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装飾品、インテリアとしての中国茶

2007年08月02日

中国茶評論家・工藤佳治

――壁を削って、陳年茶を飲む時は来るか

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 思わず「へー」とうなった。

 圧巻である。「真田六文銭」のような○を模様に、凹凸のある黒い大型タイルが、壁一面に貼られている。しかも、6〜7メートルはある2階までの吹き抜けの壁に、上から下まで貼り込まれている。上海の住宅街にある租借時代の古い建物を改装し、最近オープンしたレストランの内装だ。

 中国は、今ちょっとした「雲南ブーム」である。標高3000メートル以上のところを走る鉄道の開通、観光地としての西双版納(シーサンパンナ)への憧れ、大理石の語源となった大理には、日本のセレブにもお馴染みの高級リゾート・ホテルが開業した。お茶の世界では、「プーアル茶ブーム」。そして、レストラン業界は、「雲南料理」レストランが都市部にオープンするのが目立っている。

 その黒いタイルのレストランも、ブームの「雲南料理」レストラン。新しもの好きの上海セレブの奥様方や、在住のフランス人客などで、連日満員の盛況ぶりだ。

 この壁の黒タイル、じつは特注でつくられた雲南省「プーアル茶」の「磚茶」である。一枚A4版くらいの大きさの磚茶が、タイル様に壁に隙間なくびっしりと貼られている。

 中国茶葉の形状は、大きく二つのタイプに分けられる。日本茶と同じような、茶葉がバラバラの「散茶」と、もう一つは、茶葉を固めたタイプのお茶。「緊圧茶」とか「固型茶」などといわれるタイプ。その緊圧茶の形状に、3つの代表的なものがある。円盤形をした「餅茶」、お碗形の「沱茶」、そしてブロック状の「磚茶」である。 お茶の歴史でいえば、緊圧茶の方が古くからある。

 雲南レストランの壁の「磚茶」。「磚」は、「レンガ」を意味する。長方体で、雲南省のプーアル茶だけではない。チベットやモンゴルなどでバター茶に使われる、四川省や湖南省、湖北省などで古くから作られる緊圧茶は、ほとんどが「磚茶」である。輸送上、保存上便利であったことが、この「磚茶」が広い地域で、現在まで生産され続けてきている理由だろう。

 このレストランの黒い磚茶は、凹凸の○模様がモダンなセンスに感じられ、内装としてはなかなか優れている。落ち着いた、自然の優しさを感じさせる。光を吸収するせいか、雰囲気も和らいで他に使われている雲南の鮮やかな「赤」と、美しいコントラストを作っている。

 地震などで落ちてきたら、凶器になりそうとか(上海は地震がない)、何十年か後、陳年茶の壁となって、資産価値数百万円になっているかも、などよからぬ想像をするのも、なかなか楽しいことである。優れたインテリアになっている。

 ちょうど、私も緊圧茶を額に入れて、サロンの壁に飾ろうかと思っていたところであった。最近出会った磚茶で、「美しい」と思ったお茶があったからだ。

 紅茶を固めた、四川省の「米磚茶」という緊圧茶である。絵画や陶磁器を見て、美しいと感じるのと同じ感覚で、「飲もう」というより「飾りたい」と思った。中国茶と付き合い始めて25年くらいになるが、こんな感覚は初めてであった。

 黒の光沢も鮮明で美しい。表面の凹凸に描かれた絵には二種類あるようだが、写真にあるようになんとなくイスラムも感じさせる風景(もう一つは汽車の風景らしい)にも、心引かれるものがあった。

 「飾るお茶」。このタイプのお茶は、年数を経ることに耐えるお茶である。長年楽しめそうである。

 次回は、「ピューターでいれるお茶は、甘さのイリュージョン」(予定)です。

中国茶メモ

米磚茶(べいせんちゃ・四川省)

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 別称で、「紅磚茶」とも呼ばれる。紅茶をブロック状に固めたお茶。150年以上の歴史がある。

 形状の規格が決められており、23.7cmx18.7cmx2cmの薄い長方体で、重さは1.125kg。

 紅茶と同じにボディがあるが、柔らかで優しい深みのある味。リフレッシュする感じの味、香りである。身体を温める、と、説明されている。

 じつは、あまりにも美しすぎて、崩すことができず、飲んだことがない。

 四川省に行かれる方は、是非ご覧になるとよい。

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