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特別養子縁組

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イベント採録

特別養子縁組シンポジウム@東京

日 時
3月23日(土)13:30〜16:30
会 場
浜離宮朝日ホール・小ホール(東京都中央区築地5-3-2)

基調講演
「特別養子縁組制度と社会的背景、制度推進のために」 特別養子縁組制度の推進のために
─その社会的背景と民法改正を考える─

早稲田大学法学学術院 教授 棚村政行さん

児童虐待による死亡事例、加害者の8割は実親

日本には要保護児童、つまり親が育てることができない、あるいは育てることが適当ではないとされた子どもが、2016年の統計で約4万5千人います。里親やファミリーホームの委託児童は6200人超。一方、児童養護施設では依然として約2万7千人、乳児院では3千人弱という多くの子どもが暮らしています。また児童養護施設の在所児童の約6割が児童虐待・ネグレクトを受けた経験があり、近年は知的障害や発達障害を持つ子どもの割合も増加傾向にあります。

日本の里親委託率は2015年で17.5%ですので、03年の8.1%よりは改善しているものの、オーストラリアは93%、お隣の韓国でも43%であることを考えると、先進国またはアジアの国々のなかでもきわめて低いと言わざるを得ません。

2016年の児童福祉法の改正で、実親による養育が難しい子どもに対しては、家庭養育を優先する方向性が明記されました。つまり、子どもに対しては里親による家庭的環境での養育、さらには特別養子縁組による永続的関係の提供を第一に考えましょう、ということです。17年8月に取りまとめられた「新しい社会的養育ビジョン」では、家庭の支援体制、児童相談所の機能強化などと並び、永続的解決(パーマネンシー保障)としての特別養子縁組制度の利用促進が掲げられています。

児童虐待・ネグレクトの現状についてお話しすると、2017年に全国の児童相談所が対応した児童虐待の相談件数は約13万4千件に上り、過去最高を毎年更新し続けています。そのなかで2016年には48件の死亡事例で52人が、15年には72件で84人が亡くなっています。被害児のうち約6割が0歳児で、加害者は実母が最多の約50%。次いで実父が23.1%。父母双方というケースもあり、全体の80%以上は実の親による虐待で亡くなっています。

2011年にはすでに、児童虐待防止のための民法および児童福祉法の一部改正が行われ、親権者が監護教育権を持てるのは「子の利益のため」であるという規定が追加されました。同時に、懲戒権(懲罰を与える権限)は「監護および教育に必要な範囲内で」と限定されています。しかし、野田市の小学生女児が亡くなり実父母が逮捕された先日の事件を踏まえ、暴力を正当化する口実にされないよう、民法の懲戒権規定そのものをなくすことも含めた議論が始まったところです。

「菊田医師事件」が日本社会に問いかけたもの

かつての日本では、家のため、あるいは親のためという養子縁組が少なくありませんでした。家を継がせる、家業やお墓を継がせるため、あるいは将来父母を扶養してくれる子どもがほしい、といった大人の事情による養子です。そこでは必ずしも子どもの幸せが第一に考えられていたわけではありません。

一方で、1973年には「菊田医師事件」が世間の大きな注目を集め、菊田氏が戸籍にも養子の記載が残らない「実子特例法」の必要性を訴えたことから、新たな制度創設の機運が高まっていきました。日本で特別養子縁組制度が成立したのは1987年。この制度は、子どもの利益のために「家庭裁判所の審判を経て」親子関係をつくっていくという点に大きな特徴があります。

法律の条文はどこかでご一読いただければと思いますが、いくつかポイントを挙げると、まず夫婦が共同で縁組をする必要があるということ。これは現時点では法律婚の夫婦に限られます。また養親と養子には親子らしい年齢差があるべきとの考えから、養親は原則25歳以上、子は原則6歳未満とされます。しかし現在は、こうした要件も見直しが進んでいます。

実親との親子関係を完全に切り、新たな親子関係をつくる制度ですので、それに先立っては実親の同意が必要です。ただし悪意による子どもの遺棄や虐待など、子どもの利益を著しく害する事情がある場合には、実親の同意はなくても良い場合があります。一方で、新たな親子関係は特別な事情がない限り解消することができません。

