TAKESHI HAKAMADA

ミッションは月へ
技術究めた旅

――スーパーチタニウムTM開発半世紀

特別対談

ispace ファウンダー
代表取締役
袴田武史

TAKESHI HAKAMADA

シチズン時計
製造技術本部 外装開発部
表面処理開発課 課長
伊藤智

SATOSHI ITO

SATOSHI ITO

人類初の月への有人宇宙飛行「アポロ計画」に世界が湧いていた1970年、シチズン時計は宇宙用素材として注目されていたチタニウムを使った世界初の腕時計「X-8コスモトロン・クロノメーター」を発売した。それから半世紀。民間では世界初の月着陸を目指すプログラム「HAKUTO-R」が動きだす。実際に月に行く月着陸機(ランダー)にはシチズン時計が、より強くて軽い腕時計材料として開発してきたスーパーチタニウムTMを使った部品が組み込まれる。ispaceの袴田武史 代表取締役とシチズン時計の開発担当技術者の伊藤智 製造技術本部表面処理開発課課長が、ものづくりと宇宙開発への思いを語り合いました。

1970年に発売された世界初のチタニウム製腕時計「X-8(エックスエイト) コスモトロン・クロノメーター」

スーパーチタニウム™とは

シチズンが1960年代からチタニウム研究を続け、生み出した独自素材。チタニウムは元来、軽く、肌にやさしく、サビにくい。だが金属としてはやわらかく、加工が難しかった。シチズンの加工技術と、表面硬化技術「デュラテクト」を投入し、キズを防ぐ強さと、美しさを付加。スーパーチタニウム™はステンレスの5倍以上の硬さを備え、およそ40%も軽い。

シチズン独自の技術「デュラテクト」による表面硬化処理。チタニウムの表面に硬さと美しさを与える。

HAKUTO-Rとは?

宇宙規模の生活圏を築くことを目指す日本のスタートアップ企業ispace(アイ・スペース)が、民間初の月の探査に挑む計画。地球の持続には宇宙の資源活用が必須と考え、月の水資源に着目した。月着陸機と探査車を独自開発し、米企業SpaceXのロケットを使って2022年に月面着陸、23年に探査を行う。
※2020年12月時点の想定

CROSS TALK

軽くて、強い腕時計の素材で宇宙へ

TAKESHI
HAKAMADA

ispace ファウンダー
代表取締役
袴田武史

SATOSHI
ITO

シチズン時計
製造技術本部 外装開発部
表面処理開発課 課長
伊藤智

計画参加でものづくりの
技術を広めたい

袴田 民間の月面探査レースに参加していた日本のチーム「HAKUTO」のサポート企業をシチズンさんがしてくれていたことが大きなきっかけとなり、その後の月探査プログラム「HAKUTO-R」にも2019年から参加してもらいました。「HAKUTO-R」は参加各社と協業するのが特徴で、シチズンさんには、今後我々が宇宙で活用したい技術をお持ちだったので、その活用をお願いしました。宇宙の過酷な環境に耐え、打ち上げコストからもなるべく軽量化ができて、強いものを。それがスーパーチタニウムTMの技術でした。

伊藤 我々も、ものづくりをしていく中で、その技術を世の中に訴求していかければならないと思っていました。そうした中、宇宙産業とのコラボレーションによって、我々の持っている技術を世の中に知ってもらえるということで、計画に参加しました。

袴田 計画プログラムの開発にあたっては、シチズンの技術者の方と様々な打ち合わせを何度もさせてもらいました。両者にとってメリットがあるのがスーパーチタニウムTMの技術で、月着陸機のどこにどんなものが使えそうなのか、白紙状態から議論しました。シチズンさんの特徴の1つは、表面加工の技術だったので、力が集中する部分への活用がいいだろうと。力が集中するところは、どうしても使われる素材の量が多く、重くなります。それを軽くすることができるスーパーチタニウムTMで、月着陸機の脚に使うのが一番よいということになりました。

何十年もの開発で
行き着いた表面加工技術

伊藤 スーパーチタニウムTMを着陸機の脚に使う話は19年9月ごろに私たちのところに来て、開発を進め、20年2月には最初の試作部品を納めました。着陸機の部品を作るのは初めてなので、なかなか要求に応えられず、生みの苦しみを味わいました。ispaceさんにも協力いただいて、最終的にはいいものが作れたと思っています。

