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漫歩寄語

南鑼鼓巷 もっとも北京らしい町

文・写真 于 前

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 もっとも北京らしさを感じさせるエリアがある。

 鼓楼の東に位置する「南鑼鼓巷」。700年の歴史を持つ胡同は、重要遺産として保護され、細い裏通りの古い町並みを眺めると、まっすぐな路地に時代を感じさせる古めかしい四合院の屋根やレンガが目につく。生活感あふれる下町の風景が残っている。

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 ここ数年の間に、南鑼鼓巷にもカフェやバーが増え、静かに変わりつつある。古い町並みをうまく利用した商業開発は、裏路地の魅力を引き出し、北京の中で成功した町づくりのひとつだと、私は思う。

 古い民家を再利用した店は、素朴で落ち着いている。また騒がしく響く音楽も、客を呼び込むための叫び声もなく、商売の色が薄いところが、ここの一番いいところなのだ。

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 季節によらず、胡同の下町を散歩すると、静寂さに包まれた雰囲気を味わうことができる。

 住宅のような店に入って、コーヒーを飲みながらじっといるだけで、満足できる。

 この冬、私は日本人の友人を連れて南鑼鼓巷を訪ねた。店に入り、ソファに座って外を眺めている友人を見た時、私の頭の中で多くの思い出がめぐった。

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 初めて南鑼鼓巷に興味を持ったのは10年前。よく映画の撮影に使われる場所として、友人に紹介された。

 その友人の知り合いにRさんという人がいた。中国の南の都市から一人で北京にやって来た彼は、かなりの貧乏学生だった。彼にとっては小さな部屋を借りるだけで精一杯。靴も一足しか持っていない。初めの引越しの日は、私と友人で部屋を見に行った。

 Rさんの新居に入ってすぐ、私は思わずカメラを出して写真を撮った。部屋の壁には派手なピンク色の紙が張ってあり、半裸の女性を写したカレンダーが目に入った。さらにカーテンもピンク。ピンク、またピンクなのだ。悪趣味の男性がこの部屋を使っていたのだろう。私は「全部はずしたほうがいい」と勧めたが、Rさんは反対した。

 「趣味の合わない空間で生活すれば、これから頑張ってもっといい暮らしをしなければ、と力がわいてくる」

 Rさんは部屋の中で唯一の家具である腰掛けを出し、カップラーメンにお湯を入れて笑った。

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 その後、北京に住んでいるRさんに連絡をすることがあった。仕事に成功して結婚し、家も買って、すでに南鑼鼓巷を離れていた。

 温かいコーヒーを飲みながら、私はこの話を日本の友人に語った。

 「その後どうなったの?」。友人は興味を持って続きを聞いた。

 「Rさんに会ったら、頭の中で『バブル』という言葉が浮かんだ」

 「どうして?」

 「再会する30分前に、突然Rさんから電話が入ったの。今の彼女を連れていくから、前の奥さんの話はしないで、と言われた」

 「いまは幸せなのでしょ?」

 「楽しくてたまらないように見えた。私は余計なことを言うまいと思って、あまりしゃべれなかった」

 話をしながら、Rさんは自信満々に言った言葉を思い出した。「いまの私は、もう服に合わせて靴を選ぶようになったよ」

(01/07)





于 前(YU QIAN)

中国北京生まれ。フォト・ジャーナリスト。現在は東京を拠点に、中国大陸、香港、台湾の雑誌などに日本をテーマとした記事や写真を発表している。著書に「チャイニーズ・レンズ」(竹内書店新社)。



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