2018年には養子縁組のあっせんを行う民間機関の義務や要件を定めた法律が施行され、従来の届出制から都道府県などによる許可制となりました。この新しい枠組みの下、現在は全国で18団体が活動中です。厚労省の実態調査では、現在は特別養子縁組の約6割が児童相談所、4割が民間機関のあっせんによって成立しています。

※宮城県の産科医・菊田昇氏が、約15年にわたり100人以上の赤ちゃんをあっせんしていた事件。当時あっせんは違法だったが、菊田医師は人道的理由から赤ちゃんを実子として育ててくれる夫婦に託していた。事件の発覚後、菊田氏は刑事訴追され、6カ月間の医師業務停止処分などを受けている。

子の年齢引き上げと2段階審判、変わる民法

最後に、現在の特別養子縁組制度の問題と、それを踏まえた民法改正の方向性についてお話しします。問題点の第一は、制度の利用自体がまだ少なく、パーマネンシー保障という役割を十分に果たせていないこと。先ほど述べた子どもの年齢要件や、実父母の同意要件が障害となるケースが多いようです。

また現行制度では、特別養子縁組の申し立ては養親となる人が行う必要があるため、実父母との対立・葛藤に発展しやすいことも問題です。実親側は縁組が成立するまでいつでも同意を撤回できるため、そのことが養親の地位を不安定にしているという指摘もあります。

こうした実情を背景に、特別養子に関わる民法の改正に向けた論点整理が1年ほどかけて行われ、先ごろ法制審議会がようやくその取りまとめを終えました。大きな変更点となるのが、対象となる子どもの年齢を6歳未満から原則15歳未満に引き上げること。また、家庭裁判所による審判を2段階に分けることも大きなポイントです。

審判の第1段階では実親による養育が困難または不適当であることや、実親が縁組に同意していることについての確認が行われ、第2段階では養親となる人たちの適格性だけを審理します。第1段階での同意成立後2週間が経てば実親の撤回はできなくなり、第2段階に実親がかかわることはありません。

さらに、第1段階の申し立て権者として、養親のほかに児童相談所長が加わることも、今回の改正案の目玉といえるでしょう。これまでは、実親が養育者として適当ではないことを立証するのは養親の役目だったため、大きな労力が必要でした。今後は児童相談所長が実親と養親の間に立つことで、審理のスムーズな進展が期待できます。

私は法制審議会での議論や、そのためのヒアリング、海外調査などに長年携わってきましたが、約30年をかけてようやく民法改正の道筋がつけられたことに関しては、一定の評価が与えられて良いのではないかと思います。いま述べたような法改正が実現すれば、これまでよりは利用しやすい制度になるはずです。

しかしまだ課題はあります。特別養子縁組はあくまで選択肢のひとつであり、普通養子縁組や未成年後見といった制度と合わせて、どのように位置づけ活用していくのが適当かについては、もっと国民的議論が必要です。。そのための情報の周知も欠かせません。また養子・養親・実親それぞれに対する相談支援体制が十分ではない現状も、今後は変えていく必要があるでしょう。

何より大切なのは、子どもの利益を常に中心に考えていくことです。子どもがたっぷり愛情をかけられて育つには、どんな環境が最もふさわしいのか。そのためにはどんな制度や仕組みが必要か。今後もみなさんと一緒に考えていけたらと思います。

取り組み・活動報告
生みの親への理解が生む
プラスの連鎖

アクロスジャパン 代表 小川多鶴さん

生まれながらにして持つ権利を守るということ

私たちアクロスジャパンでは、特別養子縁組のあっせんも行っていますが、基本的には予期せぬ妊娠や子育てに悩むお母さん、お父さんの相談支援を行っています。事務所が産婦人科クリニックの中にありますので、例えば、さまざまな事情でお住まいの近くで分娩ができない方と病院をつなぎ、出産へのお手伝いをすることもあります。 産科医、助産師だけではなく、精神科医、弁護士、行政書士の先生方にも加わっていただき、専門性を生かした多方面からの支援体制を整えています。ご存じの通り、特別養子縁組は法により、実親との関係を断ち、育ての親と子どもが法的な親子関係を結ぶ制度ですので、しっかりと法制度に沿って支援を行う事も大切だと思います。

世界的に養子縁組の基礎的な要素として、「養親」「養子」「実親」の3者ともが養子縁組制度を活用することにより、幸せになるべきであり、このバランスにどの一人でも欠けてはならない、と言われています。

