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早朝のパンダ

2008年2月16日

  • 文・写真 于 前

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 オリンピック開催を間近に控えた北京を旅する計画を立てている人に、ぜひ一度足を運んでもらいたいところがある。北京動物園だ。ここで暮らすパンダを一目見て欲しいのだ。

 「何だ、そんなことか」と私のアドバイスを珍しく思わない人が多いだろう。でも、ちょっとだけ耳を傾けてもらいたい。これを読んで頂ければ、北京の旅を何倍も楽しむことができるはずだ。

 実は、私も昔、わざわざ北京動物園へ行ってパンダを見ることに興味がなかった。パンダはよく眠る動物で、思いつきで動物園へ行っても、動いているパンダの姿を見ることは難しいからだ。

 日本の人に初めて北京を案内した時の要望が北京動物園のパンダだった。その時は「パンダなら日本でも見ることができるし、何もわざわざ北京で見る必要はないでしょう。別の場所へ行きましょうか」とアドバイスしたら、「違う! 絶対に北京のパンダを見ないと気が済まない」と反論された。

 仕方なく、北京動物園に足を運び、一緒にパンダを見たのだが、ここで目にしたのは「眠りこけるパンダ」だった。実際、パンダは中国の故郷にいると安心してよく寝るようだ。じっと、パンダを見ていたが、ついに目を覚ますことはなかった。

 日本人にとってパンダはどのような存在なのだろうか。

 日本人の出版編集者が私に向けた言葉を思い出す。

 「中国の何が好きですかと日本人に聞いたら、かえってくるのはパンダぐらいかもね! はっはっは」。

 乾いた笑い声が耳の中で反響し、私は思わず唇を噛んだ。

 「いったい何を言っているのか」と反論したかったが、半面で「なるほど、そんなものかもしれない」とどこか納得する部分もあった。仕方なく、私は言葉を飲み込んだ。

 日本のテレビはよくパンダを番組で紹介する。

 確かに、パンダを見ると、誰もが笑みを浮かべるようだ。そんな光景を目にするとき、私はいつも世界が平和そのものだと感心する。

 実のところ、私もパンダの大ファンだ。仕事で中国に帰った時、何度もパンダを撮影に行ったことがある。四川のパンダは、2時間、ぴくりとも動かなかった。

 北京にいる友達に言わせると、私のパンダ好きは度を超えているらしい。

 パンダのぬいぐるみ買いに行った時のことだ。店で高さ1メートルもある大きなパンダを見かけた。

 値段を聞いて、思わず怒ってしまった。あんな大きなぬいぐるみが何と60元。日本円で千円もしないのだ。

 「こんな安くしたらパンダがかわいそうでしょ!」

 思わず、大声で怒鳴ってしまった。店員は、不思議そうな顔をしながら「それでは600元にしましょうか」と真顔で言い返した。

 北京の自宅が北京動物園からそんなに遠くないこともあって、私はよく足を運ぶ。

 しかし、いつ訪ねても、パンダはすやすやと眠りこけている。一体、いつ来たらパンダが遊ぶ姿を見ることができるのか、係員に聞いたら「朝早く」という。日本人の友人に聞いたら、もっと具体的な攻略法を手にすることができた。

 つまり、午前7時30分に入場券を買って、入園と同時にパンダ館に向かって走る。この時間、飼育係は必ずパンダを外に連れ出して、室内を掃除する。この時なら一番元気に外で遊び回り、食事するパンダの姿を目にすることができるはずだ。

 言われた通りに朝早く行って見たら、涙が出るほど感動した。

 こんなに近距離で動くパンダを見られるなんて驚いた。

この感動をもっと多くの人に知ってもらうために私は友達を北京動物園に連れて行くようになった。

 去年の夏は4回、日本人の友人とパンダを見た。

 しかし、日本人と一緒にパンダを見ると、いつもあの編集者の言葉を思い出し、全く同じ言葉を投げかけてみることがある。大抵の人はそれを耳にしても、何も言わずにじっとパンダをみつめて別の話題に移ることが多い。

 しかし夏に連れていった日本人女性は違った。この言葉を聞いて真面目に反論してくれたのだ。

 「違いますよ。私の周りにも中国そのものが好きで、パンダ以外のものに夢中になる人がいますよ」

 彼女の真剣な顔を見て、私は昔の自分を思い出した。

 どうしてパンダを見る時、私はあの編集長の一言が忘れられないのだろう?

 中国でも、日本に戻ってからも考えた。

 パンダの写真を机の上に出して、並べてみた。目の前のシーンはパンダを前にした入園者たちの歓声と笑顔だ。

 どうして、あの時、「パンダぐらい」の一言にそんなに憤りを感じたのだろうか。己に自信があるなら何を言われてでも別によいではないか?

 「つまりあの時の私は、そして今の私は・・・」

 写真のパンダの表情をじっと見つめながら、考え込んだ。

于 前(YU QIAN)

 中国北京生まれ。フォト・ジャーナリスト。現在は東京を拠点に、中国大陸、香港、台湾の雑誌などに日本をテーマとした記事や写真を発表している。著書に「チャイニーズ・レンズ」(竹内書店新社)。

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