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漫歩寄語

盧溝橋の石獅子(上)

文・写真 于 前

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 まもなく北京の西単で開業する「109」が私の最大の関心事だった。日本の「団塊ジュニア文化」で生まれた「109」が中国でどのような流行文化を巻き起こすのか。想像すれば想像するほど楽しみで、心から期待していた。

 この春にもオープンすると聞いていたので、今回、北京に帰ったら109で買い物できると思うと、心からワクワクしていた。西安から北京に戻る途中、早まる気持ちを北京にいる友達に伝えようとした。でも、向こうの反応は109ではなく、次々に出てきては止まらない質問の嵐だった。

「どうして今? 中国に戻ったの?」、「日本はもう、中国人にとっては安全ではない国かしら?」、「于さんて。日本の街で歩くと中国人だと直(す)ぐバレルの?」……。

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 北京で反日デモがあったことはこの形で私の耳に入った。実家に戻って早速、インターネットで日本語のニュースを見てやっと詳細が分かった。日本人の友達からのメールも既に届いていた。「日本人に間違われないように気をつけてね!」

 私は笑いたいような、泣きたいような気分に落ちた。中国人も日本人も、同じような反応をしてくれたからだ。2倍の温かみを感じる一方で、私はまた2重の空洞感を味わった。中国のテレビからは、デモに関する映像が一つも見えないので私はイライラした。また、日本のテレビでは、中国人の「反日」映像が繰り返し流れていると聞き、気分がムシャクシャした。

 北京の街に歩いても、特に変わりなく見えた。普段と違うのは、特定の場所に配置されている警察官が増えていることだ。「109」へ行ってみると、そのビルはまだ工事中で、派手な広告看板に描かれている茶髪の若い女の子の笑っている表情は、どこかで泣いているようにも見えた。意外なことに、私は看板の女の子に同情し始めた。「この週末はどうなるのか?」。私の頭の中もこの質問で溢れていた。

 「真実な瞬間を見逃した」という“同情”から、友人のYさんが週末、車で北京観光の旅に私を連れて行ってくれた。天安門広場も、北京・中関村のITモール「海龍大廈(ビル)」も、警官とパトカーで厳重警備の準備をしている。それを見ると私は市内から出たくなった。

 「そう、郊外へ遊びに行こう。盧溝橋がいいのでは?」。盧溝橋へは10年前に行ったことがある。今の盧溝橋がどうなっているか、突然知りたくなった。

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 800年近くの歴史を持つ盧溝橋は、かつての有名な燕京八景の一つでもある。北京の諺に「盧溝橋の石獅子(こま犬)の数は数えきれない」というのがある。

 夕方、橋のたもとに立つと、斜陽が西に沈んでいく。艶やかな月光の中、恋人と散歩しながら石獅子の数を数える。乾隆帝の御書「盧溝曉月」の四文字が彫られている東側の石碑で記念写真を撮ったら、どんなにロマンチックだろう。一方で、中国人は小学校1年生から「七七事変」(盧溝橋事件)を学ぶので、盧溝橋は日中戦争が勃発した場所としてもよく知られる歴史教育の場所だ。

 残念ながら、10年前に私が初めて盧溝橋へ行ったのは、夢見る恋人と一緒ではなく、ある日本人の案内役として行ったのだ。盧溝橋へ向かうYさんの車の中で私は、ずっとその時の思い出に浸っていた。

 当時、日本人の口から「盧溝橋へ言ってみたい」と聞いた時、私はかなり戸惑った。恋人と一緒に盧溝橋で石獅子を数えるなら。楽しい時間が想像できるが、日本人と一緒に盧溝橋を歩いたら、何を話しすればいいのか。その頃の私にとっては、どう考えても想像できないものだった。

 あの頃はまだ道が悪く、車で往復3時間かかった。気分も悪かったのだろう。あるいは日本人と一緒ということで気まずかったせいだろうか。10年前の盧溝橋は、荒涼とした印象だけを私の記憶に残した。今の盧溝橋はどうなっているのだろうか。(次回に続く)

(05/30)





于 前(YU QIAN)

中国北京生まれ。フォト・ジャーナリスト。現在は東京を拠点に、中国大陸、香港、台湾の雑誌などに日本をテーマとした記事や写真を発表している。著書に「チャイニーズレンズ」(竹内書店新社)。



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