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漫歩寄語

北京のイスラム 牛街(下)

文・写真 于 前

(前回のあらすじ:筆者が日本に住み始めたころ、いつも思い浮かぶ北京の街があった。「牛街」というその場所は、回族をはじめ23にのぼる民族が暮らす。久しぶりに訪れた牛街で、ひとりの老女に声をかけられる)

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 「お嬢さん! あなた凄い子ですね!」

木陰の下で座っているお婆さんが私に声をかけてくれた。白い帽子、長い顔、額の上にある大きなほくろがかなり目立っている。

 「あなたは凄い子ですよ! 私にはそれが見える。あなたは98歳まで生きて、ある日突然、ぱらっと死んでいく」

 手がかりがつかめない内容の話だが、お婆さんは続けた。

 「あなたのことを言っているのよ! 本当に苦労せずにぱらっと死んでいく。カメラを持っているそこの女の子!」

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 ぱらっと死ぬイメージを伝えようと、頭をグラグラと動かして説明するお婆さんを見て、私は「なんて慈悲深くて、優しい老人だ!」と心の底から笑ってしまった。98歳まで生きていられると言われて喜んでいるのではない。痛みも感じないまま「ぱらっと」死んでいくという話なら、どう聞いても本当に心地よいものだ。

 牛街の至る所に日光が降り注いでいる。一層の幸せを感じた。しかし、しばらく立ちすくんでいると、お婆さんは私をがっかりさせる言葉を口にした。

 「お腹が空いたので、お金をくれませんか?」

 「お金?」

 まさか? 優しそうに見えるお婆さんは、私を褒めてお金を取る目的だったの? そう思いたくない私は、お金を渡すと手を振って逃げ出した。

 

 一人で牛街を歩きながら、お婆さんの予言とお金の取り方のユーモアに感心した。

 なんとなく、中学校の時に、回族のAさんと仲良くなったきっかけを作ってくれた「餃子事件」を思い出していた。

 年末にクラス全員で一緒に餃子を作った時、Aさんのために豚肉が入っていない餃子も準備した。しかし、餃子を一緒にゆでたものだから、区別できなくなって、大変な「事件」に発展した。

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 普段から厳しい表情を崩さない担任の先生だが、まるで政治裁判にかけられたように緊張して、長い顔をさらに引き延ばて膨張しているように見えた。

 Aさんは、平静さを崩さず、クラス全員の前で説明してくれた。「私の母は漢族で、たまに母と一緒に外で豚肉を食べる。回族の人もそれぞれだし、自分は半分漢族。皆がこんなに大げさな態度に出ると、非常に困る」とハッキリ言ってくれた。彼女はこの率直な態度で一気にクラスの人気者になった。

 

 私は追憶の中でゆっくり歩く。色つきのチョコレートのように見えた新しいビルの間に、古い建物も見えた。その十字路にある自転車を修理するお爺さんの店はとても目立つ。店構えは小さいが、機能は完全に揃っている。

 私は、お爺さんの色んな道具を芸術品のように鑑賞して、写真を撮った。店の前を通る人たちは必ずお爺さんと挨拶を交わす。

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 「昼ごはん食べましたか?」

 懐かしい響きが聞こえると、この街が更に親切な場所に見えた。

 お爺さんは誇らしい口調で「もう十数年、ここで仕事をしている。私は回族だけど、どんな人間とも友だちになっている」と話した。自転車を修理するお爺さんの姿を見ながら、私は繰り返し、カメラのシャッターを押した。

 お爺さんは民族商店の場所を教えてくれた。高校生の時、クラスの女の子たちは牛街に住んでいるSさんに「牛街へ一緒に連れていって」と頼んだことがある。Sさんは「羊の匂いがきついと文句を言いそうで嫌だ!」と答えた。

 Sさんが心配した気持ちが、今になって理解できた。独特な匂いの牽引に従って、方向に弱い私も民族商店を発見できた。

 私は知っている。ある日必ず、一人の善良な人が「暮らしを改善するために、自転車修理屋もビルの中に入れるべきだ」と言い出すだろう。都市の人々は箱の中に隠れ、お金を出して酸素を吸い込んでいる。オリンピックを迎えるために、この街もさらに「理想化」されたものに姿を変えるだろう。

 マンションがどれだけ高く建っても、そこに住む住民は下に集まって、一緒に世間話をしながら楽しそうに交流する。ヒツジの肉の匂いは空いっぱいに飛び舞って、空気も熱くなっているように見える。

(06/28)





于 前(YU QIAN)

中国北京生まれ。フォト・ジャーナリスト。現在は東京を拠点に、中国大陸、香港、台湾の雑誌などに日本をテーマとした記事や写真を発表している。著書に「チャイニーズレンズ」(竹内書店新社)。



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