ところが日本では長い間この制度は、「子どもを育てるのが難しい人」と「子どもを授かるのが難しい人」を結ぶ、いわば大人のための制度として捉えられていました。昨今、養子縁組の成立件数も増え、ようやく子どものための制度であることが周知されてきたのかなと思いますが、それでも海外と比べるとまだまだ制度の活用は少ないといわざるを得ません。

すべての子どもには、生まれながらにして持っている権利があります。私たちの使命は、子どもたちが生涯にわたって家庭を得る権利、あるいは親のもとで育つ権利をきちんと守ることだと考えています。言い換えるならば、特別養子縁組委託が支援のゴールではありません。養子縁組はあくまでも養育困難の方への提案できる支援の一つであって、あらゆる可能性を探っても実親が子どもを育てるのがどうしても難しい場合に限り、選択肢の一つとして挙がるものなのです。

子どもにとって最善の選択肢であるために

特別養子縁組を語るうえで欠かせない三つの要素があります。一つは、先ほどもお伝えした通り、実の親子ではない者が法的に実親子になる制度ということです。それから、支援の透明性です。すべての支援において、不明瞭なことがあってはいけません。 三つ目が、この制度を利用する際には、子どもにとって最善の選択肢であるか、ということです。

こうしたことを踏まえて、支援機関を選ぶときに気をつけていただきたいことがあります。まず、自治体から許可された支援団体かどうかということです。現在、許可を得た団体は全国で18あり、無許可であっせんをした場合は罰則が課せられることになっています。次に、団体独自の勝手なルールを養親や実親に強要せず、相談者の意思を尊重しているか。専門的な知識のもとで、丁寧なカウンセリングを行っているか、支援上に不透明な金銭授受がないか。さらには、子どもが産まれたときの状態や、実親やそのルーツに何らかの疾病がなかったか、あるとしたらどういう病気だったかなどの情報を、正しく養親に伝えてくれるかどうか。これは、子どもの健やかな育成を将来に渡り守るうえで、欠かせない情報だからです。

そして次が最も大切かもしれません。将来、皆さんが胸を張って、子どもを迎えた時の話を子どもに伝えることができるかどうか、です。「あなたを迎えるために、たくさんのお金を払った」のではなく、「こういう経緯があって、あなたを生んでくれた人はどうしてもあなたを育てることがかなわなかった。でも、支援機関につながり、あなたをちゃんと産みだし、あなたを待ち望んでいた私たちのもとにつないでくれた」と、伝えられる支援を行っているかどうかです。

団体によって支援内容や理念は異なりますので、しっかり吟味したうえで自分たちに合う団体を選んでいただきたいと思います。

最初から養子縁組に託そうと思う妊婦さんはいない

昨今、予期せぬ妊娠で悩む女性のなかには、電話番号のない携帯を持っている人が多くいます。データSIMのみの携帯は月額料金が安いからなんですが、そうした彼女たちの携帯からは、電話番号しかないフリーダイアルや相談窓口に電話を掛けることができません。私たちはSNSや電子メールでも積極的に相談を受け、相談者の希望する媒体で、彼女たちと少しずつ信頼関係を築き、その先の面談、支援につなげていきます。

初回相談から「子どもを育てるつもりはないから、養子縁組に託したい」と相談できる人はいません。始めは皆さん、とても混乱していることが多く、「おなかが大きくなってきたけれど、どうしたらいいか分からない」というような所から始まります。彼女たちの話を丁寧に聞き、問題を把握し、自分がどんな問題を抱えているのか、彼女たち自身に理解してもらうことがカウンセリングでは重要になってきます。

その後も、母子手帳をもらいに行く必要があったり、保険証が失効しているので再取得する必要があれば、同行し、行政とも積極的に連携し一緒に支援方法を考えます。

もちろん、それだけではありません。分娩(ぶんべん)までのプロセス、そして産んだ後に本当に子どもを託すのかという決断のプロセスも、大切に見守ります。 安心して分娩できてこそ、その先の決断としっかり向き合えるようになります。決して養子縁組に出すためだけの分娩であってはならないわけです。「あなたはもう赤ちゃんのことは考えず、すべて忘れてこれからを生きなさい」という、他者からの一方的な決めつけによる支援では、彼女たちの後悔や自責の念から、その後の人生にも暗い影を落としてしまいかねません。生みの親の自己決定、思いを尊重するということには、彼女たちの将来にも大きく影響を及ぼします。

