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コペンハーゲンに新しくできた国立オペラ劇場=写真はいずれも岸浩写す |
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劇場前からは、港を隔て真正面に王宮が見える |
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豪華な新国立オペラ劇場の内部 |
先日ドイツの北隣、デンマークのコペンハーゲンへ行ってきました。目的は今年1月に開場した新しいオペラ劇場で行われたリヒャルト・シュトラウスのオペラ『エレクトラ』新制作の初日を観ることでした。
大きなオペラ劇場の建設はヨーロッパでは当分ないだろう、と言われていました。あるとしたらベルリンで、ただ、今のベルリンにそんな建設費をひねり出す余裕などなく、建つとしても10年、20年先だろうというのがもっぱらの見方です。
そこに4年ほど前、突然に、コペンハーゲンで新国立オペラ劇場建設計画が発表され、関係者の度肝を抜きました。というのも、コペンハーゲンにはすでに50万人の人口に見合った中規模の古いオペラ劇場があったからです。
それだけではありません。実はこの劇場は国や市が建てたのではなく、一個人からの贈り物だったのです。これをプレゼントしたのはデンマークで一番の資産家、今年92歳になるマッキンネイーメラーさんです。建設費総額は450億円、でも個人資産24兆円といわれる大金持ちには、ちょっとした趣味への出費だったようです。
プレゼントの条件として、建設地を独自に決定できること、劇場の建築設計に発言できること、新劇場の新制作第1作の演目を決定できることが挙げられ、これらは受け入れられました。
そしてマッキンネイーメラーさんが建設地に選び、買い上げた土地は港に面し、なんと水面を隔ててはいるものの、王宮のまさに真正面、500メートル離れた対岸だったのです。
王宮側から見ると、劇場の左側にはクレーンが建ち並び、その先の港にはフリゲート艦、潜水艦が望め、およそオペラ劇場の立地には不釣合いにも思えます。ところが、王宮の真正面はけしからんという批判は、いざ出来上がってみると、殺風景だった王宮の対岸の風景が、逆に何とか様になったという声の高まりに消されてしまいました。
新劇場は地上5階、地下9階建てで、ほとんどが水面下、ステージも水面下にあります。オペラ上演に必要な最新のステージ機構、最新設備を全て備え、客席数は1700席。東京の新国立劇場とほぼ同じ規模です。フォワイエ等には高価なイタリア産大理石を、客席部には高価な木材をふんだんに使い、加えて天井は24金張り、そんなことも新劇場建設の大きな話題でした。劇場客席部は高級木材の色合いからか、ちょっと暗い気がします。でも音響はなかなかのものです。各楽器の音がうまく混じりあい、暖かい音色でよく響きます。日本の新国立劇場によいライバルができたことになります。
今後の問題は運営でしょう。大劇場ともなれば、人件費等も増大するはずです。せっかく器がよくても、中身がお粗末ではどうしようもありません。支配人はまだ31歳の若さあふれるカスパー・ベヒーホルテンさん。彼はいずれワーグナーの『ニーベルングの指環』演出を手がけると張り切っていますが、まずは新劇場をどのように軌道に乗せるか、その手腕に期待しましょう。
今回の『エレクトラ』は、散々な批評を受けた『アイーダ』に続く、新劇場の第2作目となります。シュツットガルト・オペラとの共同制作で、演出は、現在オペラの演出では、この人の右に出る人がいないといわれるペーター・コンヴチュニィです。この凄惨を極めるオペラを非常に手際よく、分かりやすく、愛情深く、ドラマチックに演出し、終演後の客席は「ブラヴォー」の嵐とスタンディング・オベーションの拍手に包まれました。
来年2月に東京でシュツットガルト・オペラが上演する『魔笛』もコンヴチュニィの演出です。演出がとても難しい『魔笛』を天才演出家がどのように料理するか、これは是非観ていただきたいと思います。