川底下村の四合院(上)
文・写真 于 前
北京市内から西に向かって郊外へ車で2時間程行くと川底下という村がある。そこに400年以上の歴史を持つ四合院がほぼ完全な形で残されているという話を聞き、私は姉の一家3人を誘って、車で村を探しに行った。地図もなく、村の位置も正確に知らなかった私たちは4時間以上も車を走らせ、山を越え、また山を越えて、ようやく門頭溝の川底下村にたどりついた。
予想もしなかった光景が私たちを歓迎してくれた。村に入るだけでもお金を払わなければいけないのだ。一人20元で、車も含めると100元が一瞬で消えた。長い時間をかけてやっと着いたのに、歓迎してくれたのは村でも村民でもなく、入場料を払う入り口だけだった。
何度となく目を凝らしてもまったく特徴のない人工的な入場券売り場に立ち、私は感心した。「『資本化された』村らしく、お金の箱を持って、何とも現代化らしい特色ね!」。ブツブツ言う私を見て、姉はイライラした。「今の世の中でお金が要らないところがあるなら教えてよ!」。
村に入り、私は1枚の鉛筆画のような景色を眺めていた。きめ細かい線の中心に色を付けたような景色は、過去の光景が現在の世界に入り込んだようで、私の目の前はキラキラと明るくなった。山の上にある四合院式の建物は、山並みの中で横になっているようだ。すべてがのんびりして、すべての調和がとれている。
緩やかな坂道を通ると、ひとりの少年が道はずれに立って、カメラを持っている私を観察していた。少年のユーモラスな大きい耳が2つ、好奇心を持ってピンと立っている。私がカメラを出して写真を撮っても、少年は怖がらずに私を観察している。
「ボクは何歳? あなたの耳は何かを語っているようで、可愛いですね!」
少年は怖がりもせず首を振った。
「ボクはもう学校に行っているんだ。毎日、この耳のせいで悩んでいる。大きいから蚊はいつもボクの耳を追いかけてくる。どうすればいいのかな?」
誠実な目で見つめられながら大きな悩み相談を受けて、私はこの子の無邪気な言葉に上手く言葉が出ないまま、ついに笑ってしまった。私はこの少年の悩みを聞きながら、何となく羨ましく感じた。
貯金箱みたいな村の入口を入っても、強引に何かの商品を売ってくるような人もいない。少年のように自然の中で育つ純粋な子どももいる。、私はこの村をもっと知りたくなって、一泊することに決めた。
村民の話によると、この村は明・清時代に作られた四合院がそのまま残っている。四合院は現在、76戸あるが、村民が住んでいるのは13戸だけ。週末や連休となると、北京市内から来る観光客の数が村民より多くなるらしい。
宿泊できる四合院もあり、門の前に立てた大きな看板には、番号を書いた札がついている。基本的に誰の家でも自由に見学できる。誰の家に行っても値段は同じ。たったの10元でびっくりするほど安い。
部屋選びというのは実際楽しいことだ。ひとりの若い女性が「自分の家は内装が新しいから、清潔で日当たりもいい」と勧めてくれた。部屋のドアを開けると、姉はすぐに溜め息をついた。
「こんな内装はバカバカしいわよ! 村の魅力は古さでしょう? 部屋の中に田舎の雰囲気がないなら、泊まってみたいという気持ちもなくなるのよ。あなたはこの部屋で一番価値があるものを壊したのよ」
若い女性は戸惑った表情を浮かべ、返答に窮していた。
私も姉のきつい言い方に驚いた。私は、日本から中国に帰るとマッチ箱から飛び出たマッチ棒のようになる。何かきっかけがあるとすぐ火を飛ばして、燃えてしまう。中国のこの十数年の変化の激しさは毎日、私を刺激している。
耳が大きな少年の落ち着き払った表情。古い家を懸命に努力して変えようとする女性のひどく混乱した顔。姉が突然見せた怒りの目つき。偶然とも言える一瞬の出会いに、私の心はひどく揺れ動いていた。
(02/10)