしまうほど人気で、結構おいしい。
月餅は、日本のお中元、お歳暮と同じような役割も果たしている。この時期、親戚や、子供の学校の先生、会社の上司への挨拶などに月餅が使われる。そのため、全国を月餅が駆け巡ることになる。多くの日本人が想像する以上に、派手にふるまわれる。その結果、集中する人も出てくる。もらった月餅を、消費しきれない。ならばと、ほかへの挨拶用に使う。廻り廻って自分のところに戻って来た、という笑い話もよく聞く。
「お茶は春」が一番ではあるが、秋においしさを増すお茶もある。緑茶のよいお茶は年一回摘みであるが、年二回摘む「秋茶」は、旨味が増す。
安溪鉄観音(福建省)、鳳凰単ソウ(広東省)は、秋茶があるお茶の代表である。キンモクセイの香りの安溪鉄観音、フルーティで種類が多い鳳凰単ソウ、それぞれの香りに甘さが加わり、深まる秋を楽しませてくれる。
次回は、「苦いお茶が人気。でもそれはお茶?」のお話しを。
(09/28)
中国茶メモ
●安溪鉄観音(あんけいてっかんのん・福建省)
福建省南部、安溪で作られるお茶。詳しくは、1月25日掲載を参照。このお茶が、茶農家とともに台湾に移り、台湾での本格的なお茶栽培、生産が始まることになる。
●鳳凰単ソウ(ほうおうたんそう・広東省)
広東省北部、鳳凰山で作られる半発酵のお茶。茶木は、4〜5メートルになり、茶摘みは梯子(はしご)をかけて行われる。茶葉は大きく、もともとは苦味の強いお茶。加工の焙煎(ばいせん)を加える段階で、それぞれの茶木の葉が異なる香りを発するため、葉を混ぜないで茶木1本ごとに製茶することから、「単ソウ=1本」の名に。
香りに多様性があり、フルーティ、フローラル、ハニーなどと形容される。甘いばかりでなく、本来の渋みだけのお茶もある。
●徑山茶(けいざんちゃ・浙江省)
唐代からの名山・徑山寺で古くから作られ、現在ではこの一帯の山で生産される。現在のお茶は、味、香りが日本の緑茶に近く、日本人にも馴染みやすい。中国の茶事発祥の地ともいわれ、栄西がここで学んだという説もあることから、日本の茶道の源流ともいわれている。穏やかで、旨味のある爽やかさを感じるお茶である。