中国を覆う株の魔力2008年01月13日 「日本人がたくさん中国株を持っていれば、日中関係も自然に良くなるはずだ」 日本人の友達からこんな話を聞いた時、しばらく考えこんでしまった。
株の話になると私はいつも頭が混乱する。 小さい時に受けた社会主義教育では、株は資本主義のシンボルだった。株はお金のためにやるもので、投機している人間は社会の寄生虫であり、腐敗そのものだという考え方に縛られていた。 中国で株がはやり始めた当時、私は日本にいた。昔、黒といわれたものが、大人になってから、突然、白になったのだ。そのショックは言葉で説明できないほどだった。 北京に帰った時、証券新聞で働く友人に頼んで、証券会社へ連れて行ってもらい、株取引をする人たちの写真をたくさん撮った。あまりにもシャッターを押すので、一緒にいた友達もビックリしていたほどだ。 「何を撮っているの? どこが面白いの?」 質問攻めにあったが、何を撮りたいのか、何を撮るべきなのか、実は私にも分からなかった。ただ、夢中でシャッターを押し、株を買う人達の後ろ姿を撮り続けた。シャッターを押すことで、理解できない部分を無理に理解しようとしたのかもしれない。 その後、その友人は株で大儲けして、北京にマンションを3軒買ったという。それでも、私は一度も羨ましいと思うことはなかった。 日本のバブル時代を見た私は、しばらくして再び中国で同様のバブルを見たことになる。しかし、最近、考えが少し変わってきた。少なくとも自分のお金を使って株を運営することは別に悪くないのでは、と思うようになってきたのだ。 どうして中国では猫も杓子も株をやるのか? お年寄りも株をやる。この過熱ぶりを日本人の友人はどうしても理解できないという。 考えてみると、中国の株は中国の文化と人間関係が密接に繫がった延長線上にあるようだ。 例えば中国の株は金曜になると少し下げ、月曜になると上がる傾向があるという。なぜなら、中国の人たちは週末になると親戚中でワイワイと集まるのが大好きだからだ。大家族で盛り上がっている席で、何の株を買ったらよいか、みんなの意見を聞き、その銘柄を週明けに買うケースがあるのではないだろうか。
ついに私も心を決めた。一度、銀行へ行き、日本へ戻る前に銀行口座を作って、まずファンドを買おうと思い立ったのだ。初めての投資金額は1万元。日本円で15万円ぐらいだ。 銀行で1時間、待たされた後、私の順番が回ってきた。しかし、担当の行員が私のパスポートを見て、顔を曇らせた。 「中国人ですか?」 ――中国のパスポートだから、中国人ですよ 「パスポートで銀行の口座は作れますが、ファンドまで買えるかどうかわかりません。身分証明書が必要です」 ――パスポートが私の身分証明書ですよ 担当者と私のやりとりを見て、5、6人の銀行員が集まってきた。パスポートを見つめながら、困惑した表情を浮かべた。 私は不安を感じた。窓口の行員はマイクを使って話をしているので、やりとりは銀行で待っているほかのお客さんにも聞こえたはずだ。 ふと、横を見たら、70歳くらいの女性がカバンからお札5束(つまり5万元)をドンと窓口に出してファンドを買うところだった。 この5万元、もし損したら、このお年寄りはどうするのだろう。卒倒するのではなかろうか。 行員のマイクの声が響いた。 「では、とりあえず手続きをしてみてください。それで駄目だと分かったら、また銀行に来てください」 丁寧な優しい声に安心した。
――では、○×○を買います ファンドの名前を言った瞬間、窓口の行員の声が高くなった 「えっ、○×○? 本当にいいのですか? 今日は5.3、高いですよ!」 そんなことは私には分からない。とにかく、あらかじめ決めておいたファンドを買うだけだ。一呼吸して、もう一度、はっきりとファンド名を告げた。 ――○×○です。○×○を買います その時、隣の5万元の女性から悲鳴のような声が聞こえた。 「○×○、今は5.3になったのですか?」 顔を上気させて、さらにまくし立てた。 「私が買った時、1.0だったのよ。すごい、すごい!」 ――そうですか?よかったですね。 女性は興奮のあまり、倒れそうになっていた。思わず、体を支えてあげようと、腰に手をさしのべながら話しかけた。 ――こんなに高くなったのだから、今日、売ったら大もうけでしょう 女性は、「冗談じゃない」という顔つきをした後、大笑いを始めた。きっと、笑いが止まらない、ということなのだろう。 女性の笑い声を背中に、釈然としないまま、私は自分が何か悪いことをしたかのように銀行から飛び出した。 結局、買いたかった○×○のファンドが買えるのかどうかは、中国に帰ってから確認しないとわからないままだ。 いや、もう結果はどうでもよくなった。喧噪の中、あのお年寄りは、損せずに元気で投資を続けているのだろうか。株にはやはり魔力があるようだ。私はその魔力に打ち勝てるだろうか。日本の地であの女性のことが気になっている……。 |
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