2008年7月23日
サンモリッツのトラックとホテル群
左から高橋マネージャー、増田、野口みずきさん、藤田監督、広瀬コーチ=宿泊するサンモリッツのホテル前で
山内成俊さん、マーラ山内さんご夫妻=サンモリッツのトラックで
三方を山に囲まれたスイス・サンモリッツは標高が1800メートル。湖を中心に北斜面に街が広がり、西側の平地に陸上の400メートルトラックと宿泊施設が集約されている。頂に雪を被った山から吹く風は清々しく、湖畔では水鳥が巣作りに精を出していた。冬場はスキーリゾートとして有名なこの地も、夏は世界中から様々な種目のアスリートが集い、合宿を行っている。
7月15日から3日間、私はここで合宿をする野口みずきさんとマーラ山内さん(北京五輪女子マラソン英国代表)を訪ね、滞在した。2人の滞在するホテルは同じ。他にも海外の多くのアスリートが宿泊していたが、喜ばれる理由は、トラックに隣接していることと、朝、昼、晩と3食ともにブッフェ形式の食事が充実しているのが、大きなポイントだからだそうだ。
私が訪ねた日は、偶然にも野口さんの監督、藤田信之さんが日本から合流した日だった。野口さん、広瀬永和コーチ、高橋マネージャーは7月初めから合宿をしている。この日、皆さんと共に夕食をご一緒させて頂いた。野口さんは誕生日のプレゼントに高橋さんから贈られたという、カラフルなパーカーを着て、テーブルと料理コーナーを行ったり来たり。お皿にはパスタや肉、サラダが山のように盛られていた。「相変わらず、よく食うなぁ」と話す藤田さんは、父親が娘をからかうようだった。
翌日、午後に40キロ走を控えていた野口さん。朝はまだ誰も練習していない午前5時45分からジョギングを始める。ジョギングというには速過ぎるスピードで約15キロ。そして午前中に筋力トレーニング。普通の選手は40キロ走を行う日に、朝からこんなに練習はしない。つくづく野口さんの練習量に頭が下がる思いだった。野口さんが筋力トレーニングに向かう前のウォーミングアップをグラウンドで行っている最中、藤田さんは「7月頭に1週間で2回もドーピング検査が来よった」と話した。
「あんな小っこいのに強いから、何かやっとるんじゃないかと疑っとるのかもな」。京都で行われた壮行会前とサンモリッツに来てすぐに抜き打ち検査があったらしい。でも、むしろ藤田さんは『それだけ強いから検査が来る』ことを誇らしげに思っているように見えた。毎朝15キロを走り、午前中はウエートトレーニングを欠かさない。そして午後の本練習は、40キロ走の前日、トラックで300メートル×20本のインターバルトレーニング。その前日は20キロのハイペース走。野口さんのこういう厳しい練習の日々の積み重ねを見れば、彼女の強さは並々ならぬ努力から生まれるものだと分るはず。
広瀬コーチは、北京五輪女子マラソンでは、中国代表3人がチームプレーでくるのではないかと話した。大阪世界陸上銀メダリストの周春秀さんと同4位の朱暁琳さんに加え、第3の候補に入った18歳の張瑩瑩さん。「若い張さんを前半からハイペースで飛ばさせて、レースをかき回されると怖い」と広瀬さん。
滞在中、マーラ山内さんご夫妻と食事をする機会に恵まれた。たいへん知的でユーモア溢れるお2人だ。私が今年1月の大阪国際女子マラソンで優勝した時の、マーラさんの迫力のある走りについて言及すると、「でも、テレビで観た感じが怖かったらしく、義母から『サングラスを外したら』と言われたの」とマーラさん。すると「サングラスを外したらもっと怖いよ」とご主人。こんな調子で爆笑の連続なのだ。
4月20日のプレ大会で北京のコースを走ったマーラさんは「北京五輪のコースは、大阪のコースに似ている」と話した。北京に向け、様々なレース展開に対応できるよう、合宿中、シドニーとアテネの五輪や、世界陸上などのVTRを観て、研究しているそうだ。
「走思走愛」を信条とするチームが家族のように一丸となって支えている野口みずきさん。そしてご主人がコーチとして全面的に支えているマーラ山内さん。共通しているのは、北京五輪のレースのその時間に最高の状態で臨めるよう、全精力を傾けていること。スイスの晴れた空のように、一点の曇りもない。
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