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知らなかった中国の姿

2007年07月04日

文・写真 于 前

 日本に来て最初のころだった。テレビに流れる中国の光景を見て、驚くことが多かった。まず、目を疑ったのは福建省の難民が船で日本にやって来た場面だった。今だから言えるが、中国では一度もこのような話を耳にしたことがなかった。このシーンを目にして、私には現状を受け入れる心の余裕が必要だったほどだ。

 「また来たか」。こんな日本の人の笑い声を聞いた時に、私はどんな表情をすればいいのか。かなり、戸惑ったのは事実だ。それでも、アルバイト先の日本人は私を慰めるように言った。「于さんは彼達と違いますよ」

 まるで唐辛子が喉の中に挟まっているような心境だった。

 吐けないし、飲み込めない。

 私はこれまで知らなかった中国の一面を、日本に来てから知ることになったのだ。

 不思議なことだが、長く日本に生活している私は、今の中国を見るたびに「なるほど中国らしい」と感心してしまうことが多々ある。

 

 しかし、今では昔と違って、当然のように安心して受け止める心の余裕を感じるようになった。

 

 去年西安に行った時、観光地のお土産屋で大笑いした。

 西安は有名な観光地だが、意外に商売に慣れていない人が多い。

 バスを降りるとお土産を抱えて売りにくる人が集まってくる。困ったことに、買う気がないことを強く示すと、更に追いかけるような行動に移るのだ。追いかけられるのが恥ずかしいと思った外国人は、とにかく追い返すために金を支払う。こんな心理を巧みに利用した商売なのだ。

 

 私は絶対に買わないと思っていたが、ここで私は「三個代表、三個代表!」と大声で叫ぶおばさんに出会った。(三個代表とは、中国共産党で\菴陛な社会的生産力の要請∪菴陛文化の発展9範な人民の根本的利益のことを指す。)

 硬い政治言葉を叫んで、どうやって売るのか。疑問を抱いた私は、おばさんが手にしている土産を見て、涙が止まらないほど笑ってしまった。

 

 なんと「見ざる、言わざる、聞かざる」で有名な「三匹の猿」ではないか。

 土産は粗悪品だったが、一緒にいた友達は次々とお金を出して、その「三個代表」を買っていた。ユーモラスな発想に座布団十枚をあげようかと思うほどだった。

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 こんな言葉を使って商売をやるなんて、20年前なら全く考えられない話だ。中国も色々な意味で変わったのだ。その変化の一面を見て、私はうれしくなった。

 

 確かにユーモアの視線でものごとを考え、今の中国を見たら興味深い話が次々と出てくる。

 今年の正月、北京では爆竹が解禁された。爆竹が鳴り響く町を見てみたいと、わくわくしながらあえて旧暦の大晦日に帰った。午前0時になると北京の夜空が明るくなり、パチパチいう爆竹の音が天まで響く――。そんな想像をしながら、胸を高鳴らせていた。

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 ところが考えが甘かった。爆竹なんてもう古いのだ。北京はまるで花火大会をやっているように、とてつもなく盛り上がっていた。各家庭がキャリーケースのような大きな花火を買って派手に花火をやって、自慢しあうのだ!

 

 黄、緑、赤、紫―――無数の色が夜空を染め上げた。

 そのパワーに圧倒され、陶酔していた時、目の前の建物が燃えだした。集まって野次馬になってただ見るだけでの人もいれば、消火活動に飛び回る人も。それでも大勢の人が火を消してくれたが、私には人間の心が燃えさかっているように思えるほどエキサイティングだった。

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 その後も中国人の私にとって、中国での新しい発見が毎日、続いた。

 

 北京の公園で開催される新年を祝う祭りに参加した時だった。公園の門に入ったとたん、大笑いしてしまった。入場券を買うために並んでいたが、あと一人で買えるところまできた時に、入場券の売り子が突然、何も言わないで逃げ出したのだ。

 

 「どうして逃げるの」。並んでいた客が文句を言うと、売り子も言い返した。 「だって、おしっこが漏れちゃうもの」。走り去る売り子を見て、あちこちから笑い声が聞こえた。

 

 さらに「中国らしい」場面を公園の中で目にした。

 公園は土産やおもちゃの市場のようなにぎわいになっている。人面マスクを高く掲げ、店員が大きな声で呼び込みをしていた。

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 店員がかぶっているお面はなんと、イラクのサダム・フセイン元大統領。左手には米国のブッシュ大統領、右手にはオサマ・ビンラディンを抱えている。

 

 これを買った人はどうするのだろう。驚くと同時に、疑問を感じた私は、しばらく観察してみた。やはり一番人気はフセイン。

 私はフセインのマスクを買った男性を追いかけた。なぜ、このお面を買うのか。どうしても、理由を聞きたかったのだ。

 いったん、人の群れの中で彼を見失ったが、公園から出た時に思わず笑いがこみ上げてきた。

 フセインがそのままマクドナルドに入って行く姿が目に飛び込んだ。

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