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漫歩寄語

恐竜ビル

文・写真 于 前

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 明らかに人間社会を構成しているのは男性と女性であるにもかかわらず、今、中国では冗談で、三つの分類がささやかれている。男性と女性、それに「女性の博士」だというのだ。

 一時期、「美女の反対は“恐竜”」という話が若者を中心に言われたことがある。実物の恐竜は見たことがなくても、この言葉、漢字からイメージを膨らませると、女性には失礼ながら、思わず笑ってしまう。

 しかし、初めて北京大学の女性博士の宿舎が“恐竜ビル”のあだ名で呼ばれていることを聞いた時には、「ヒドイ」と思った。

 「恐竜」にはスゴ味も含まれる。頭がよく、強い女性は「スゴ過ぎる」ので「恐竜」と呼ばれてしまう。

 いつの間にか、「恐竜」という単語の意味合いが変わってきたのだ。女性博士は、二つの性別以外の特別な人種としてあつかわれようになってしまった。

 テレビ番組でも“恐竜ビル”を特集したほど話題になった。番組では、ワザワザ一人の気品があり、きれいな女性を最初に映し、語らせた。「私はここに住んでいます。でも趣味は多く、皆さんが想像しているような勉強しかできない特別な人種ではありません」

 それから、テレビカメラは反対側にある男性博士の宿舎を映し、いかにも地味な男性が、こう言い放った。「僕は女性の博士とは結婚したくないです」

 中国では、結婚相手の学歴を重視する習慣がある。男性は自分より学歴が低い女性と結婚したがる傾向が強い。

 そういうわけで、男性の博士は、結婚相手を選択する幅が広いが、学歴の高い女性の博士は、選択条件が非常に狭くなり、結婚が難しくなるのだ。

 友達のDさんは、今年9月に北京大学の“恐竜ビル”に入る。彼女は北京大学の大学院を卒業してから1年間就職したが、自分は将来大学の先生になりたいと思い、博士を目指す決心をした。ただ、Dさんは大学在学中に同じ学校の博士と恋人になり、“恐竜ビル”に入る前に結婚することも決めていた。

 Dさんは、北京に戻った私に、噂の“恐竜ビル”をガイドしてくれた。
 彼女はピンクのワンピース姿で、新しいかばんを持ち、ハイヒールをはいて、おしゃれをしていた。とても真面目な態度で私を歓迎してくれた。

 真面目!だから勉強も出来るのだ。

 “恐竜ビル”とはいえ、普通の宿舎であることはわかっていたにもかかわらず、見た瞬間「どこか違うな」と思った。

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 一人の女学生が、窓の下で猫にエサを食べさせている。私は近づき質問した。「猫の写真を撮らせてもらって良いですか?」

 猫は大きな目で私をにらみ、逃げようとはしない。
私はシャッターを切って、猫をほめた。「可愛いですね!」
「捨て猫です。やせ過ぎているでしょう!私は毎日食事をあげているのに。」彼女は視線を動かさずに喋る。
「やせ過ぎと言えるかしら?」私は納得できず質問した。
Dさんは笑って私の腕を引き、行こうとした。

 私は繰り返した。「この猫がやせすぎ?」

 Dさんは笑った。「彼女は猫を同情しているので、どう見てもやせて見えているのよ!」
私は言った。「このビルに住んでいる博士でしょうか?」
Dさんは「私を見てください。普通でしょう?」
彼女は、しっかりしている自分アピールし、人生計画を語ってくれた。
「私はすぐ結婚して、子供も作り、また留学するかもしれません」
「子供を育てることは大変らしいよ!」
「問題ないです。子供が生まれてきた日から毎日“パパ”という言葉を教えてあげるから」

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「どうして?自分の子には最初に“ママ”と呼ばれた方が幸せでしょう?」

 「全然、それは女性たちの間違いです。子供にママと言われたら、すぐに子供を抱いて面倒をみなければいけないでしょう。私は自分の子にパパと教えてあげる。子供は困ったらすぐパパと叫ぶし、お父さんも喜んで自分の子の面倒をみるでしょう。」

 「えっ?すごい発想ね」

 「自分の子に一番最初にママと呼ばれなくても、私が母であるという存在は変わりないです。パパと呼ばれることが原動力になって、男性は喜んで自分の子のために働いてくれるわ」

 私はDさんに向かって大笑いした。

 「きっと偏見だとは思うけど、やはりこの“恐竜ビル”に入る人はすごい!」

 (終わり)

(06/22)





于 前(YU QIAN)

中国北京生まれ。フォト・ジャーナリスト。現在は東京を拠点に、中国大陸、香港、台湾の雑誌などに日本をテーマとした記事や写真を発表している。著書に「チャイニーズレンズ」(竹内書店新社)。



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