2005年04月01日00時40分のアサヒ・コム
検索使い方
キーワード入力

メインメニューをとばして、本文エリアへ朝日新聞社からアスパラクラブクラブA&A携帯サービスWeb朝日新聞サイトマップ文字拡大・音声

天気住まい就職・転職BOOK健康愛車教育サイエンスデジタルトラベル囲碁将棋社説コラムショッピングbe

プレゼントされたオペラ劇場

2005年03月22日

写真

コペンハーゲンに新しくできた国立オペラ劇場=写真はいずれも岸浩写す

写真

劇場前からは、港を隔て真正面に王宮が見える

写真

豪華な新国立オペラ劇場の内部

 先日ドイツの北隣、デンマークのコペンハーゲンへ行ってきました。目的は今年1月に開場した新しいオペラ劇場で行われたリヒャルト・シュトラウスのオペラ『エレクトラ』新制作の初日を観ることでした。

 大きなオペラ劇場の建設はヨーロッパでは当分ないだろう、と言われていました。あるとしたらベルリンで、ただ、今のベルリンにそんな建設費をひねり出す余裕などなく、建つとしても10年、20年先だろうというのがもっぱらの見方です。

 そこに4年ほど前、突然に、コペンハーゲンで新国立オペラ劇場建設計画が発表され、関係者の度肝を抜きました。というのも、コペンハーゲンにはすでに50万人の人口に見合った中規模の古いオペラ劇場があったからです。

 それだけではありません。実はこの劇場は国や市が建てたのではなく、一個人からの贈り物だったのです。これをプレゼントしたのはデンマークで一番の資産家、今年92歳になるマッキンネイーメラーさんです。建設費総額は450億円、でも個人資産24兆円といわれる大金持ちには、ちょっとした趣味への出費だったようです。

 プレゼントの条件として、建設地を独自に決定できること、劇場の建築設計に発言できること、新劇場の新制作第1作の演目を決定できることが挙げられ、これらは受け入れられました。

 そしてマッキンネイーメラーさんが建設地に選び、買い上げた土地は港に面し、なんと水面を隔ててはいるものの、王宮のまさに真正面、500メートル離れた対岸だったのです。

 王宮側から見ると、劇場の左側にはクレーンが建ち並び、その先の港にはフリゲート艦、潜水艦が望め、およそオペラ劇場の立地には不釣合いにも思えます。ところが、王宮の真正面はけしからんという批判は、いざ出来上がってみると、殺風景だった王宮の対岸の風景が、逆に何とか様になったという声の高まりに消されてしまいました。

 新劇場は地上5階、地下9階建てで、ほとんどが水面下、ステージも水面下にあります。オペラ上演に必要な最新のステージ機構、最新設備を全て備え、客席数は1700席。東京の新国立劇場とほぼ同じ規模です。フォワイエ等には高価なイタリア産大理石を、客席部には高価な木材をふんだんに使い、加えて天井は24金張り、そんなことも新劇場建設の大きな話題でした。劇場客席部は高級木材の色合いからか、ちょっと暗い気がします。でも音響はなかなかのものです。各楽器の音がうまく混じりあい、暖かい音色でよく響きます。日本の新国立劇場によいライバルができたことになります。

 今後の問題は運営でしょう。大劇場ともなれば、人件費等も増大するはずです。せっかく器がよくても、中身がお粗末ではどうしようもありません。支配人はまだ31歳の若さあふれるカスパー・ベヒーホルテンさん。彼はいずれワーグナーの『ニーベルングの指環』演出を手がけると張り切っていますが、まずは新劇場をどのように軌道に乗せるか、その手腕に期待しましょう。

 今回の『エレクトラ』は、散々な批評を受けた『アイーダ』に続く、新劇場の第2作目となります。シュツットガルト・オペラとの共同制作で、演出は、現在オペラの演出では、この人の右に出る人がいないといわれるペーター・コンヴチュニィです。この凄惨を極めるオペラを非常に手際よく、分かりやすく、愛情深く、ドラマチックに演出し、終演後の客席は「ブラヴォー」の嵐とスタンディング・オベーションの拍手に包まれました。

 来年2月に東京でシュツットガルト・オペラが上演する『魔笛』もコンヴチュニィの演出です。演出がとても難しい『魔笛』を天才演出家がどのように料理するか、これは是非観ていただきたいと思います。


プロフィールプロフィール

プロフィール

岸 浩(きし・こう)

 1938年東京生まれ。69年から2000年までドイツの国際放送の放送記者。主として音楽関係の取材をおこなう。退職後はフリーのジャーナリストとして、主にドイツの音楽事情などを取材。1年の3分の1はコンサート、オペラとドイツ内外を飛び回っている。80年から、ケルン放送交響楽団(現WDR交響楽団)の日本ツアーに毎回同行、他のドイツの放送交響楽団日本ツアーにも同行している。ケルン在住。

関連情報

ベルリンの至宝展
シュツットガルト歌劇場
ここからドイツ年主要イベント一覧ですドイツ年主要イベント
▲このページのトップに戻る

asahi.comトップ社会スポーツビジネス暮らし政治国際文化・芸能ENGLISHマイタウン

ニュースの詳細は朝日新聞紙面で。» インターネットで購読申し込み
asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
| 朝日新聞社から | サイトポリシー | 個人情報 | 著作権 | リンク| 広告掲載 | お問い合わせ・ヘルプ |
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.