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漫歩寄語

お婆さんの胸の内(下)

文・写真 于 前


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●伝わってきたもの

 お婆さんの家は天壇公園から歩いて十分間もかからない場所にあった。日本に住んでいる私は中国の新しい花園式団地に入るのは初めてで、まるで子供が遊園地を訪れたように嬉しくなった。

 お婆さんは孫に教えるような口調で話しをする。「私は字をたくさん読めませんが、記憶は優れています。北京の古い呼び売りをする歌とかも全部覚えています」。話しながら、また歌い始め、リズムのって、家のドアをあけた。

 ビルの一階にあるお婆さんの家は、広い2LDKで、普通の中国人の家と違って家具はかなり少ない。

 私が期待していた場面は現れてこなかった。

 「家の主人を紹介します、死んでから7年も経ちます。」お婆さんは一枚の写真を見せてくれた。「私は一人暮らし、毎日好きなように生きています。今度天壇に遊びに来たら、家に泊まっていいですよ。」

 何を言えばいいか分からなくなり、私は黙った。

 「今日の昼ご飯は何?」背が高くて骨太の男の子が走って部屋に入ってきた。

お婆さんは笑ってリンゴを出して男の子の手に握らせた。

「孫です。上の階に住んでいます。」

 骨太の男の子は、私に頭を軽く下げて、何も聞かずに家から出た。

 私の固まっている表情を見て、お婆さんは更に説明をした。「私は息子夫婦と縁を切った。あの孫だけ毎日家に来て、何か食べて話をしてくれる。夫婦の息子のあの子は可哀想。考えるだけで涙が出る。」

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 お婆さんが自分の息子を語る時の目には、火が溜まっている。公園で知り合った優しそうな人とはまるで別人に変わった。

 「昔は貧乏だった。十数年前に自由市場で商売を始めてから、経済的に完全に立ち直り、自分の力で今の家まで買えた。ところが、旦那さんが死んで、息子とは大げんかをして口をきかなくなって以来、人生観が変わった。いまは仕事を辞めて、毎日公園で遊んでいる。自分が満足できるように、好き放題してから死んでいきたい。この家のお父さんとは違って……」

 お婆さんは抱え込んでいた苦しみを、全く知らない私に腹を割って話した。

 「でも、孫が毎日ここに来ることは、息子夫婦もお婆さんのことが心配で、間接的に知りたいのでは?」

 私の質問に、お婆さんは答えてくれなかった。

 「一人は楽しい、自分が食べれば全員満足」。お婆さんは笑って、たんすを開いて中の服を一つ一つ出して、説明しながら見せてくれた。「全部自分で作った、毎日違う服を着て、違う気分で公園へ行くことも楽しい。」

 私は段々分かった。私は何も言わない方がいい。お婆さんは誰かに言わないと、胸に溜めすぎてたまらないのだ。

 その後、お婆さんは料理を出し、私を連れて一カ月後に全部壊される予定の古い家まで連れていってくれた。

 でも、最後まで私の名前さえも、聞こうとはしなかった。

 多分その日は誰でも良いから、自分の悩みをしゃべりたかったのだろう。

どうして私のことを全く知らないのに、あんなに優しくしてくれて、自分の息子のことは「毒の言葉」で完全に否定にするか?

 お婆さんと離れた後、そのことを思い出すと私の心の中に喪失感が溢れる。

 お婆さんは、自分の息子との間で、何をきっかけにそこまで至ったかわからないが、人前で見せる元気な姿の内側には、無理が詰まっているに違いない。数時間の会話だけで全部を理解すること難しい。

 でも、一つだけ言える。そのお婆さんはよく知らない私に対して求めることがなかったから、素直になれたのかもしれない。その逆に、現実の身内に対して高い望みがあったので、失望したのではないだろうか。

(05/02)





于 前(YU QIAN)

中国北京生まれ。フォト・ジャーナリスト。現在は東京を拠点に、中国大陸、香港、台湾の雑誌などに日本をテーマとした記事や写真を発表している。著書に「チャイニーズレンズ」(竹内書店新社)。



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