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コラム「The Road」

「二人の香川」乗り越えろ

2012年4月12日

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写真拡大2月29日のウズベキスタン戦に出場した香川=福留庸友撮影

写真拡大2月29日のウズベキスタン戦に出場した香川=福留庸友撮影

写真拡大2月29日のウズベキスタン戦に出場した香川=上田潤撮影

 セ大阪コーチの小菊昭雄(36)の携帯電話が鳴った。ドイツのドルトムントの香川真司(23)からだった。

 日本がホームで完敗したW杯アジア地区3次予選・ウズベキスタン戦から中2日で出場したマインツ戦(3月3日)の翌日だった。その試合で香川が決勝点を取ったので、小菊も話したいと思っていた。だが、連戦で疲れているだろうと電話は遠慮していた。香川の方からどうしたんだろう、と思いながら話し始めた。

 2人は、香川が高校生の時、当時スカウトだった小菊が声をかけて以来のつきあいだ。今でも香川が近況を伝えたり、悩みを相談したりしている。「真司は完璧主義者で失敗を気にしすぎるところがある。気持ちの切り替えが一つの課題。今までなら、日本代表でのパフォーマンスが悪いとドルトムントでも引きずっていた。今回は代表で負けた後、ドイツに戻ってすぐに結果を出せたことを進歩だと受け止めていました。明るい声でした」

 そこから、3月の香川の快進撃が始まった。

 次のアウクスブルク戦は0―0の引き分けだったが、次のブレーメン戦は香川の決勝点で1―0の勝利。さらにケルン戦は勝ち越しの2点目を含む2得点で6―1の大勝に貢献。続くシュツットガルト戦は4―4の引き分けだったが先制点を奪った。

 3月のリーグ戦5試合で5得点。チームは3勝2分け。勝利はいずれも香川のゴールが決め手だった。

 ドイツで首位を走るドルトムントの攻撃の軸が香川であることは、もはや異論の余地がない。本人はドルトムントとの契約延長を望んでいるが、有名クラブへの移籍のうわさも絶えない。

 その活躍は皮肉なことに、日本代表でのプレーの物足りなさに、首をかしげる人を増やしてもいる。

ドルトムント攻撃の軸なのにさえない代表プレー 空回りするトップ下

 まるで2人の「香川真司」がいるかのようだ。

 ドルトムントでは、ゴールへ向かっていく持ち味が輝き、リーグ9位の12得点を記録している。ところが日本代表では、ゴール近くでプレーする回数がぐっと減る。W杯予選では、11月の北朝鮮戦を除く5試合にフル出場したが、得点は8―0と大勝したタジキスタン戦の2点だけだった。

 ドルトムントではFWに近い「トップ下」のMFが定位置で、ザッケローニ監督率いる日本代表では2月のウズベキスタン戦で初めて「トップ下」を任されるまで左のMF。しかしポジションだけの問題でないことは、トップ下でプレーしたウズベキスタン戦が明らかにした通りだ。

 「あの位置に入ったら、攻撃のスピードを上げる役割をしないといけない。ペナルティーエリア近くでそれをやろうとしたが球が来なかった。だんだん中盤のことを考えるようになってしまった。ドルトムントのトップ下のイメージが頭にあるが、日本代表はまったく別物。自分の得意なプレーができなかった」

 ウズベキスタン戦について香川はそう語った。

 右DFの内田篤人(シャルケ)は「相手のDFとMFの間の絶妙の位置にいた。あそこにもっと球を送りたかった」と香川を評した。

 左DFの長友佑都(インテル・ミラノ)も「真司が前にいたとき、もっと使えばよかった。使ったときには、チャンスになっていたから」。岡崎慎司(シュツットガルト)は試合中に直接、「前にいて欲しい」と香川に伝えていた。

 選手たちの話を聞く限り、香川が最初にやろうとしていたことが間違っていたのではなく、狙いが周りの選手とかみ合わなかった、と見るべきだろう。

 ザッケローニ監督から香川を生かすための特別な指示はなかったという。香川自身が自分のやり方をチームメートに伝える時間もなかった。帰国してチームの練習に合流したのは試合前日だったが、「トップ下」を言い渡されたのは試合当日だった。

力強い言葉で自分を制御 もがき抜いた先にはゴールデンエージが待つ

 試合が始まってから、香川はもがいた。その痕跡が、試合後のハーフナー・マイク(フィテッセ)のコメントにあった。「監督の僕への指示は『常に球から遠いポジションを取れ』だった。でも香川に『もうちょっと球に近いところへ来て』と言われた。その通りにしてからは少し連係できるようになった」

 大柄のFWハーフナーが縦パスを受けるのに合わせて香川が近くに走る。前向きでスピードに乗った状態でハーフナーから球をもらって敵陣を切り崩す。香川はそんな意図を持っていた。しかし、試合中に声をかけあうだけで、できることには限界があった。

    ◇

 香川1人で解決できる問題ではないように思えた。香川に問いかけると、「その通りです」という答えが返ってきた。

 中盤の後方でプレーしていた香川を「トップ下」にコンバートした元セ大阪監督のクルピは「香川が活躍するには、同じイメージを持って流動的にプレーできるパートナーが必要だ」と言っていた。香川自身は、ベテランの中村憲剛(川崎)や、元セ大阪の乾貴士(ボーフム)との連係を歓迎していた。

 「批判されるのは、あの地位に立った選手の宿命ですが、日々感じている責任と重圧はとてつもなく大きい。最近は不平不満を言わなくなって、力強い言葉が増えました。そうやって気持ちを制御しているようです」

 香川の成長を見てきた小菊は精神面に注目して見ている。指導者としてある見通しを持っているからだ。

 選手が急速にうまくなる10歳前後のことをサッカーの指導者は「ゴールデンエージ」と呼ぶが、精神的な成長に従って何度も「ゴールデンエージ」を迎える選手を小菊は見てきた。「人間的な成長でサッカーを多角的に捉えられるようになるからでしょう。18〜22歳が多いが、25歳以降ということもある。何度もゴールデンエージがある選手が大成する」

 地位と報酬を得た今の香川がもう一度、謙虚にサッカーと向き合うことができれば、数年のうちに「ゴールデンエージ」が訪れるはず。偉大な選手になるために、そうなって欲しいと小菊は思っている。

 セ大阪選手寮の寮長、秀島弘(73)は、香川が信頼する助言者の1人。名門旅館の料理長を長く務めた人だ。「料理人もプロサッカー選手と同じ『技術者』。技術者は新しいものを作りださなければならない。それは苦しんで、もがいているとき、ぽっと出てくる。香川くんには自分のスタイルを作りなさいと言ってあります」

 多彩な相談役が、きっと助けになるだろう。(編集委員・忠鉢信一)

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得点ランキング

  1. 1位 (総得点5)
    選手名
    フォルラン (ウルグアイ・31歳 内訳:左足1、右足4、ヘディング0)
    スナイデル (オランダ・26歳 内訳:左足1、右足3、ヘディング1)
    ビリャ (スペイン・28歳 内訳:左足1、右足4、ヘディング0)
    ミュラー (ドイツ・20歳 内訳:左足0、右足4、ヘディング1)
  2. 5位 (総得点4)
    選手名
    クローゼ (ドイツ・32歳 内訳:左足0、右足3、ヘディング1)
    イグアイン (アルゼンチン・22歳 内訳:左足2、右足0、ヘディング2)
    ビテク (スロバキア・28歳 内訳:左足0、右足3、ヘディング1)

7月11日現在

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