現在位置:
  1. asahi.com
  2. ニュース
  3. 中国特集
  4. 漫歩寄語
  5. 記事

本当の豊かさとは…

2010年6月14日

写真

写真

 中国のお金持ちに関する報道はいつも刺激的だ。

 日本でも中国の富裕層を報じる記事が増えてきた。来日する中国の観光客は全員が金持ちのように見られ、湯水のように金を使う中国人を紹介するテレビ番組を観ると、お笑い番組を見ているような気分になってしまう。

 私たちの世代は、金のない人間が尊敬される時代に育った。つまり金持ちは人の苦しみを自分たちの利益に取り替えてきたと教育されたのだ。金が沢山手に入ることを禁じられた社会で育った人間にしてみれば、中国に拝金主義の波が押し寄せていることに戸惑うのも不思議ではない。

 「外国のマスコミの前で自分は金持ちだと胸を張っているのはどうして?」「どうやってそんなに桁はずれの金持ちになったのか?」

 疑問が次々と頭に浮かぶ。

 初めて日本に来た当時、テレビで放映されていたのは貧しい中国人だった。遠い昔の話ではない。いつの間にこんなに変わったのか。しかし、あの時に味わった情けない気持ちを今も味わっている気がするのだ。

 最近中国にいる友達にこの話をすると怒りをあらわにする人が少なくない。

 最も憤ったのは、ある雑誌の編集長だ。金に困る生活はしていないはずだか、話を聞いたら理由が分かった。

 一人息子が通う中学校では、今年夏休みにアメリカへキャンプに行くという。費用は3万元。豊かとはいえ、痛い金額である。

 もし私がいま中国で生活したら、生きる価値観も天地がひっくり返ったような情況になるだろう。迷いなく楽しく生きていけるか、はなはだ自信がない。

 中国にいる友達の中に一人だけ確実に金持ちと言える人がいた。

 彼女は書籍を編集する会社を経営している。下請けで本を作っているので、それほど大儲けする商売ではないはずだ。

 ところが購入したばかりのマンションへ遊びに行った時、驚愕した。マンションの広さが並ではない。家具も全てヨーロッパへ行って、自分で選んで買って来たのだという。

 株や不動産で儲けたか、工場でも買収して成金になったのかと思ったが、どうもそうではないらしい。

 立派なマンションから出た時の一言が印象に残った。

 「このマンションのこと、だれにも言わないでくださいね」

 彼女は自分の豊かな姿を知られたくないと思っているのだ。

 ところが、一番驚いたのはその後の出来事だ。

 一人っ子政策の中国で彼女は2人目の子供を産んだのだ。

 なんと香港へ行って産んだのだという。香港なら一人っ子政策は無縁である。さらに香港で子供を産めば、子供の戸籍も香港になる。2人目を産んで戸籍に困らず、将来の保障もある。

 金満ぶりをひけらかさないこと。それが本当の豊かさなのか。まだ答えは出ない。

于 前(YU QIAN)

 中国北京生まれ。フォト・ジャーナリスト。現在は東京を拠点に、中国大陸、香港、台湾の雑誌などに日本をテーマとした記事や写真を発表している。著書に「チャイニーズ・レンズ」(竹内書店新社)。

PR情報
検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介