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“大福梅”が想像をかきたてる

2010年2月16日

  • 中国茶評論家・工藤佳治

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――古い時代のお茶の飲み方は、生きている?

 2月14日は、旧正月元日、春節である。中国では春節をはさんで約1週間お休みである。会社が休みになる他、商店などもほとんど休みになり、社会的機能はほぼ停止する。

 日本で、新暦お正月を前にした昨年暮れ、京都山科の陶磁器ギャラリーで、「暮れの京都のものです」ともらったものがある。「北野天満宮の大福梅」。「元日の早い時間、お茶にこの梅に入れ、飲むのです。無病息災のお願いです」と、説明された。

 お話しをうかがうと、この梅干し、毎年12月13日に北野天満宮で配り始め、なくなると終わりということらしい。この「大福梅」をいただくため、たくさん人が集まるという。

 この包みに習わしの起源が書かれていた。951年、村上天皇の世に疫病が流行し、梅の入ったお茶を飲んだところ治った、という。その後、「王服(おおふく)」と言って元日に飲むようになり、これを一般人も飲むようになって、一年の健康、長寿幸福を願うようになった、ということだ。

 偶然、暮れの同じ日に、京都で他の方から「大福茶」という名前のお茶をいただいた。お茶舗で売られている煎茶だ。このお茶にも、「大福梅」と同じような起源が説明されていた。昔は、お茶に小梅、山椒、昆布、勝栗などを入れ、元日に飲んだ、とも書かれていた。

 後日、皆さんに聞いてみたところ、「大福茶」の名前はともかく、昔はよくこうして元日に飲んだ、という方がけっこういたのに驚いた。私の家にはその習慣はなかった。また、白湯に梅を入れて飲む、という京都の方もいた。

 気になったのは、「梅にお茶を入れて飲む」ということ。中国から最澄が日本へお茶を最初に持ち帰ったとされるのは、800年代のはじめである。しかし、喫茶としての定着は、そののち栄西が中国から帰国した時まで待つことになる。栄西は、持ち帰った茶を九州・背振山に植え、そののち『喫茶養生記』を表し、喫茶の定着への基礎になったと説明される。それは、1190年頃から1220年頃のことである。栄西が伝えたお茶は、中国では抹茶をささらで撹拌して飲んでいた時代のいれ方、飲み方である。

 最澄から栄西に至るまでの間、日本では喫茶が空白期間ともいえると私には思えていたが、大福梅が説明する村上天皇がお茶に梅を入れて飲んだとされるのは、前述した951年である。最澄が伝えたお茶のいれ方、飲み方は定かではないが、中国では固めたお茶を崩し、煮だして飲む時代であった。

 由来もさることながら、興味をそそったのは、「お茶と梅」の取り合わせである。中国で古く、お茶は薬として飲まれ始めた。お茶単独で飲むことではなく、ショウガや塩などと一緒に煮出すことで飲んでいた、と説明されている。

 最澄の時代、中国から伝わったお茶の飲み方の延長上に、村上天皇が服したお茶の飲み方があったのではないか。梅を入れることはひらめきであったかもしれない。お茶を単独で飲むのではなく、何かと一緒に抽出して飲む方法が、むしろ普通であった時代がルーツ中国にはあった。

 ずっと後の時代、ヨーロッパでは茶に砂糖、ミルクを入れることを始めた。アメリカでは、レモンを入れることを始めた。

 中国北部だけではなく、西側の周辺地域などでは、バター茶として、茶にバター、塩、ある場合にはチーズ、穀類なども入れて飲んでいる。

 私たちは、今、紅茶以外、ほぼお茶単体を抽出して飲んでいる。しかし、古い時代の飲み方が、あるいはその伝統が、形を変え、まだ生きていることを、「大福梅」「大福茶」が教えてくれた気がした。

 次回は、「“清玩”。お茶をいれ、飲む“あこがれ”の環境」(予定)です。

中国茶メモ

雲南沱茶(うんなんだちゃ・雲南省)

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 日本に最初に入ってきたお茶も、固めたお茶であったかもしれない。あるいは、製法ないし飲み方として固めたお茶を崩すタイプが伝わったとも思える。
 中国で、お茶が古くからある地域では、今でも固形茶が存在する。その中の一つが、「雲南沱茶」。雲南省下関が、生産の一つの中心地であったところから、「下関沱茶」と呼ばれることもある。下関は、現在の地名は大理。大理石の名もここからきている。
 現在のお碗形で、内側が凹でくぼんだ形は、1900年代の初頭から作られたものと言う。標準的な大きさは、直径約8cm、高さ約4cm、重さ約100g。最近では、お土産用に1回分の小さな沱茶(小沱茶と呼ぶ)が作られ、売られている。
 年数を経て価値が上がるというのは、一般のプーアル茶と同じ。新しいものも飲むことはできる。

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