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漫歩寄語

10年ぶりの台湾

文・写真 于 前

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 日本人はビザなしで気楽に行ける台湾だが、私にとってはまだ簡単に訪ねられる場所ではない。

 10月にその台湾への2度目の旅が実現した。初めて行ったのはもう10年前になる。その時は、ビザの申請だけでも3カ月もかかった。

 最初見た台湾の感動は、今になっても忘れられない。古い漢字、派手な看板、何だか懐かしい感じがした。中国大陸では「悪役」として定着してしまった蒋介石の微笑んでいる塑像を見た時には、しばらく現実と結びつけることができず、まるで映画の撮影現場に入ったような不思議な思いがあった。

 街を歩くと、「標準語」でしゃべる私はかなり目立ったようだ。「大陸から来たのですか?」「台湾で何をしているのですか?」「気をつけてくださいね」。無理やり私の手を握るお婆さんもいた。

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 10年の間に、台湾も大分変わってきたのでしょう。蒋介石に関する記念物は、街中からどんどん消え、街の名称も政権の変化によって変わってしまったという話を耳にした。

 10年の歳月が過ぎても、中国の国籍を持っていると台湾行きは難しい。さまざまな条件も増えた。ビザの申請代に1万9800円も払って、いろいろな質問を受ける「何か組織に参加していませんか?」「今までどこに住んでいたか?」などなど。保証人の資料、また一緒に行く人たちの個人資料もすべて出さないといけない。最後の注意事項を読んだ時には、思わず声を出して大笑いした。「台湾にいる間のスケジュールを1回変更したら、2000円の追加料金が必要になる」と書かれていた。

 えっ?本当に台湾についたら、毎日私の行動をチェックする人がいるのかしら?

 笑いつつも、うんざり! 台湾に対する気持ちの「温度」も半分ほど下がった。

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 そうこうしているうちに、運よく、出発する前日にビザが下りた。

 官僚たちと違って台湾の友人は皆親切。

 1カ月前から、台湾で何が一番見たいかと聞かれた。私は考えずに「古本屋」と言った。いまだからこそ、もっと知りたくなったことがたくさんある。蒋介石時代にどんな教科書を使っていたのか?中国大陸のことをどのように書いていたのか。蒋介石が書いた本や思想も勉強したくなった。

 私の願いを聞いて、台湾の友人は戸惑った様子で笑った。

 「いまさらどこで、そんなものを買えるかしら!」

 10年もの間、温めてきた思い出を胸に、私は台北に着いた。

 たぶん、10年前に台湾を訪れた感動と刺激があまりにもすごかったせいか、いまの台北には何だか淋しいものを感じた。

 人気スポットの超高層タワー「台北101」はほっそりしていて、周りには高い建物がまったくない。かえって小さい古本屋の方が親しみを覚えた。

 台北の古本屋の規模は大きくない。何軒探しても私の目当てのものは見つからず、付き合ってくれた友人は悔しそうな表情で言った。「昔なら、そのような本は実家に山ほどあったのに、学生の時に読まされて、テストでいい点数を取るために一生懸命暗記した。現在の台湾の人は興味がないのですよ」

 「たとえ政権が代わっても、歴史は歴史。少なくとも研究者はいるでしょう?」私の質問を聞いて、彼女は頭を振り、「研究者がいるかどうか。研究所の名前も変わったぐらいなので…」

 あきらめかけたころ、ある古本屋の地下室で探していた本を何十冊か見つけた。

 しかし、最後に値段の交渉が、また大変だった。

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 古本屋の奥さんは顔色ひとつ変えないまま計算機を出して、本に値段をつけた。まさか4500台湾ドル(日本円は1万8000円)の高値を提示するとは思わなかった。心の中で叫んだ「ヤバイ!私のことを大陸の金持ちに勘違いされた」

 納得いかない我々を見て、古本屋の奥さんの方が先に強気になった。「昨日も中国のある大学の先生が来て、値段も見ないまま1万台湾ドルの本を買って帰った」

 いずれ中国大陸の客が自由に台湾へ観光できるようになったら、この本の価値は増すのではないか?店の中で将来を見据えた分析が始まった。結局、私は4000台湾ドルで念願の本を買ってしまった。

 重い本を手にした時に私は今の台湾を思った。

 どこかに残っている矛盾を抱えているのではないか。

(10/27)





于 前(YU QIAN)

中国北京生まれ。フォト・ジャーナリスト。現在は東京を拠点に、中国大陸、香港、台湾の雑誌などに日本をテーマとした記事や写真を発表している。著書に「チャイニーズレンズ」(竹内書店新社)。



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