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コラム「The Road」

ぶれない心 長友の挑戦

2012年6月15日

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写真拡大W杯アジア最終予選の皮切りとなるオマーン戦は長友のアシストが本田の先制点につながった=上田潤撮影

写真拡大今季のインテルは苦しい戦いが続いたが、だからこそ学ぶことも多かった=ロイター

写真拡大イタリアでのCM撮影を終え、笑顔を見せる普段着の長友=忠鉢信一撮影

■負けをバネにしたいのに みんなの暗さに違和感 笑顔でいようとした

 長友佑都(25)はいつも笑顔だった。

 3日のオマーン戦を皮切りに、8日のヨルダン戦とホームで続いたワールドカップ(W杯)ブラジル大会アジア地区最終予選。日本代表の練習拠点は試合会場の埼玉スタジアムに隣接したサブグラウンドだった。

 練習が始まってから20分ほど経つと、関係者以外は施設の外へ閉め出される。中の様子は、練習を終えた選手たちに聞かなければわからない。長友はそのやりとりの間、笑顔を絶やさなかった。多くの選手が口々に体力的に厳しい練習だったと訴えた日も、主将の長谷部が練習試合の内容に警鐘を鳴らした日も。

 昨年11月に最終予選進出を決めた後、日本は3次予選の残り2試合を続けて0―1で落とし、選手には不安が広がった。特にホームで完敗した今年2月のウズベキスタン戦は、チームに大きなショックを与えた。

 「ウズベキスタンに負けた後の控室は、すべてが終わったかのような暗い雰囲気だった。負けてもバネにして成長すればいいと僕は思ったから、みんなの様子には違和感があった。なんとかしたくて、みんなに笑顔を見せることにした。柔らかい表情でいようと心がけた。僕らの実力を信じていれば日本はやれる、というメッセージを態度で伝えたかった」

 この言葉を聞いていなければ、最近の長友の明るい態度は違った意味に見えたかもしれない。話をじっくりと聞いたのはミラノ市内の長友の自宅。苦しんだシーズンが終わろうとしている5月上旬だった。

    ◇

 2011〜12年シーズンで、長友が所属するイタリア1部、インテル・ミラノは初勝利が4戦目と開幕でつまずき、ラストスパートをかけたい2月に4連敗。結局6位で来季の欧州チャンピオンズリーグ出場権も逃した。シーズン中に更迭された2人の監督だけでなく、長友も含め主力選手のだれもが厳しい批判を浴びた。そんな中で、長友は元アルゼンチン代表でベテランの主将、サネッティの態度を見習おうとしてきた。

 「彼はどんな状況でも落ち込まない。『試合が終わったらネガティブな思考はすべて消している』と言っていた。だからいつも笑顔でいられる。そういう彼の姿勢が、苦しんでいたチームに大きな影響を与えていた」

 同じ思考法を身につけたいと思った。自分と向き合う訓練を自分なりに始めた。

 否定的なことを考えている自分が心の中にいることがある。それをどのようにコントロールして、静めていくのか、というトレーニングだ。「自分が感じていることをノートに書き出して、否定的な思考をしている自分と向き合う。簡単なことじゃない。自然にできるようになってきたけど、いつでもできるかといえば、まだできない」

 調子が悪いときの心を制御できれば、ピンチで慌てなくなる。逆に良いときの心も想定しておく。自信を生むだけでなく、過信を防げるからだ。「勝ったときも、負けたときも、自分が良いプレーをしたときも、してないときも、気持ちを常に一定にしたい。結果によって気持ちに波がおきたら、一定以上のプレーをシーズンを通して保てない。心も疲弊してしまう」

 心を一定に保つ努力をしていると、苦しいときでも楽しくなってくるという。「自分と向き合って、壁を乗り越えて、成長できたり、考え方が変わったりしたときが、僕にとって一番うれしい」

■攻撃チャンス見つける力 チームメートを手本に 感性を磨いてつかむ

 来年6月まで1年の長丁場で行われる最終予選の日本の展望を、一気に明るく変えたのはオマーン戦の前半11分、長友がアシストした先取点だった。

 そのとき、先にゴールへ向かって動き出した岡崎にオマーンの守備陣は気を取られた。遅れてゴール正面に入っていった本田に気づいていた相手DFはいなかった。本田が左手をあげてボールを要求したとき、左を駆け上がった長友は、前田から受けた球をゴール前に送る体勢になっていた。長友の正確なクロスで勝負はあった。本田のシュートに日本は歓喜を爆発させた。「本田はけがをして日本代表に参加できない時期があった。彼が得点して僕もうれしくなった」

