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嗚小小一碗茶

骨董(こっとう)マニアの憧れ「十二花神杯」という茶杯(上)

中国茶評論家・工藤佳治

――出来の良いレプリカ、コピーという偽物

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 3月になったというのに、「春節」を引きずり、まだ本格稼働していない中国。今年の干支は「亥」。ご存じのとおり日本では「イノシシ」、中国では「ブタ」である。ニュースなどで流れた映像に「ブタ」がたくさん登場したのは、そのためだ。子沢山の象徴でもあり、しかも今年が百数十年に一度の子供を授かるには良い年なのだそうで、昨年後半に結婚したカップルが多かったのもそのためだ、という。

 年の初めになると、取り出してきて飾ったり、使ったりする中国茶器がある。「大清康熙年製」と杯の底の記されている、彩色鮮やかな12客の茶杯である。1月から12月までの月ごとに、その月の花、木が描かれ、反対面には、詩が記されている。清の時代に景徳鎮が世界から一層注目を集めた「五彩」(注:「中国茶メモ」参照)の名作の一つと言われる。

 この12客の茶杯には、私が中国茶に引きつけられていった時代の思い出がある。工夫茶では、お茶を飲むのに「茶碗」ではなく、小さな「茶杯」を使う。茶葉への興味ばかりでなく、しぜん「茶杯」にも目が止まり、気にいったものは買うようになっていた。

 場所は、返還前の香港。中国の芸術品などを集めた、少し高級なお土産屋さん「中藝」という店。そこの陶磁器売場の棚に、美しく飾られた12客の茶杯があった。心ひかれた。と同時にどうしてここに、という思いであった。

 香港の若いカップル、そして結婚式の記念写真を撮るメッカ、香港公園の中にある「茶具文物館」。古く英国統治の始まったころ、「フラッグスタッフ・ハウス」と呼ばれた2階建てコロニアル風の建物である。その博物館の中に、この12客はガラスケースの中で展示されている。世界にフルセットでは、7〜8セットしか残っていない、というもの。同じ香港の個人コレクション「徐氏美術館」の図録の中にも、「五彩」のものと「染め付け」のセットが掲載されている。

 同じ頃、香港で開催された世界的に有名なオークション会社のオークションに、「五彩」のフルセットが出て、2〜3000万円で落札された、という話も聞いていた。

 「なぜ、こんなところに」。しかもガラスのケースにも入らず、手の届くところに。

 恐る恐る店員さんに、手に取ってよいか聞いてみた。いとも簡単、乱雑に、「どうぞ」と出してくれた。「えっ、こんなに気軽に」。

 薄く、口当たりもよい。上質の感じである。値段を聞いた。日本円で、2万5000円くらいである。2〜3000万円との差は、何を意味するのか。あまりに唐突な出会い。美術館の中のものとのギャップをどう説明するのか。判断もつかないまま、決断できず、その日はホテルに帰った。

 粗末な茶杯は、1客50円から売られていた時代である。高すぎないか。でも、安すぎるではないか。ずっと頭の中でぐるぐると、疑問と買うこととのせめぎ合いが続いていた。

 翌日、足は「中藝」へ。迷ってはいるものの、買う方へ傾いていた。「偽物」に決まっている。でも、焼き物の出来不出来を判断できるほどの知識、経験は持ち合わせていない。が、なんとなく出来はよさそうだ、と自分に言い聞かせていた。せめて、自分への言い訳のために値切ってみよう、と思った。何の意味ももたないのだが、値切ることができたら買おう。値切れなかったら、諦めがつくと思った。

 「中藝」は、高級店として位置づけられていた。どこでも値切る交渉が可能な香港で、値切ることを持ち出してはいけないステイタスの店であった。それを知っていながら、値切ろうとしている。高いハードルをなお高くして、諦める口実を見つけようとしていた気もする。

 そして、昨日の店員さんが、ニコニコしながら近づいてきた。(続きは次回に)

(03/15)



中国茶メモ


五彩


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 中国明代以降の焼き物で、白の釉薬の上に、赤、緑などの上絵具で模様などを描き、焼き上げたもの。5つの色を使うのでこの呼び名になったといわれる。日本では、「赤絵」と呼ばれた。

 清代康熙年間(1661〜1722年)に、景徳鎮において、技術的な発展を遂げ、その精巧さと華麗な美しさで、ヨーロッパにおいても高く評価された。


十二花神杯


 別称:十二花草杯。康熙年間、景徳鎮で焼かれた磁器の名品の一つ。十二カ月の月ごとに、花や木が描かれ、裏面に詩が書かれている。「五彩」のものと、「青花」(日本でいう染付)のものとがある。落款に「大清康熙年製」とある。

 1月の「迎春」に始まり、2月「杏花」、3月「桃花」、4月「牡丹」などと続き、12月の「水仙」で終わる。

 香港の香港公園内にある「茶具文物館」で展示されている他、香港の個人コレクション「徐氏芸術館」は、「五彩」「青花」の両方を所有している。




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