【攻略編】元競歩選手が指南/100㎞歩ききるためには(前編)
2023.4.18

100kmウォークに挑戦してみたいけれど、いきなり長距離を歩く自信はない、という方も多いでしょう。千里の道も一歩から――。100kmを完歩するために、どんな練習や準備をすればいいか、シドニー五輪競歩代表で、現在は健康増進目的のウォーキングから競技性の強いロングウォークまで幅広く指導する、柳澤哲(やなぎさわ・さとし)さん(52)に聞きました。
これまで約5万人に指導
――「ウォーキング+競歩」というサイトを立ち上げて、個別指導や講習会を開かれています。どういった方をサポートされていますか。
脳こうそくのまひが残る方や、変形ひざ関節症の方、100kmウォークやマスターズ陸上に挑戦する人など様々です。一人ひとりのニーズや目標を聞き、それぞれに合ったメニューを提案して、様々な人の挑戦をサポートしています。
講習会は月に1回、10kmの距離を時速6kmで歩く「テン6(ロク)ウォーク」(定員10 人~20人)のほか、参加者一人ひとりの歩く姿を撮影して、動画にコメントをつけて返す「動画フィードバック付き講習会」(定員10人)を開催しています。エクストリームウォークに参加する前に申し込まれる方もいます。2004年に競技を引退して以降、自治体などに招かれて講習会を開いてきました。個人で開催したものも合わせると、教えた方は5万人近くになると思います。
歩き方は十人十色、その人に合った歩き方がある
――指導される時、気をつけているポイントは。
歩いた後に出る痛みは、体が教えてくれるサインです。原因は大きく分けると、フォームが悪いか、練習量が多すぎるかのどちらかです。私自身も現役選手の時、両脚とも太もも裏の肉離れを経験しています。
フォームが悪いと、ひざ・腰・足首など関節への負担が増します。トレーニングの量としても次の日も同じスピードで、同じ距離を歩けることが大切です。
個別指導に参加する方には、事前に既往症や現在の体の状態を尋ねます。例えば、腰が痛めがちな人は反り腰であるなど、姿勢が悪いことが痛みの原因になっていることがあります。また、股関節を痛めている人には、できるだけ骨盤をひねらない歩き方を教えます。もちろん、万人に共通する【正しい歩き方】はありますが、歩き方は十人十色でその人に合った歩き方をアドバイスしています。
1日2万~3万歩は歩く。体重は現役時代とほとんど変わらない=2023年4月、東京都渋谷区の代々木公園
短い距離でも、毎日歩く習慣が大事
――100kmを歩くために、まずはどんな練習から始めたらいいですか?
まずはシンプルに、歩く習慣をつけることが大切です。1日30分でもいいので、毎日コツコツと歩くことから始める。時速5~6kmなら2.5km~3kmを歩く計算です。週1回だけ、ある程度の距離を歩くよりも、毎日短い距離を歩く方が効果的です。毎日歩くことで足の裏の皮が厚くなり、マメもできにくくなります。
――30~50kmという長距離を歩いておく必要はありますか?
私のお勧めは、10kmごとに目標を立てることです。最終的に10kmを歩くことができれば、100kmは歩ける。普段歩く10kmを10回繰り返せばゴールできるという感覚です。エクストリームウォーク100km部門の完歩率は、ほぼ75%以上ですが、完歩した全ての人がハードな練習をしたわけではないはずです。もちろん、大会前に30km~50kmという長距離を歩くのは理想ですが、自身の中で100kmという距離に対するハードルを上げないことが大切です。
頑張ろうとする自分を発見できる
――ウォーキングの魅力とは?
人間は1歳から歩き始め、走らない日があっても、歩かない日はありません。人が人であるための基本的なスポーツ、いつでも誰でもできる、敷居が低いスポーツがウォーキングです。例えば3~4歳の子どもと80代のお年寄りが一緒に歩くこともできる。ランニングでは、そうはいきません。
その中でも100kmウォークは、見知らぬ人同士が励まし合いながら、真夜中の街を歩いていく、そんな非日常を味わうことができます。疲れも眠気もあって大変ですが、最後は気力、気持ちが大事です。あきらめたくない、頑張ろうとする自分を発見できるのも、魅力の一つだと思います。
(大会事務局)