春の香りを「蓋碗」で楽しむ
中国茶評論家・工藤佳治
――日本にもある「すすり」ながら飲むお茶
春のお茶、真っ盛りである。
お茶といっても、ほとんどが緑茶。緑茶を飲んで、「豆の香り」と中国の人たちが形容する「豆」は、春雨の原料となる「緑豆」のことを指している。
また、中国緑茶の代表、龍井茶を飲んでいると、日本の人は「きな粉」の香りがするということがある。龍井茶が、釜で炒(い)るようにしながら、仕上げていくために、少し「こげる」ような香ばしさがあるからだ。
前にも書いたが、中国では日常、コップやマグカップのようなものに直接茶葉を入れ、お湯を注いで少し置き、葉を避けながら飲んでいる。茶を飲んでしまうことに抵抗がある日本人には、慣れないとなかなかうまくいかない。中国人の中には、歯を茶漉し代わりにして、歯の間にお湯を通しながら飲む、という器用な人もいる。
一見、ものぐさな入れ方、飲み方のように見え、おいしく飲めないようにも思えるが、合理的ともいえる。「香り」を直接嗅ぐことができる。お茶が濃くなれば、途中で薄めることも可能だ。薄かったら、少し待てばよい。自分の好みの濃さに簡単に調節ができる。
お茶好きの人や少し高級なレストランなどでは、「蓋碗(がいわん)」がよく使われる。ご飯茶碗に蓋(ふた)がついたものを想像されるとよい。たいていソーサー(茶托)がセットになっている。茶碗に茶葉を入れ、お湯を注いで少し待ち、蓋でお茶を避けながら、茶碗から直接飲む。この道具は、茶藝などではお茶をいれる道具として使われるが、本来は飲む道具である。
明代、景徳鎮などの隆盛と一緒に広まり、清代で隆盛を極めた道具で、今でも一般的に使われている。
この「蓋碗」、日本にも似たものがある。中国で使われているものより少し小ぶり。形が平たいものが多いような気がする。
いつ頃日本に伝わったものなのか、よくわからない。「すすり碗」ないし「すすり茶碗」といっている。使い方は、中国と同じ、茶葉を入れ、お湯を注いで、蓋をずらして、お茶をすすって飲む。
その後、注意してみると、有田でも売られ、京都などの陶磁器にもあり、煎茶道でも流派によっては使うこともあると聞いた。有田、伊万里の陶磁器作家の数人に聞いてみると、「蓋碗」は知らなくても「すすり茶碗」は知っていた。
蓋碗の歴史でいうと、中国の方が古いことは確かで、この「すすり茶碗」も中国から伝わったものと考えられる。
一方、ヨーロッパでも同じ磁器を見る。フランス・セーブルの窯のものをよく見る。ヨーロッパで売られているとき、「ライスボウル」や「スープボウル」の表現が多い。「ご飯茶碗」か「汁碗」としての認識である。お茶を飲む道具としての認識はなく、また使われ方もしていない。
日本で「すすり茶碗」を使っている方が、どのような感じ方をされているか、直接聞いたことがない。いずれにしても、この飲み方、けっこう私は気に入っている。ひじを少しあげた位置で、蓋をずらしながら飲む姿は、なかなか魅力あるように見えるし、実際おいしくお茶が飲める。
春の中国緑茶。その香りの楽しみ方に、是非一度お試しいただきたい。蓋のある茶碗で十分代用が可能である。
まさに「すすり茶碗」を楽しむには、絶好の季節である。
次回は、「お茶には付き物、水へのこだわり」(予定)です。
(05/11)
中国茶メモ
烏牛早(うぎゅうそう・浙江省)
場所の名前が前について、「永嘉烏牛早」ともいう。浙江省の南部「温州」で作られるお茶。茶葉の外見、香り、味とも「西湖龍井茶」に非常に似ている。
生産地では、「このお茶を元に龍井茶は作られた」と言っている。龍井茶の人々の多くは、「龍井茶を真似(まね)て作ったお茶」としている。いずれにしても、現在の生産茶区は、1980年代に整った。
切れのよい味、香りの中で、よいお茶は甘みが残る。おいしいお茶である。龍井茶より一足先に摘まれ、製茶されるので、「龍井茶」として店頭に並べられることもある。本来の値段は、コストパフォーマンスのよいお茶だ。おいしいお茶は、まさに買い得である。