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漫歩寄語

北京のイスラム 牛街(上)

文・写真 于 前

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 頭の隅に、ぼんやりとしているが、忘れられない風景がある。心に残る思い出に結びついて溶け込んだ瞬間、その風景の輪郭が浮かび上がってくる。気持ちが満たされず、その原因を探していると決まって、この風景が脳裏をかすめていく。

 日本に来た当初、目立つ行動をして変な目で見られることが多かった私は、いつもどこかで自分の気持ちを調整しなければいけなかった。気分を抑え込む私の頭に浮かぶのはいつも、北京の「牛街」という場所だった。

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 牛街は北京の宣武区にある。北京で育った私だが、この街は数回通り過ぎたことがあるだけだ。それでも、日本に来たばかりの私が、この街に親しみを抱いていたことには理由があった。

 その街は、日本と中国の違いがわかりやすく説明できる場所だった。北京で最も古い清真寺(イスラム寺院)もあり、どの店に行っても豚肉は売ってない。1万人以上の回族だけでなく、23にも上る民族の人たちがこの街に暮らしている。お互いに違うのは当たり前だ。

 56の民族が暮らす中国で生きる私たちは、小さい時から違う民族の人たちと仲良く付き合う方法を、必ず誰かに教えられた。例えば、回族の子に会った際に「どうして豚肉を食べないのか」と聞いたら失礼だとか、「どうしてあなたは、私より肌の色が濃いのか?」などといった質問は良くないとする教育を受けた。

 子どもの場合、国家が宣伝している「民族団結」といった大きなテーマの深い意味は理解できない。しかし、自分と違う人たちは必ず、何か特別な知識、彼ら独自の霊感を持っていると私は信じていた。

 学校では、同じグラスに必ず1人か2人、回族の子どもがいた。高校で初めて、牛街に住む子と同じ教室で勉強した。その子もまた、強い個性を持っていたので印象に残っていた。

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 今回、北京に帰って初めて、ゆっくり牛街をブラブラ歩き回った。この小さな旅で、私のいい加減な説明が、意外な一幕を開いた。

 方向に弱い私は、タクシー運転手に目的地を詳しく説明できず、「牛街の一番、特徴的なところで降ろしてください」と頼んだ。その結果、東西南北の方向が分からないまま、突然「降りていいよ」と言われた。

 仕方なく降りると、そこには初めて見る「中華民族の大団結」の標語と少数民族が踊っている絵が掲げられ、その下には新しくて広い大通りが見える。黄色い高層マンションと重ねると、その景色はまるで子どもの頃に遊んでいた積み木の上に描かれた絵のように分かりやすく、鮮明で人工的だ。

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 タクシー運転手もここが牛街の一番分かりやすい場所と考えていたのだから、この新しい街の設計を担当した人も、火のように熱い心を持って、ここを「先進街」としてデザインしたのだろう。

 私は後悔していた。これまでにいくらでもチャンスがあったのに、なぜか1枚も古い牛街の写真を撮ったことがなかったのだ。

 感傷的になっているところに、ひとりのおばあさんが声をかけてきた。(つづく)

(06/21)





于 前(YU QIAN)

中国北京生まれ。フォト・ジャーナリスト。現在は東京を拠点に、中国大陸、香港、台湾の雑誌などに日本をテーマとした記事や写真を発表している。著書に「チャイニーズレンズ」(竹内書店新社)。



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