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Road to 北京

この夏、大阪に注目 増田明美さん(下)

(05/09)

 北京五輪へ向けて、最初の選考レースとなるのが、8月に開催される世界陸上大阪大会のマラソン。ゴールデンウィーク中、「世界が見つめる9日間」と題して開催記念シンポジウムが大阪で開かれた。小谷美可子さん(元シンクロナイズドスイミング選手、ソウル五輪銀メダリスト)が基調講演の中で、現役時代のご自身の「特別な体験」について語った。それは「ピーク・エクスペリエンス」というもので、水の中に入っても苦しくない、いつまででも泳いでいられるという、観客の声援やすべてのものが自分にエネルギーを与えてくれたような体験。

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 引退後、小谷さんはリポーターとして携わった世界陸上で、マイケル・ジョンソン選手(米・200m、400mの世界記録保持者)に会い、自身の体験を語った。すると彼は「ボクもアトランタ五輪で世界新を出した時、台車のようなものに乗って坂を下っていくような感じだった。ゴールしてもそのままいくらでも走っていけそうだった」と話したという。

 マラソンの世界でいうランナーズハイとは違う。ランナーズハイは肉体を限界まで追い込んだ時になるものとして、科学的に検証されている。でもピーク・エクスピリエンスは、心が体の限界を超えたときに起こる現象で、科学で検証されていない。人間の潜在能力が計り知れない事を物語るものだ。だからこそ小谷さんは「大阪では選手達のために、みんなで創る一瞬を大事にしよう」と語ったのだった。

 何と言っても大阪の「売り」は笑いのセンスだと思う。どの国のどの都市を見ても、大阪のような「笑いの文化」はないだろう。おもてなしの心や、人を元気にしたいというサービス精神をスタジアムや沿道での声援に表して欲しい。

 その声援を受け、9月2日に行なわれる女子マラソン。代表選手5人のうち、特に順調にトレーニングを積んでいるのが土佐礼子さん(三井住友海上)だ。中国・昆明での合宿を中心に、大阪の暑さに備えて、6月下旬からは沖縄・宮古島の合宿も予定している。彼女の地道さはマラソンの性質にあっている。どんな状況でも静かな心で一日一日を積み上げていく。冷静さ、粘り強さ、安定感が備わったいぶし銀の選手だ。監督の鈴木秀夫さんは「メダルを取って、そのまま北京へつなげたい」と話す。土佐さんも「暑さは私には有利」と話しながら、準備期間が短かった(3月の名古屋で切符を取り、5カ月間)アテネ五輪での5位入賞に自信を持っている。世界陸上での最大のライバルは誰かと聞くと、中国の周春秀選手を挙げた。先日のロンドンマラソン(優勝・2時間20分38秒)の走りが強烈だったようだ。「まともにいったら彼女。でもすごく暑くなったら、私にもチャンスがある」と土佐さん。

 5月上旬、菅平で合宿中の野口みずきさん(シスメックス)は世界陸上を回避した。でも周さんに対しては、土佐さんと同様、「強いですねー」と北京五輪でのライバルとして気にかけている。以前、中国・昆明で合宿をした時、練習で会ったそうだが、周さんはナショナルチームで常に男子選手の中に一人で入って練習していたそうだ。また、2005年夏に野口さんは韓国・サムソンチャレンジ5000mで周さんと対戦している。4600mまでレースを引っ張った野口さんを、周さんは最後の400mで追い越し、5〜6秒の差をつけてゴールした。「瞬間に切り替わるスピードが怖いくらい」と野口さんは話す。

 小学生の時から陸上の英才教育で競技力を向上してきた周さん。確かにロンドンマラソンの走りは圧倒的なものだった。世界記録保持者のポーラ・ラドクリフさん(英)は、今年1月に第一子を出産し、世界陸上は1万mかマラソンかはまだ決まっていない。マラソンへの出場が決まれば、周さんとの対決が楽しみだ。

北京五輪への第一歩がこの夏、大阪からスタートする。

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増田 明美(ますだ・あけみ) スポーツジャーナリスト

 1964年、千葉県生まれ。成田高校在学中、長距離種目で次々に日本記録を樹立する。1984年のロス五輪に出場。1992年に引退するまでの13年間に日本最高記録12回、世界最高記録2回更新という記録を残す。現在はスポーツジャーナリストとして多方面で活躍中。2006年にはタイ・プーケットでマラソン大会を開催し、スポーツによる国際交流にも注力。大阪芸術大学教授、文部科学省中央教育審議会委員、新健康フロンティア戦略賢人会議委員なども務める。

公式サイトは「増田明美's Home page」 http://www.akemi-masuda.jp/別ウインドウで開きます

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