家族であることに血のつながりは関係ない

子どもを迎えたいと願う人たちへの支援として、厚生労働省が定めた研修項目をもとに、実習などを加え養親研修を行います。家庭調査もあり、ご家庭に出向き、子どもを迎えたときの育児プランや、家屋内に危険物がないかチェックしたり、夫婦合同や個別面談なども行います。研修の場で面談するより、皆さんの城であるご家庭での面談は、より、ご夫婦の人となりや個性を見いだしやすいので、大切なプロセスと考えています。

よく、マッチングはどうしているのか、登録順に委託されるのか、と聞かれるのですが、誰に託すかの最終的な決断は、当たり前ですが実親さんがなさいます。もちろん私たちも養親候補さんのご提案はしますが、私たちだけで赤ちゃんがどこに行くのかと決めることはまずなく、子どもや実親さんの背景や経緯を十分に理解し、背景や経緯をできるだけ肯定的に受け止め、プラスに変えていくことのできる力を持つ養親さんへ託すことが、子どもにとって最善だと言えるでしょう。時々、成立件数が多いほど実績がある団体なのでは、という声も聞きますが、そもそも養子縁組委託は、この制度が子どもにとって最善の選択肢な場合にはじめて成立するものですから、養子縁組の委託件数が多ければいい実績がある団体、というわけでは決してないのです。

いずれにしても、親になるには子どもに対するすべての責任を負う覚悟が必要です。そう言われると身構えてしまうかもしれませんが、実の親子でも同じことではないでしょうか。子どもも「一人の人間」ですから、親や周囲の人々の思い通りに育つとは限りません。将来、親子関係がうまくいかなくなったからと言って、養子縁組のせいにすることはできないのです。結婚がそうであるように、血がつながっていなくても「家族は家族」です。そこには何も疑う余地はないと思います。

取り組み・活動報告
前向きな人生を歩んでいけるように

さめじまボンディングクリニック 事務長 鮫島かをるさん

抱えきれない絶望と人間不信を味わった女性たち

予期せぬ妊娠をしてしまう女性はどんな方だと思いますか。ふしだらな女性だと思う方はいませんか。でも、決してそんなことはないんです。

私どものクリニックは、全国の医療施設が連携して特別養子縁組を支援する「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会(あんさん協)」の本部として、日々さまざまな相談をお受けしています。予期せぬ妊娠で相談をされる方は、圧倒的に未成年が多いんですね。では、彼女たちはなぜ養子縁組を選んだのでしょうか。経済的な問題から子どもを育てられなかったり、相手の男性に逃げられたり、高校生・中学生の妊娠であったりと、理由はさまざまです。最近では携帯やスマホの普及により、知り合って間もない人から性的関係を強要され、妊娠がわかった途端に関係を切られるケースが増えています。いずれにせよ、信じていた相手から裏切られたり、訳がわからないまま性的関係を迫られたりして、抱えきれないほどの絶望と人間不信を味わってきた女性たちがほとんどなのです。実際にあった例をご紹介しましょう。

ケース1:21歳の妊娠末期の女性

協議会にメールが入りました。「身寄りがない、お金がない、一度も妊婦健診を受けていない。こんな私でも赤ちゃんを産むことはできますか」。私たちは、メールを読んだ直後にすぐ動き出しました。駅まで迎えに行き、クリニックで診察を受け、そのまま入院してもらいました。その後、無事に赤ちゃんを産んだのですが、自分にそっくりのかわいい子で、抱っこしながらずっとその赤ちゃんを見ているんですね。そして、どうにかして自分で育てていけないだろうかとつぶやいたんです。

私と看護部長はすぐさま市役所に走り、なんとか生活保護を受けられるまでにしました。クリニックのすぐ近くにアパートを借りて仕事を見つけられれば、新しい生活が始められます。ところが、市役所から戻ったら廊下から彼女の泣き声が聞こえてきました。自分はお母さんを知らないまま育った。毎日のように父や兄から暴力を振るわれてきた。このままだと、私もこの子をたたいてしまうかもしれない。でも、この子には私のような人生は絶対に歩んでほしくない、幸せになってほしい——。

児童相談所は当初、乳児院を提案しました。乳児院なら会いたいときに会えて、親権は維持できます。ところが、彼女が選んだのは特別養子縁組でした。そこで、私たちのところで特別養子縁組を進め、赤ちゃんは愛情深い養親さんのもとに引き取られることになりました。

