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北京の焼き芋 可越さん(中)

2008年1月22日

写真可越さん写真焼き芋写真東京タワー

 2008年の新年を迎えた。中国の年だと言われるほど世界中が北京オリンピックに注目している。テレビや新聞などのマスメディアも動きはじめ、中国での報道態勢を急ピッチで整えている。日本ではテレビやラジオ、新聞、ネットを通じて、五輪の盛り上がりを味わう人も多いだろう。

 先日あるテレビ番組の収録で、友人が1人のスタイリストを紹介してくれた。

 40代半ばで、明るくしゃきしゃきした日本人女性である。私の服のサイズを測りながら、自然に中国の話になった。

 ――中国へ行ったことがありますか

 「行きましたよ。つい最近。去年の12月、北京へ行ってきました」

 彼女は元気な笑顔で答えてくれた。

 ――そうですか。初中国ですね

 「いや。実はね、10年前にも仕事で何回か上海に行ったことがあるのです。でも、とにかく、人が多くて、街が混雑して…。正直言って、中国って苦手だなと思いました。それっきり行ってなかったのです」

 ――そうですか。10年前だったら、確かにそうでしたね

 私は笑って頷いた。

 「でも今回は違いましたよ。自分でも驚くほど中国が大好きになりました」

 ――本当に? なぜですか

 興味津々に聞いてみた。

 「いや、あの焼き芋に参りました。北京の焼き芋、最高ですね!」

 ――え? 焼き芋? だって日本の焼き芋もとても美味しいじゃないですか

 「いや。違います。全然違いますよ」

 彼女は大きく頭を振って反論した。

 「味がぜんぜん違いますね。北京のあの焼き芋、本当に感動するほど美味しかったです。オレンジ色の中身で、とろとろとした甘く、まろやかな食感。いままで口にしたことがない、最高の味でしたよ」

 彼女はこう話しながら、本当にたまらない、という表情を浮かべて嬉しそうに話してくれた。

 ――そうですか。苦手だった中国が、焼き芋1個で大好きになったのですか

 「そう。そうなのです。なんとなく、焼き芋から、北京の人々の親切さや道路の綺麗さがよくわかり、中国という国が理解できたような気がします。そうしたら、これまでの否定的な考えが改まり、中国がとても身近な国になった感じがしました」

 そして笑いながら、

 「北京から戻ってきたら、ぜひ中国の人に会ってみたいと思うようになりました」

 なるほど。私は納得した。実は私も同じような体験がある。

 私は学生時代に中国の大学で日本語を勉強し、日本の文化と生活はテレビや本を通じてある程度理解したつもりで来日した。

 ところが、実際に日本に来てみたら、メディアでは報道されないようなたくさんの出会いや驚きがあった。

 小さな例をあげると、東京に来たばかりのころ、冬にスカートをはいた私は東京の電車の椅子が暖かいことにすごく感動した。多くのホームにトイレがあって便利なことにも感心した。更に自転車置き場のおじさんが丁寧に道を案内してくれたことにも。

 日本人にとってごく当たり前のようなことなのだろうが、外国人の私から見ると、新鮮で面白い出来事の連続だった。小さな出会いを通じてこの都市、この国に対する親近感を肌で感じることができた。それは決して本やメディアで紹介されるほどのものではない。

 オリンピックまでもう間近だ。

 羽田空港からは北京、上海へ直行便が飛んでいる。わずか2時間半で、中国へいけるのだ。東京都の一番端から成田空港までの乗車時間より短いかもしれない。それほど中国が近くなっている。各航空会社は中国便を増やし、バス並みに中国へ飛び、航空券料金も日本国内の旅より安い時がしばしばある。

 人類最大のスポーツイベントは、スポーツそのもの以上に、世界の人々のふれあいの場として提供されている。中国に対する先入観があってもかまわない。オリンピックの時期でなくてもかまわない。この世界中に注目される中国年に、ぜひ、一度、中国を訪ねて欲しいものだ。

 旅は不思議なものである。異文化と異文化がぶつかる、意外性の楽しみがある。

 中国の土を踏み、低い目線で人と文化を確認し、口で味わい、耳で聞き、友人を作り、五感で中国を感じてほしい。それはきっとメディアから伝わる「情報」ではなく、自分の五感で感じた「体験」である。必ず素晴らしい一生の思い出が生まれるはずだ。

 百聞は一見にしかず。たとえ焼き芋1個を食べに行くだけでも。

顔写真

可越(コー・ユエ)さん 日中コミュニケーション(株)代表取締役

 1973年、中国・長春市生まれ。94年に吉林大学日本語学科を卒業し、来日。埼玉大と東大でメディア論などを学んだ。インターネット放送局「東京視点」(http://tv.people.ne.jp)代表。04年にテレビ番組の版権代理、番組制作などを行う「日中コミュニケーション」を設立、日中交流を精力的に進めている。


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