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鳥市場で教えられた

2008年6月20日

  • 文・写真 于 前

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 長く外国で生活していると中国に帰った時、私の考え方や物の言い方が、中国人と比べてずれていることがよくある。

 ある日、北京の友人と一緒に北京の胡同を散歩していた時のことだった。2人ともある光景を目にした。おもちゃの鳥を手にした老人が子供2人の前で話していた。

 「この鳥は凄いぞ。スイッチを押すと必ず鳴くのだから」

 老人は鳥のおもちゃを建物の窓枠の近くに置いて、慎重にスイッチを押した。機械的な鳥の鳴き声が響いた。私の耳にはかなりうるさく感じられ、思わず目を閉じた。

 でも、目を上げると子供たちが大喜びしている顔が目に映った。

 「ねえ、この鳥、どこで買えるの? お母さんに買ってもらおう」

 老人は優しい表情で子供達に場所を教えてあげた。

 北京の人間である私は、北京の人が鳥を愛する心がよく分かる。北京では鳥を飼う習慣がある。天気が良い日に鳥かごを提げて静かな所をぶらつくお年寄りの姿は風物詩と言えるほど調和のとれた風景である。

 ところが、目の前のおじいさんを見て、何となく寂しい気持になった。北京ではものすごい速度で高いビルが建ち、本物の鳥を飼う場所も次第になくなってきた。

 「ビルが建つと、鳥かごを持つお年寄りの集まりがなくなるなんて。こんなこと誰が想像できたでしょう」

 私の独り言を聞いた友達は納得がいかないといった口調で反論した。

 「そうですか。このおじいさんは単に面倒なことをやりたくないだけかもしれないし・・・。鳥のおもちゃを買って楽しむことは良いことではないか。于さんは外国で中国の悪口の報道を見過ぎているのではないですか。これからは何を見ても良い方向に考えたら良いのに」

 その場で私は友達に言い返さなかった。友達も口をつぐんだ。

 北京にいるとこの一件は2日で忘れてしまった。ところがある日、この友達が私を誘った。目的地は北京の鳥市場。彼女の意図は明らかで、北京の鳥も、鳥を愛する人達もまだ健在であることを私に見せたかったのだ。

 鳥市場は官園という場所にある。北京の自宅に帰る時に必ず通る所で、その賑わいはいつも遠くから見ていた。

 でも近くに来てみて、改めてその熱気に驚いた。   

 私は鳥を飼ったことはないが、小さい時はよく鳥かごを持って散歩するお年寄りを見かけた。鳥かごを持って集まり、自分の鳥を褒めるおじいさん達を質問攻めにしたこともある。当時私は鳥かごに青い布をかけていることを不思議に思った。

 思わず青い布を取って、かごの中を見ようとしておじいさんに怒られたことがある。

 「そんなことをすると、鳥はびくびくして、3日間も鳴いてくれないのだぞ」

 私はしょんぼりしてその場を離れた。

 鳥かごを持つおじいさんに話しかけるのは久しぶりだ。私も不思議に言葉が増えた。

 鳥をかごから出して見やすいようにするのは何も知らない私から見ると、かなり面白い。しかし、目の前に綺麗な黄色い鳥の姿が現れた時、私は思わず失言してしまった。

 「こんな綺麗な色だと、本物がどうかわかりませんね」

 「分からないなら買わなくて良い。何て失礼な」

 怒られて私は3歩、後ずさった。一緒にいた友達も不機嫌な表情になって「どうして良いほうに考えないの」と愚痴をこぼした。

 それから、綺麗な鳥を見ると頭の中に現れるシーンがある。新聞報道で見たのだが、犬を売る人が、ダルマシアン種にするために白い犬に黒丸を描いて本物に見せようとする光景だ。

 こんな事を想像するなんて。ああ、どうして私は良い方に物事を考えられないのだろう・・・。

于 前(YU QIAN)

 中国北京生まれ。フォト・ジャーナリスト。現在は東京を拠点に、中国大陸、香港、台湾の雑誌などに日本をテーマとした記事や写真を発表している。著書に「チャイニーズ・レンズ」(竹内書店新社)。

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