(W杯11日、スペイン1―0オランダ)
危機にも表情は変えない。GKの落ち着き払った振る舞いが、どんなにチームを安心させることか。スペインのカシリャスは知っていた。
後半17分。オランダのロッベンがフリーでゴール前に突進してきた。間合いを詰められた。ぎりぎりまで見極めた。左に跳ぶ。逆を取られた。あきらめない。右足でシュートに触り、はじき出した。プジョルが、シャビアロンソが駆け寄って握手を求めてきた。笑顔は見せない。
38分、再びロッベン。プジョルが競り負け、また1対1になった。今度は思い切って前に出た。シュートを打たれる前に、体全体で包み込むように球を押さえた。
「彼が、チームを最悪の結果から救った」とデルボスケ監督。2度の決定機を防いで勝利を引き寄せた。試合が終わり、ほとんどの選手がカシリャスに抱きついた。主将は表情を崩した。顔を覆った。「スペインのサッカー界にとって歴史的な瞬間だ」
W杯で悔恨の記憶を重ねてきた。21歳で初出場した2002年日韓大会。準々決勝で韓国にPK戦負けを喫した。5人のPKを1本も止められず「運が悪かった」と立ち尽くした。06年ドイツ大会は決勝トーナメント1回戦でフランスに完敗。08年欧州選手権を制し、迎えた南アフリカ。「欧州選手権の優勝は、もちろん素晴らしい。でも、それより大事なのがW杯」。決勝トーナメントは無失点だった。
表彰式。主将はトロフィーを手渡され、キスをして、夜空に掲げた。「僕らがどれほどの偉業を成し遂げたのか。まだ実感できない」。再び顔を覆った。涙は止めようがなかった。(中川文如)
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7月11日現在