トラック長距離の女王、福士加代子さん(ワコール、女子3000メートル・5000メートル日本記録保持者)が出場するということで、大阪国際女子マラソンが活気づいている。
福士さんの明るく朗らかな性格は、飾らない大阪の気風に合っている。中継する関西テレビは人間ストーリーを追い、観ている人の心の機微に触れる番組作りが得意なテレビ局。そんな空気も福士さんにとっては好ましいものになるだろう。
北京五輪女子マラソンの代表をめぐって残された切符は、事実上あと1枚だ。大阪を走る選手はもちろん、もう一つの選考会である3月の名古屋国際を走る選手も、際立ったスピードを持つ福士さんの走りに注目しているはずだ。
予想について、意見は大きく分かれる。福士さんのマラソン練習期間が短いことについて、「30キロまでは良くても、それ以降は無理だ」と話す人も少なくない。
しかし、先日、選抜女子駅伝北九州大会で谷口浩美さん(OKI陸上部監督)に会った時、「男子で言えばゲブラシラシエさん(エチオピア・マラソン世界記録保持者)タイプじゃないかな。彼がトラック時代に培ったスピード強化のための練習は、マラソンのスタミナも作った」と話していた。
私も谷口さんの考えに同感である。福士さんがこれまで世界陸上や五輪の女子1万メートル代表で、スピードにしのぎを削ってきた練習は、マラソン練習と同等か、時にはそれを超える過酷なものだった。また、アテネ五輪前のスペインの高地合宿中、痛めた足のことをマスコミに気付かれぬよう、一人黙々とプールで泳ぎ続けて本番を迎えるなど、精神的な面でも大変辛抱強い選手である。
マラソンに関しては、まだ試合でも練習でも、42.195キロという距離を走っていないという事実だけだ。今、監督の永山忠幸さんも福士さんも、全くマスコミを避け、陸上関係者も避け、練習に専念している。それは、従来のマラソンとは違う独自のマラソンを完成させたいと思っているからではないか。「マラソンとはこういうものだ」という声は、2人にとって雑念になるのだと思う。
福士さんは、年末年始はチームと共に宮崎で合宿。1月8〜9日に大阪のコースの一部を速いスピードで試走した後、10日〜19日、徳之島で合宿。その合宿では、予定していた20キロのタイムトライアルを2日連続で行うという前代未聞の練習を成し遂げ、かなりの手応えを感じているようだ。
永山さんはワコールの監督になる前はスポーツメーカーで監督をされ、ヨーロッパの選手達とも交流があった。世界で活躍するマラソンランナーは、日本選手のように、40キロを何本走ったという練習ではなく、1日に1万メートルのタイムトライアルを3本行うなどといった、距離よりもスピードを重視する練習を行う。永山さんはそういった考えの下、福士さんの特徴を活かし、20キロ走のタイムトライアルを2日連続で行ったのだ。
私は、福士さんの初マラソンへの挑戦は、北京の切符をかけたものではないと思う。記録へのチャレンジだと思う。とことんトラックのスピードで世界と戦ってきた彼女が、それをマラソンでどう活かせるか。永山さんと共に、まさに孤高の人となり、戦っているようにみえる。
レースは野口みずきさんの持つ大会記録、2時間21分19秒を上回るペースになるのではないか。北京の切符がかかる大阪に、嵐が吹き荒れそうだ。