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タコと中国

2010年8月23日

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 日本の食卓ではおなじみのタコが、この夏、中国で話題だ。

 きっかけはワールドカップ。ドイツの勝敗を完璧に予言したパウル君のお陰で、タコ人気に一気に火がついた格好だ。

 「章魚哥」(タコ兄ちゃん)という中国的な愛称も生まれ、タコに何か予言してもらいたい人も増えたという。

 こんな具合だ。

 「今は家を買う時期かどうか、教えてもらえませんか」

 「腐敗している官僚を捕まえてくれませんか」

 「株の投資を教えてください。一度大金を手に入れる喜びを味わいたい」

 パウル君の名前を付けた商品も売れ、北京の魚市場では500グラム18元だったタコが25元〜30元に高騰。ペットとしてタコを育てたい人まで現れた。

 何と言ってもタコをペットにする魅力は、損をしないことだ。

 まずペットとして育ててみて、運悪く死んだら食べてしまえばいい。そんなふうに軽く考える人が多いのだろう。

 私もこのブームの中でタコの食べ方がこんなにあるのかと改めて知った。揚げる、炒める、煮る、あぶる、シャブシャブ・・・

 日本でのタコの食べ方についての記事を中国の雑誌に送ろうとして、たこ焼きを食べながら、いろいろ考えた。パウル君のおかけで、地球上のタコの運命も変わったのではないか。多くの人に愛される一方で、もっと多くの人間に食べられた。

 タコの背後にいらいらする人間の姿が見えてくる。もっと豊かに、もっと金持ちに・・・タコに向けられたそんな人々の焦燥が情けない。

 来日したイギリス人ルパート・フーゲワーフ(Rupert Hoogewerf、中国名:胡潤)さんのプレゼンテーションに先日、参加した。1999年に初の中国版富豪番付を独自に作成し、世界に発信した人物で、その名前は中国でもかなり知られている。

 私にしてみればいま中国で新しい富豪が次々と出現し、世界中で注目されているという事実があっても、分からない点が多い。どうしてこんなに金持ちがたくさん出てきて、国民の間に貧富の差が広がったのか。それは本当にいいことなのか?

 しかし、私のわだかまりはこの青い目の男性の話を聞いて雲散霧消した。物事を別の角度で考える必要があると痛感したからだ。

 フーゲワーフさんは中国の富裕層の規模から、ライフスタイルまでを具体的な数字と事例を示しながら、時には中国の富豪が好む買い物の中身にいたるまで解説した。何を語っても、生き生きとした目つき。その場にいた日本人も彼のスピーチに夢中になり、つまらなさそうな顔をする人はひとりもいなかった。

 一人の外国人が陽気な態度で金満中国を語る。そんな姿が私に大きな感銘を与えてくれた。

 そこで私は確信した。たとえタコの予知能力にすがろうとも、中国の富裕層がさらに増え続けることはもはや時代の流れであり、誰にも止めることはできない。これからは中国の富豪ももっと中国らしい責任と態度でその役割を担うに違いない、と。

 一中国人の私だが、中国を知る外国人とタコのおかげで、富にたいする理解を一層深めることができた気がする。

于 前(YU QIAN)

 中国北京生まれ。フォト・ジャーナリスト。現在は東京を拠点に、中国大陸、香港、台湾の雑誌などに日本をテーマとした記事や写真を発表している。著書に「チャイニーズ・レンズ」(竹内書店新社)。

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