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尻割れズボンは自由の象徴

2009年7月7日

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 北京の友人が最近、家族旅行でシンガポールを訪れたときの話だ。

 飛行機が着陸した瞬間、乗客の視線が2歳になる息子に一斉に集まり、ちょっとした騒ぎになったという。

「自分の息子が可愛すぎるから?」。

 父親はにんまりとし、妻に自慢した。ところが、妻は冷静に事態を観察した。

 理由が判明した。視線の先は「開ダン袴」(ダンは衣偏に當)と呼ばれる息子のズボンだった。つまり、尻の部分が割れた中国のズボンだ。シンガポールでは中国語を話す人が多いが、この尻割れズボンをはいている子どもはいない。

 個人的には尻割れズボンは大した中国の発明だと思う。だが、このズボンをはいた子供を見て外国人が不思議な表情をするのも理解できる。なにしろ前から見ても、後ろから見ても、ズボンが破れているとしか見えないのだから。

 外国生活が長い私はこの尻割れズボンを見るたびに写真を撮りたくなる。

 このズボンがもう消滅してしまうのではないかと思うからだ。

 尻割れズボンはお尻を丸出しにするので、中国国内でも子供の尊厳を無視しているとの批判も出ている。

 このズボンをはいた中国人の子どもは、日本では一回も見たことがない。

 ところが日本人と一緒に中国にいると、必ず聞かれる。

 「于さんも小さい時、このようなズボンを穿いたのでしょう?」

 そこで、私はいつも深く考えず、笑ってこのズボンを擁護する。

 「これは空気を通しやすいから、夏、子供たちが気持ちよく遊べる、スグレモノですよ」

 確かに小さい時にはいたことがあるはずだが、記憶に全く残ってない。

 中国では尻割れズボンを肯定的にとらえる人も少なくない。下着をはかないから、子どもの排泄行為をすぐに確認できるからだ。子どもはトイレに行きたい時、座るポーズをとるので、意思をまわりの大人に伝えるようになる。そのポーズを見た親は、素早く子供をトイレへ連れて行けるというメリットがある。

 このために中国の子どもは早くオムツを卒業して、トイレを使うようになるといわれる。

 しかし、どうみてもこの尻割れズボン、国際的ではない。

 一度、お土産として買って、日本の友人にプレゼントしたことがあるが、受け取った方も、どうやって使うのか、迷ったことだろう。

 最近では尻割れズボンの下にオムツを使う親も増えてきたという。

 私の親戚は新しいズボンを買ってから、ハサミで切って、わざわざ尻割れズボンに作り直す。

 新品のズボンを必死に改良する母親を見ていたら、このズボン、まだまだ中国で消えることはないようだと実感した。

 でも面白いのは尻割れズボンをはき慣れている子どもが突然普通のズボンをはくと、不自由さを感じるのか、落ちつきがなくなるという。

 子どもたちにとって、尻割れズボンは自由の象徴なのかもしれない。

于 前(YU QIAN)

 中国北京生まれ。フォト・ジャーナリスト。現在は東京を拠点に、中国大陸、香港、台湾の雑誌などに日本をテーマとした記事や写真を発表している。著書に「チャイニーズ・レンズ」(竹内書店新社)。

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