ベスト4まで出そろったW杯で黒衣役として活躍を続けている日本人がいる。審判たちをサポートする専属の医療チームの鍼灸(しんきゅう)師ら3人。肉体的に、精神的に大きな重圧にさらされている審判のケアに力を尽くしている。
審判の専属トレーナーを務めるのは鍼灸師の妻木充法(つまき・みつのり)さん(57)と鳥海崇(とりうみ・たかし)さん(31)、理学療法士の中島圭吾さん(37)。3人は、東京都内のスポーツ医療専門学校の教員で、今大会では、スイスのマッサージ師ら2人、地元・南アの理学療法士3人とともに、計8人で審判のけがの治療などを担当している。
「魔法の指だ!」。妻木さんらのはり治療を初めて受けた審判からは、驚きの声があがる。3人は多い日になると1人で10人を治療。これまでに64試合中60試合を終え、「足の肉離れとねんざが1人ずつ。大きなけがをした審判はいません」と妻木さん。劇的な効果に驚いて通うようになった審判も多く、国際サッカー連盟(FIFA)のブラッター会長もごひいき様だ。
今大会、審判は世界44カ国から87人が招集された。審判が1試合で走る距離は選手とほぼ同じ10〜13キロ。ただ、平均年齢は39歳と選手より約10歳高い。ひざ、腰、股関節の慢性的な痛みを抱える審判が多い。妻木さんは「どこも痛くないがチェックしてくれ、という人もいるほど審判も体に気をつかっている」と話す。
妻木さんは心理学を専攻していた日大在学中に左目を悪くし、角膜手術を受けた。失明しても生活していけるようにと鍼灸師の道に。80年代から90年代にかけて、日本代表や千葉、横浜マでも選手トレーナーを長く続けた。アジアでも勝てない時代を味わい、「何か新しいものを」とすがるような思いでドイツに単身留学したこともあった。出会った監督で最も印象に残るのは千葉時代のオシム監督。けが人を出さないよう大事を取りがちな立場だが、「トレーナーもリスクを冒せ」とよく求められた。W杯に携わるのは02年の日韓大会から3大会連続となる。
30分の治療時間ではコミュニケーションも重要になる。無事に試合を終えた審判には「素晴らしかった」と気さくに声をかければいいが、ミスをした審判への接し方には気を遣う。今回もミスのあった審判には黙って抱きしめてあげることしかできなかった。
審判の合宿にも参加し、南アの滞在期間は5週間を超えた。長い時間を審判とともに過ごしてきたチームの一員として妻木さんは「集大成のW杯を仲間とやれたのは幸せ。このまま大会が終わらず、ずーっと続いて欲しいという気持ちがある」と話している。(潮智史、富田祥広)
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7月11日現在