ケース2:高校1年生で予期せぬ妊娠をした女性

15歳の妊婦さんのお母さんから電話がありました。「高校生になったばかりの娘に生理が来ないので、妊娠検査薬を試したら陽性でした。娘は現在23週で、中絶ができません」。そのお母さんは、食べ物がのどを通らないほどのショック状態でした。高校生に将来について聞いたら、「夢も目標もない」と投げやりな答えが返ってきたのを覚えています。周囲を悲しみのどん底に落とす妊娠でした。

彼女の自宅の近くに協議会の連携病院があったのですが、プライバシーが守られないということで、少し離れた病院に3カ月ほど入院しました。そこで、すばらしい出会いがあったんですね。普通の高校生活では出会えない、医療者との出会いです。特に、いつも自分のかたわらで話を聞き、一緒に涙を流し、寄り添ってくれた助産師たちとの出会いが彼女の心を突き動かしました。「赤ちゃんや助産師の皆さんが夢を与えてくれたので、私も助産師になりたい。将来は自分のような人を助ける人になりたい」。そう語っていた彼女から、先月うれしい報告がありました。無事に高校を卒業し、看護学校に合格したというのです。彼女のお母さんも、娘があまりにも変わったので自分も変わらなければと、看護助手として病院で働き始めたそうです。

特別養子縁組を選んだ女性たちのその後ですが、丁寧にフォローすることで、きちんとした人生を生き直しています。先ほどの女性の例のように、医療職を目指す人も大勢います。このような女性たちを支援することは、彼女たちと赤ちゃんの命を守るだけではなく、彼女たちの人生を守ることでもあるのです。

相手男性に裏切られたうえに、周りの人が自分の妊娠を悲しんでいる。そのような状況では、自己肯定感がとても低くなります。彼女たちは最初、超音波検査の画像を見ようとすらしないんですね。でも、妊娠はなかったことにはできません。この体験を通して、より良い人生を歩んでいけるようにするのが私たちの使命だと思っています。

親の愛を通して信頼することを覚える

子どもを迎えたいと願う養親さんの多くは、妊活をしてきた方たちです。産婦人科医である私の夫は「不妊治療」という言葉を絶対に使いません。子どもを望むという意味で「望児(ぼうじ)」と呼んでいます。

一生懸命妊活しても子どもを授からないのは本当につらいことです。治療で体を痛める妻を見ていられない。でも、妻をお母さんにしてあげたい。あるいは夫をお父さんにしてあげたい。つらい治療で夫婦の絆が強くなり、自分たちのDNAにこだわらないという方が養父母さんへの道をたどります。望児は、養子縁組でも同じだと思います。

私たちの協議会では、子どもを迎えるにあたって教育入院というプログラムがあります。そこで大切にしているのが、ベビーマッサージです。予期せぬ妊娠をしたママたちのおなかの中は、赤ちゃんにとって過酷な状況だったはずです。ママのストレスや心の叫びを受け、とても筋緊張の強い赤ちゃんが生まれてくることがあります。ですから、スキンシップを通して親子の絆を育むのです。

子どもたちにとって、愛情深い両親に見守られて育つこと以上にすばらしいことはありません。父と母が信頼し合う家庭で育った子どもは、人を信頼し、愛することを覚え、その後の人生においても安定した幸福な人間関係を築いていくことができます。そして、いつかその子が家庭を持ったときに、よい連鎖を生んでいきます。これは養子縁組に私たちが託す思いです。

微力ではありますが、私たちのところにSOSを出してくる女性たち一人ひとりに向き合い、彼女たちがその後の人生を前向きに生きていけるような支援を続けたいと思っています。そして、妊活で思うような結果が出せなかったけれど、資格あるすばらしいご夫妻に彼女たちの赤ちゃんを託し、一人でも多くの子どもたちが幸せになれるよう、これからも邁進(まいしん)したいと思います。

取り組み・活動報告
一歩踏み出せば、
きっと幸せが訪れる

タレント・女優 武内由紀子さん

不妊治療を諦めた後に気付いた本当の気持ち

私がいまの夫と出会ったのは37歳の時で、年齢も年齢なんで結婚前から妊活を始めました。赤ちゃんはすぐにできるものだと思ってたし、妊娠してから入籍すればいいや、ぐらいに考えてたんですね。姉にも子どもが3人いますし、親戚もみんな子持ちですから、まさか自分にだけ授からないなんて考えもしませんでした。

