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拝金主義と万華鏡

2009年3月13日

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 中国の正月が終わった。正月の間に衛星放送で流れていた正月の歌「恭喜発財」のメロディーが耳から離れない。「恭喜発財」は中国の新年のあいさつに使われる言葉。新年おめでとう、お金がもうかりますように、を意味する。

 世界は金融危機で大変だ。どこを見ても暗い影ばかりだが、この正月の歌のように、心はいつもワクワクしていたいものだ。

 正月、各地にいる友達から「恭喜発財」の連絡が沢山来た。挨拶だけではなく、この不景気の中で儲かるためのアドバイスをしてくれる仲間も何人かいた。

 アメリカにいる友達は「今だからこそアメリカで不動産に投資するチャンス。今投資すれば、老後は家賃で生活できる」という。実際にもうアメリカで別荘を買って、大家になる夢を見ている。

 カナダに住んでいる友人からも善意の忠言が来た。

 「余っている日本円を全部ドルにする。ドルが高くなった時に売れば、間違いなく利益が出る」。すでに4000ドルの利益を得て、家族旅行をしてきたばかりという。

 日本の居酒屋で、中国から来た友達は私を見て、かなり焦った感じで忠告してくれた。

 「100万円か200万円使って、中国株を買えば、何年後かには必ず儲かりますよ」

 金融危機のはずなのに、モリモリと元気を出す友人たちを見て、私は戸惑った。

 勇気が足りない私を見て、冷静に分析してくれる人もいた。

 「危機の漢字を真剣に見てください。危があるから、機がついている」

 なるほど、分かりやすい解説だ。この大不況こそ、大きなチャンスを連れてきたという考えも悪くはないか。

 こんな時、私はいつも冷静でいられなくなる。

 少女時代に「私の家は貧しいけど、私の家は英雄だ」のような内容の童謡を口にして、貧乏であることを自慢するような教育を受けてきた。

 ところが、大人になったら、価値観が逆転して、お金を持っていることが人の能力を証明する時代に変わった。いつのまにか、中国でカネの響きが、天空でこだまするような国になってしまった。

 ある夏の日、北京の街角である場面を目にした。

 20元札を光に当て、物売りの横で真剣な顔でチェックしている男性が立っていた。

 男性は悔しそうに言った。

 「これは偽札ではないはず!」

 「もう見ない方が良いですよ。偽札かどうか私は判断できません。とにかく、別のお札をください」。

 物売りはあきれた顔で話した。

 20元は日本円で300円ぐらい。男性はどうにもあきらめがつかないようで、「本物だ、本物だ」とまだ言い張っていた。

 母親にこの話をしたところ、こう諭された。

 「20元はある人によっては笑いたいくらい少額で、捨てても痛くないかもしれない。でも、別の人にとっては、命のお金になる。20元の重さをバカにしてはならない」

 私は拝金主義に陥りたくない。いつのまに小銭を軽視するようになったのか。

 お金は万華鏡のような力を持っている。

 そこから見た世界は多彩で異なる。上手くリズムに乗って、楽しく生きていけるかどうか、見る人それぞれの判断で変わっていく。

于 前(YU QIAN)

 中国北京生まれ。フォト・ジャーナリスト。現在は東京を拠点に、中国大陸、香港、台湾の雑誌などに日本をテーマとした記事や写真を発表している。著書に「チャイニーズ・レンズ」(竹内書店新社)。

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