 そのプレーは、この試合最初のシュートチャンスだった。前半の長友は31分にもクロスを岡崎の頭に合わせた。さらに39分には香川のパスを受けてペナルティーエリア内でシュートを放った。しかしリードを広げた後半は、しだいに前線の攻撃に絡む数が減った。

 そのリズムの変化には、長友が描くサイドバックの理想像がある。

 「攻撃に上がる回数が少なくても、上がるたびに決定的なチャンスになる。そういう選手になりたい」

 守備にも攻撃にも積極的に参加すれば、長友自身の評価は上がるかもしれない。体力には自信がある。ライン沿いを激しくアップダウンするのは望むところだ。

 しかしチームの勝利を第一に考えれば、守備の仕事を優先しなければならないことが多くなる。攻撃時でも、相手に球が渡った場合に備えて、チーム全体のバランスを考える。そのうえで攻撃に貢献しようとすると、長友が考えるように、得点機に結びつく確率の高い攻め方を考えなければならなくなる。

 「自分のエゴをどれだけ出すか、抑えるか。そのバランスも難しい」

 技術的には、チャンスを見つける力にかかっている。その手本はインテルのチームメートでオランダ代表のスナイダーだという。

 その瞬間に一番ゴールに近い選手はだれなのか。次の動きでいい位置に入ろうと狙っているのはだれなのか。それが見えなければならない。よく言われる「視野の広さ」とは違う能力だという。ピッチのどこをいつ見ているのかというセンスだ。そこにはひらめきの要素が含まれる。スナイダーのように、「天才」と言われる選手はそこが優れている。

 「彼はいつどこを見ているのかを隠すのがうまい。相手は次のプレーが読めない。僕は天才的な選手ではないから、彼の域にまではいけないかもしれないけれど、僕が彼をまねすることは不可能ではないと思う。だれだって自分を磨くことはできる」

 なにを磨かなければならないか。それは感性ではないかと長友は思う。

 練習のない日は、できるだけ体を休めるために自宅で過ごすことが多かったが、最近は気持ちをフレッシュにしておくことを大事にしている。散歩をしたり、カフェでくつろいだり、ブティックに入って店員と言葉を交わしたりして、サッカー以外のことを考える。

 休日をボランティア活動に捧げているサネッティのことも頭にある。一流のサッカー選手になるには、サッカーの技術だけを身につければいいというものではない。

    ◇

 W杯最終予選はホーム・アンド・アウェー方式。最終予選の日程の後半、今年11月から6月にかけてオマーン、ヨルダン、イラクの西アジア勢とのアウェー戦がある。格下と見られている相手だが、受けて立つ日本の側の戦い方は簡単ではない。相手が精神的に強く出てくる敵地では苦戦を覚悟するべきだろう。

 「3次予選で2連敗したとき、メディアの批判はあったし、ファンの方々も大丈夫なのかと思ったはず。あれはいい経験になっていると思う。W杯で優勝することが僕らの大きな夢で、その可能性はゼロではないと僕は思っている。夢を実現するまで、いろんな試練がある。そのとき気持ちがぶれたら、大きな夢はかなえられない」

 試練に直面したときこそ、何を目指しているかが問われる。それが長友の実感だ。(編集委員・忠鉢信一)

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得点ランキング

  1. 1位 (総得点5)
    選手名
    フォルラン (ウルグアイ・31歳 内訳:左足1、右足4、ヘディング0)
    スナイデル (オランダ・26歳 内訳:左足1、右足3、ヘディング1)
    ビリャ (スペイン・28歳 内訳:左足1、右足4、ヘディング0)
    ミュラー (ドイツ・20歳 内訳:左足0、右足4、ヘディング1)
  2. 5位 (総得点4)
    選手名
    クローゼ (ドイツ・32歳 内訳:左足0、右足3、ヘディング1)
    イグアイン (アルゼンチン・22歳 内訳:左足2、右足0、ヘディング2)
    ビテク (スロバキア・28歳 内訳:左足0、右足3、ヘディング1)

7月11日現在

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