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特別養子縁組

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インタビュー

法的な結びつきが子どもに与えるもの

日本女子大学人間社会学部社会福祉学科 教授 林 浩康さん

実親の元で暮らせない子どもたちには、育ての親による温かな家庭だけでなく、その親との間に「法的な親子関係」を結ぶことがきわめて重要な場合もあると語る日本女子大学の林浩康教授。厚労省研究班の代表も務めた知見をもとに、特別養子縁組制度の現状や、法的な関係が子どもの育ちに与える影響について語ってもらった。

関わる人の意識次第で、養子縁組はもっと広がる

——近年、子どもの虐待に関する報道を目にする機会が増えています。日本では社会的養護の必要な子どもが増えているのですか。

確かに、子どもの数は減っているのに社会的養護人口は横ばいもしくは漸増傾向ですので、割合でいえば上がっているといえます。しかし私は、これまで潜在していた状況がより顕在化してきたという側面が強いのではないかと思っています。

虐待の疑いがある場合に利用できる189番(児童相談所全国共通ダイヤル)の周知が広がったことや、DV案件はすぐに警察から児相に通告するという連携が進んだことで、今まで家庭の外には見えにくかった問題が顕在化してきた。その変化が大きいのだろうと思います。

——日本では、親元で暮らせない子どもの大半が児童養護施設や乳児院などの施設で育てられています。家庭養護が中心の諸外国と比べて、それほど差があるのはなぜでしょうか。

日本でも近年とくに家庭養護をより重視する方向に政策の転換がはかられています。また厚労省の統計によると、里親等委託率は都道府県によってかなりの差があり、少ないところでは1割を切っている一方で、4割を超えている自治体もあります。

母数の大きな都市部では、多少の事例があっても割合はなかなか伸びませんので、ひとつの数字だけで判断することはできません。しかし、里親や養子縁組制度に明るい専任職員が児相にいるか、経験を積んだ民間機関が地域にあるか、といったことが委託率に影響しているのはおそらく間違いないでしょう。制度の利用を促進する仕組みと、それを運用する現場の体制、そして関わる人たちの意識によって状況は大きく変わる。統計の差が示しているのはそのことだと思います。

——里親よりも養子縁組制度が重要だと考える理由は何ですか。

1980年代に神戸の家庭養護促進協会が、3年以上の長期里親を経て成人した人と、養子縁組で成人した人の意識調査を行いました。それによると、家族への所属意識や自己肯定感といった項目で、養子縁組された人が上回っています。また近年行われた日本財団による調査結果によると、一般家庭で実親に育てられた人よりも高い傾向が見られました。

2016年に改正された児童福祉法では、実親と暮らせない子どもへの代替養育は家庭での養育を原則とし、永続性(パーマネンシー)保障としての特別養子縁組を推進することが求められています。子どもには安心して暮らせる家庭が必要だという点については多くの人が同意してくださるでしょうが、それは1日3回の食事と雨風をしのぐ住居といった「環境」だけあればいいのではありません。パーマネンシー保障としての「法的な親子関係」が、きわめて重要なんです。

声が聞こえる近さに、家族がいることの温かさ

——実親に育てられた人よりも自己肯定感が高いというのは驚きです。

私が以前出会った大学生の男性は、自分を含む2人の特別養子と里親委託の子ども、そして両親の実子という4人兄弟の中で育ったそうです。話を聞くと、毎日を大切にしよう、将来をより良く生きようという意識が非常に強く、両親への感謝の言葉や血のつながらない弟たちを気遣う言葉がいくらでも出てきます。そんな彼に対してご両親は、「うちに来てくれてありがとう」「私の大好きな○○くん」といった言葉を日常的にかけているようで、それが彼の意識にポジティブな影響を与えていることが伝わってきました。

彼との会話で特に印象に残っているのが、「一番楽しい時間はいつですか」という質問に対して「食事の時間」と答えたこと。家族みんなでワイワイやるという意味ではなく、自分が塾から遅く帰って一人でご飯を食べていると、横のリビングから家族がテレビを見ているにぎやかな声が聞こえる。そんな時に幸せを実感するというんです。彼がその家で得られたもの、得られて良かったと感じているものがとてもよくわかる気がしました。

