6月11日に開幕したW杯は、スペインの初優勝で幕を閉じた。32チームが参加した今大会の傾向をまとめてみた。(編集委員・潮智史)
手堅い試合運びが多かった1次リーグだったが、決勝トーナメントに入ってゴール数も増えた。活発な試合が1次リーグで続いた4年前とは逆の流れだったが、1試合平均の得点数は2.27にとどまった。出場チーム数が32に増えた1998年フランス大会から続く減少傾向はさらに進んだことになる。
一方で、16強の顔ぶれを前回大会と比べると、欧州が10チームから6に減少したのに対して、南米は3から5に、アジアは0から2、北中米・カリブ海は1から2に増加。アフリカは1のまま、オセアニアは1から0に減少しており、各大陸にばらけた。世界的な均衡が進んでいることを示している。特に守備面では、日本がそうだったように、どこも組織的に連係を取りながらブロックを作り、格上のチームに対抗するすべを身につけてきた。
■個人頼みに限界
準々決勝以降の戦いは示唆に富む。まず、メッシを擁したアルゼンチンの敗退は個人の力に頼るだけでは勝てないことを示した。ブラジルはルイスファビアーノ、ロビーニョ、カカに右サイドDFのマイコンを絡めた攻撃がほとんどで、手堅い守備陣との分業制の限界を感じさせた。ただし、ボールをゴールに向かって前に運ぶ力は大会でも際立った。だからこそ、ほかのMFがどんどん攻めに絡んで攻撃に厚みを持たせられれば、悠々と6度目の王者になったはずだ。
その点、新鮮だったのは全員攻撃全員守備を徹底させたドイツの躍進だ。ミュラー、エジルに代表される20歳そこそこの若手の才能が08年欧州選手権準優勝からチームをバージョンアップさせた。レーウ監督はスペインのボール保持、イングランドの速いテンポ、イタリアの堅守などライバルたちの長所から学び、柔軟に取り込む努力をしたと明かしていた。
日本が組織力とともに高く評価されたのは運動量の多さだ。1次リーグ3戦を終えた時点でチーム全体の走行距離はオーストラリアに次ぐ2位。ただし、トップクラスに限らず、試合開始から終了まで激しく動き回るのは当たり前。スタミナを90分持たせるために効率良く配分するという発想はもう時代遅れに映る。
■米国・チリ好印象
ショートパスを多用したスペインの優勝は、技術を高めれば体格差を十分に補えるという点で日本に勇気を与えてくれる。ただし、日本のパス成功率は出場32チーム中最下位の60%にとどまった現実は直視しなければいけない。短距離パスの成功率は71%(19位タイ)だが、中距離パスは65%(最下位)に落ち込む。中距離パスで首位のスペイン、ブラジルは84%に達している。手本になる意味で好印象を持ったのはチリと米国。組織力と運動量を高め、積極的に攻撃を仕掛けた。パラグアイの相手に応じた柔軟な試合運びと闘争心も素晴らしかった。
大会全体を見渡して、戦術的に驚くような発見はなかった。最も話題を集めたのがマラドーナ監督だったということが、大会を表している。スーパースターの出現はまたお預けとなった。
![]() オランダ |
0 | ― | 1 |
![]() スペイン |
7月11日現在