日本代表の守りの要は、178センチの「小柄な」センターバック(CB)、今野泰幸(28)だ。2010年10月からザッケローニ監督が指揮した全17試合に、ただ一人フル出場している。ボランチから転向して約2年9カ月。CBとして新境地を開拓し、今季、強豪ガ大阪の強い要望を受けてFC東京から移籍した。
世界的に見ても大型化する傾向のCBでは「異例のサイズ」。10年ワールドカップ(W杯)南ア大会で日本代表の16強入りを支えたCB陣は、中沢(横浜マ)が187センチ、闘莉王(名古屋)が185センチだった。
「もっと身長が欲しかった?」。「185くらい欲しかったかな」
昨年12月、率直な質問に今野は笑いながら返し、熱っぽく語り始めた。「オレは背が高くないし、普通のCBではない。ただ守っているだけでは満足しない。相手を崩す攻撃の始まりでも脅威になる。新たなCB像を築き上げたい」
01年のプロ入り後、札幌を経て、FC東京でボランチとして地位を築きつつあった。だが、ガ大阪に2―4で完敗した翌日の09年4月30日、当時監督の城福浩氏(今季からJ2甲府監督)に告げられた。「ボランチとして試合に出るのは難しい。CBなら出られる」
「全部を否定された。オレはボランチだぞ。腹が立って、悔しくて、暴れたくなって……」。コーチに慰められ、号泣した。
非情にも見える城福氏の決断には、ある狙いがあった。日本代表の不動のダブルボランチは当時も遠藤(ガ大阪)と長谷部(ウォルフスブルク)。このままでは守備のバックアップという位置づけは変わらない。それが歯がゆかった。「Jリーグならボランチで十分活躍できるが、今ちゃん(今野)には代表のレギュラーになってほしい。彼の能力と向上心を生かすにはCBしかない、と思っていた」
転向を勧める根拠もあった。「ただ跳ね返すだけでフィードができないCBはこれからの時代は難しい。球をつなげる存在が必要になる」。元来、ボール奪取能力に優れる。簡単にクリアせず「どんな場面でも最低2手先のイメージ」で供給するパスセンスが生きる。味方が球を持つ時間が長くなれば、相手の攻撃回数が減るという発想だ。
日本代表の生命線は連係とパスサッカー。そのスタイルの頂点に君臨する欧州王者バルセロナ(スペイン)が174センチのマスケラーノをCBに起用するなど、今野の挑戦を後押しする状況も生まれていた。
11年1月のアジア杯決勝・豪州戦。後半に入って、ザッケローニ監督は今野をボランチに上げようとしたが、今野はこの布陣変更を拒否した。「サッカー人生で監督に口答えしたのは初めて。でも競り合いに自信もついていた」。最終ラインにとどまり、高身長の相手を無失点に抑えて優勝。城福氏は「成長を感じさせた場面だった」。
高さへの不安はないのか。「190センチの選手でもやられる時があるけど、オレがやられたら余計たたかれる。(06年W杯優勝のイタリア代表で175センチのCB)カンナバロのように素早く相手に寄せたり、体を入れたり。連係でも防ぐことはできる。オレのやり方で勝負したい」
新天地のガ大阪は、10年間指揮を執った西野監督が退任。チーム作りに不透明な要素は多いが、新体制の原動力になる覚悟だ。「器用な守備の控え」から「最終ラインのリーダー」へ。日本代表での立場が変わっても、謙虚な姿勢は変わらない。「オレはエリートじゃない。雑草魂でまだまだ伸びなくちゃ」(内海亮)
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7月11日現在