でも1年経っても2年経ってもできない。いよいよ40歳になるし、とりあえず婚姻届を出しまして、その後すぐに不妊治療を始めたいと病院に行きました。そしたら、まさかまさかで卵巣囊腫が見つかって、不妊治療はできません、まず手術してくださいという話になったんです。

その手術も済んで、ようやくこれで万全だと思いました。あらためて不妊治療を始めて、毎月採卵して移植できる日になったら移植して、というのを繰り返して。でも、やってもやっても妊娠しなかったんです。後から治療を始めた人にどんどん子どもが生まれて、なんで自分だけできひんのやろと悩んだりもしましたけど、それでもやっぱり子どもは欲しい。

44歳の時、それまで20回ぐらい採卵して、移植も8回ぐらいしてて、この移植でもう最後にしようと思ったんです。それでダメなら夫婦2人の生活を楽しめばいいと。結局その時も着床してません、となった時に、治療をやめる決心はすぐにつきました。でも病院の会計を待ってる間に、何を思ったかもう養子縁組について調べてたんですね。そこで初めて、私まだ子ども諦めてないんだと気付いたんです。産むことはできなくても育てたいんだ、って。

「結婚しなければ良かったと思う?」夫の答えは

その日の夜、すぐ夫に養子縁組のことを話しました。ちょっと調べたら、養子縁組でも親になるには年齢制限があるのがわかったんです。私はめっちゃ焦って、本も取り寄せてネットも調べまくって、1週間ぐらいでかなりの知識を詰め込みました。でも夫は、「うん、わかった」て言った割には何か動いてる気配がない。それである日聞いたんです。「ほんまに考えてる?」と。

そしたらやっぱりあんま考えてなくて(笑)、「治療をやめて1年ぐらい経ったら授かったなんて話も聞くし……」とかボーッとしたこと言うんです。でもそれは、奇跡やと思ってて。それまでいろんなことやりました。針がいいよと聞いたら針治療行ったり、この漢方いいよと言われたら飲んだり。でももう、私は奇跡は信じない。信じたくないと言いました。そうしたら彼もそこから本気で調べて、勉強もしてくれました。

でも夫が自分でいろいろ調べたことで、第二の壁がやってきました。私は不妊治療中から、もし病気の子や障害を持った子でも、この体を選んで宿ってくれるんやったらいいよ、全部受け止める、と思ってたんですね。でも夫は、養子縁組ではどんな事情の子が来るかわからない、もし難しい病気の子だったら、この子がいなければ苦労しなくて済んだのに、なんて思ってしまいそうで不安だというんです。

じゃあ、もし私がいつか大病したら、結婚せえへんかったら良かったと思う?と聞きました。それに対する夫の答えは「思わへん」。即答でした。そう言ってから、「ああ、そうか。ほんまやな」となんか自分で納得したみたいで、その後はどんな子でも一生懸命育てよう、という気持ちに2人そろってなれました。

血のつながりよりも強い、最強の「川」の字

私があっせんをお願いしたのは、今日ここにおられる小川さんのアクロスジャパンです。ぜひお願いしますという話をした後、何回も説明を聞いたり意思の確認をされたりして、その後に面談があって研修を受けて……と続いていきました。

自分たちがどう育ってきたか、子どもを育てるということをどう考えてるか、小川さんにはいろんなことを聞かれました。うちは母が女手ひとつで育ててくれたので、悪いことしたらすぐ「あかんでしょ!」てバチンやられる感じだったんです。もちろん愛情のあるバチンでしたけど、そのおかげで自分は割ときちんと育つことができたと思ってて、母の教育に自信も持ってたんですね。

でも研修を受けるうちに、手を上げることは良くないと理解できたし、子どもを迎えたら違う育て方をしようと思えました。私は養子縁組をしたことで、親になるための準備がゆっくりできて良かったという気がするんです。もし普通に産んでたら、そういうのを教わる機会もなくてバチンやってたかもしれません。

子どもを迎えてからは、本当にバタバタ毎日が過ぎていきます。そこはきっと養子も実子も関係ないですね。あっという間に9カ月になりまして、毎日楽しく子育てをしています。