——里親や普通養子縁組では、状況はまた違いますか。

里親制度というのは実親との親子関係が継続し、子どもは法的には「同居人」という位置付けです。子どもは18歳までに実親の元に戻れなければ、原則18歳で自立しなければなりません。普通養子では実親と養親双方との間に親子関係が存在し、養親との関係は切ることもできます。特別養子縁組では実親との関係は消滅し、養親との法的な親子関係が一生続きます。

別のある男性は、長く里子として暮らし、成人する時に普通養子縁組をしたそうです。しかし本人は、小学校低学年のころにはもう自分の置かれた状況を理解していて、早く養子にして欲しかったと語っていました。ご両親にはまったくそんな気はなかったとしても、「いい子にしていないと養子にしてもらえないんじゃないか」と子どもが思い込んだとしたらかわいそうですよね。

——当事者以外には、里親制度と特別養子縁組制度の違いがあまり知られていないのではないでしょうか。

そうですね、そのことをしっかり周知していくと同時に、法的な親子関係が子どもにとってどんな影響を与えるかというデータがもっと必要かもしれません。里親さんの努力を否定するつもりはありませんし本当に頭が下がりますが、里子の状態が長期化し複雑な思いを抱えた子どももいることは、多くの人に知ってほしいと思います。

いろんな家族がいる、それが普通になってほしい

——今後、特別養子縁組制度の利用を広げていくにはどうすれば良いでしょう。

今年1月の末に、法制審議会(法務大臣の諮問機関)が特別養子縁組制度の見直し案をまとめました。そこでは、これまで「原則6歳未満」とされていた子どもの対象年齢を、15歳未満に引き上げることが提言されています。学齢期以降の特別養子縁組の推進も重要でしょう。養親の年齢要件は自治体によって違いがありますが、例えば40〜45歳程度までとしていた自治体は養親の年齢要件も緩和していくことになるでしょう。

これまで児相が養親の「なり手」を探す場合、不妊治療中の夫婦などが第一候補だったと思いますが、今後学童期以降の縁組も考慮し、実子の子育てが一段落した50代以上の夫婦なども視野に入れていく必要があると思います。

——養親となることを検討中の人たちにアドバイスはありますか。

血のつながりがないからこそ、子どもの養育に関するすべての責任を自分が負わなければ、と気負ってしまう人もいるようですが、良い親であろうと意識しすぎると親も子も苦しむことになります。特に子どもが思春期を迎えると親子双方のストレスが高まり、「やっぱり血がつながっていないから」といった言葉をぶつけてしまったという話も聞きます。

当然ながら養親さんにも子どもとの関係以外の生活があり、仕事や付き合いがあるのですから、そのすべてを子どものために犠牲にする必要はありません。家庭の中だけで抱えきれないものは、児相やあっせん団体、公的機関などとの連携で一緒に解決していくという意識が大切です

——周囲の人たちが手助けできることもあるでしょうか。

社会的養護の「社会」にはすべての人が含まれますから、まずは納税者の一人としてこうした取り組みに関心を持ってください。

養親さんが特に頭を悩ませるのが、子どもへの真実告知だけでなく、子どもの友達やその保護者に何をどこまで、どのように伝えるかということです。いろんな家族があり、いろんな親子がいるという認識が世の中でもっと当たり前になっていけば、当事者たちの心的負担は軽減されるでしょう。国が目標とする年間1,000件の特別養子縁組を実現するためにも、それが不可欠だと思います。

はやし・ひろやす/大阪市出身。北海道大学大学院教育学研究科後期博士課程修了。学生時代、親元で暮らせない子どもたちとふれあうボランティアに参加した体験をきっかけに、子ども・家族支援の研究に。著書に『子どもと福祉 子ども・家族支援論』『子どものための里親委託・養子縁組の支援』(共著)など。特別養子縁組に関する厚労省研究班の代表も務めた。

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