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Road to 北京

中国人の思考をつらぬく「風水」 田代秀敏さん(1)

(05/23)

 日本も韓国もオリンピック大会を開催した翌年に高度成長が失速した。「中国も北京五輪の翌年に高度成長が急停止するのでは」と日本人は考えがちだが、中国人は北京五輪で中国の「金運」を高めればよいと思考する。

地図2008北京オリンピック会場配置図(中央の天安門の真北にメインスタジアム)

 中国人のあくまでも強気の思考をつらぬくのは、風水(ふうすい)である。日本の風水は鬼門封じを主眼とする。だが中国では、鬼門は東北の別名にすぎず、人工の建造物で気の流れを変え、自分の運勢を高めるのが主眼である。たとえば、上海のシンボルでありアジア一の高さを誇るテレビ塔の東方明珠広播電視塔は、上海の気の流れを調整するように、風水に沿ったデザインで建てられている。

 風水の気は北の山に集まり、そこから地下を辿(たど)って南に流れる。北京の中心にある旧皇居の紫禁城の北には人工の小山が昔から築かれ、そこに集まった気が紫禁城に送られた。北京五輪のメインスタジアムは紫禁城の真北約20キロの地に風水に沿ったデザインで建設され、そこに集まる世界のアスリートたちの気は、紫禁城そしてそのすぐ南の天安門広場に送られる。広場の南奥には毛沢東のミイラが祀(まつ)られている。毛沢東の肖像は中国のどの額面の紙幣にも入っている。こうして北京五輪が集めた気は中国の紙幣に込められ、中国経済の運勢をますます強める…と中国人なら思考するだろう。

 今年の干支(えと)の猪は日本ではイノシシだが中国ではブタ。中国でブタは利殖の象徴。だから貯金箱はブタの形。60年に一度の「金猪年」にあたる今年生まれの子供は特に金運に恵まれるとあって、中国人民銀行は記念のブタ金貨を発行し、中国の産科はどこも出産入院予約で一杯になっている。中国とは逆に日本では、60年に一度の丙午(ひのえうま)の1966年に、丙午生まれの女性は気性が荒いとされ、出生率がその前後の年よりも三割近く低下した。中国人は明るい展望に影響されやすく、日本人は暗い展望に影響されやすいと言える。

 投資行動も対照的である。日本の投資家はレバレッジを捨ててでもリスクを避けたがるが、中国の投資家はリスクを積極的に取ってレバレッジを効かせようとし、日本の管理ポスト銘柄にあたるST銘柄を最初に物色する。株価指数が下がると日本人の投資家は狼狽(ろうばい)売りに走りやすいが、中国人の投資家は「株のバーゲンセール」とばかりに積極的な買いに走りやすい。だから、2月末に上海で10年ぶりの暴落が起きても、株価はすぐに回復した。

 中国は中国であって日本ではない。北京オリンピックで日本人は、そのことを思い知るだろう。

顔写真

田代 秀敏(たしろ・ひでとし) エコノミスト

 福岡市生まれ。一橋大学経済学部卒業。一橋大学大学院経済学研究科で経済学修士号を取得。一橋大学国際共同研究センター研究員などを経て現職。著書に、賀暁東と英華との共著『沸騰する中国経済』(中公新書ラクレ)。『文藝春秋』2007年5月号の特集「中国経済 七つの恐怖」を企画・執筆。

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