スーパーチタニウムTMは、基本の成分はチタニウムですが、チタニウムは非常に加工がしにくい材料として知られていました。私たちの先輩技術者たちは、チタニウムは軽くて、肌など人体への負担も軽いので、腕時計の材料に適していると認識していましたが、加工がしにくいという問題がありました。それをどうやったら、シャープな表面と形に整えられるだろうかと開発が進み、何十年もかかって行き着いたのがスーパーチタニウムTMでした。

何十年も前の初期のチタニウムの腕時計は、本当にグレー色が強く、ザラッとした質感でしたが、今の時計では、表面がシャープできれいです。こうしたチタニウムの加工技術と、表面の硬さを出す表面処理の技術を組み合わせたのが、スーパーチタニウムTMです。

従来、時計外装の表面処理は、液体の中で素材表面に膜を作る「湿式」というものでしたが、ドライな真空状態で膜を作る「乾式」にして、その中でいかに素材の上に膜を密着させて傷に強くするかが、開発の目的でした。さらに時計ということで、装飾性と耐久性を兼ね備えた表面コートにしなければならず、そのことが、スーパーチタニウムTMの開発では一番苦労した点です。

袴田 我々は、軽くて強い素材を求めていたので、スーパーチタニウムTMには期待しており、それを活用させてもらえるのは非常にありがたいことです。長年かけて発展させてきた技術なので、高機能が維持できるのでしょう。月着陸機では宇宙環境の中、放射線や熱、外圧などにいくつか耐えないといけないことがあります。表面が滑らかなものだと、均等に力も分散して強度も保てます。それだけに表面加工の技術は重要と思っています。

伊藤 我々は製品を量産するのが常でしたが、今回は1点もので、失敗が許されないものでした。その意味でも、非常に緊張する仕事で、ispaceさんの技術者とのすりあわせも必要でしたが、宇宙産業にかかわれるということでモチベーションも高くやれました。

洗練された
エンジニアリングが
美しさにも

袴田 宇宙機と時計は全く違うものですが、いずれも精巧に作られています。宇宙機は宇宙に行ってからでは直せないので、しっかりしたものが要求されます。時計はエンジニアリングの完成形のようなもので、それが長年どんどん洗練されていくと美しいものになります。宇宙機は作られて60年以上になりますが、まだ数も多くは作られてはいないので、なかなか美しいというところまでは来てはいません。それでも今後は、宇宙機でもエンジニアリングでは美しさを、ということが出てくるのではないでしょうか。将来的にはスター・ウォーズに出てくるような格好いい宇宙船が出てきてほしいし、我々もエンジニアリングを通じて近づいていきたいです。

伊藤 私も小さい頃から宇宙にはあこがれがありました。10年、20年後には宇宙への距離感も変わってくるでしょう。我々は、未来に向けて仕事をしている、と誇りに思っています。

袴田 まずは月着陸機の脚の一部にスーパーチタニウムTMを使わせてもらいますが、今後もそれに限定していく必要はないと考えています。今回で検証できれば、今後は月探査車(ローバー)の方でも軽量で強い素材が必要になるので、活用させてもらう場所は増えていくのではないでしょうか。

(写真撮影:2020年12月1日)

PROFILE

はかまだ・たけし/1979年生まれ。米ジョージア工科大学大学院で航空宇宙工学修士号を取得。その後経営コンサルティング会社勤務を経て、2010年に史上初の民間月面探査レース「『Google Lunar XPRIZE』に参加する日本チーム「HAKUTO」を率いた。13年に「HAKUTO」の運営母体となる株式会社ispaceを設立、代表取締役に。18年から「HAKUTO-R」を主導しながら月面輸送を主とした民間宇宙ビジネスを推進している。

いとう・さとし/2004年シチズン時計入社、2009年から時計外装の表面処理開発部門へ。主にウェットプロセスの環境対応、工程設計、工程改善などの生産技術に従事。2013年から2016年同社中国表面処理工場に駐在。2020年より外装開発部表面処理開発課 課長。「HAKUTO-R」でも使用されている「スーパーチタニウム™」の表面処理開発を担当している。

スーパーチタニウム™
開発半世紀を
記念して新商品が発売

宇宙に挑む。可能性をひらく。

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(右上から時計回りに)
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アテッサ CC4015-86L ¥286,000税込(税抜価格¥260,000)
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50年の結晶。新たなる革新。

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