ゆうべ、明日はみなさんの前で何しゃべろうって布団のなかで考えてたんです。今うちは、親子3人「川」の字で寝てるんですね。息子がいて、その向こうに夫がいて。2人の寝顔を見ててふと思ったのは、私と夫も血がつながってない、この子ともつながってない、だあれも血がつながってない3人が川の字で寝てるって、これって最強やなということです。血のつながりはないのに、ものすごくつながってる。それは本当に幸せなことだと感じます。

もしいま悩んでる方がいたら、そういうことは全部どうにかなる、だから一歩踏み出してくださいと言いたいです。そうすれば、きっとみなさんにも幸せが訪れる。心からそう思っています。

パネルディスカッション
子どもの幸せを願う
パートナーとして

【登壇者】
棚村政行さん(早稲田大学法学学術院 教授)
小川多鶴さん(アクロスジャパン 代表)
鮫島かをるさん(さめじまボンディングクリニック 事務長)
武内由紀子さん(タレント、女優)

【司会】
木佐彩子さん

子どもを迎える前に考えておくべきこと

木佐 特別養子縁組を考えている方は、さまざまな疑問や不安をお持ちだと思います。本日は、会場の皆さんからもたくさんの質問をいただきました。特に多かったのが育ての親、つまり養親さんになるための条件についてでした。たとえば、年齢や収入面などで条件や制約はあるのでしょうか。

小川 年齢の上限については、以前は子どもと養親さんとの年齢差は40〜45歳までが望ましいとされていましたが、現在は法改正によって撤廃されています。とはいえ、80歳のご夫婦が新生児を迎えたいと願っても、現実的には難しいですよね。生涯にわたって子どもを守り、育てていくためには、ある程度の線引きは必要だと考えています。では、年齢の高い人は子どもを迎えることができないのかというと、そういう訳ではありません。養育が必要な子どもたちのなかには、大きくなってから家庭を失うケースもあります。そのような場合は、経験値や専門性を持ったご夫婦に委託した方がいいこともあります。収入については「年収いくら以上」といった条件はありません。ただ、社会的養護が必要になる背景には経済的な問題もありますから、子どもを養育していくだけのライフプランがきちんとあるかは確認させていただいております。

武内 収入に関していうと、私たち夫婦も不安でした。タレントをしているとお金がいっぱいあるんじゃないかと思われるかもしれませんが、そんなこと全然なくて。むしろ、他の方たちより収入が少ないから、なかなか委託されないのかなと夫と話していたほどです。でも、こうして迎えることができたので、いま思えば気にする必要はありませんでした。

棚村 重要なのは、子育てができる最低限のものが確保されているかどうかです。社会的地位があり、高収入で立派な住まいが用意されていることよりもむしろ、意欲や愛情、お子さんとの相性の方が大切です。

木佐 そういう意味では、ドアはかなりオープンに開かれているといえそうですね。武内さんは実際に審査を受けてこられたわけですが、どんなことを確認されましたか。

武内 質問事項がたくさんあって何を書いたか覚えていないくらいなのですが、基本的なことが多かった気がします。なぜ赤ちゃんを迎えたいと思ったのかとか、どうやって育てたいと思っているのかとか。夫婦で話し合いながら記入していく感じでしたね。

夫婦の絆が子どもを守るバリアに

木佐 児童相談所と民間のあっせん機関では、どのような違いがあるのでしょうか。

棚村 2016年の厚生労働省の実態調査によると、特別養子縁組のあっせんに関わったのは、児童相談所が約6割、民間のあっせん機関が約4割でした。数字を見る限り児童相談所が関わるケースの方が多いのですが、残念なことに全国に212ある児童相談所のうち、専門の部署や担当者を置いているところは3割弱しかありません。つまり、地域格差があるのが現実です。社会的養護が必要な子どもが全国に4万5000人もいるのに、特別養子縁組は年間500件ほどしか成立していない現状を考えると、許可を受け、しっかりと支援をしている民間機関を含めて考えないと、とても追いつかないといえるでしょう。どこに相談すれば専門知識を持った経験豊かな人からアドバイスを受けられるか、しっかりとした情報収集を心がけてほしいと思います。

鮫島 それから、社会的養護が必要な子どもたちについての学びを、ぜひとも深めていただきたいと思います。新生児を特別養子縁組で迎えるには、二つの大きなハードルがあります。一つは、子どもにきちんと生い立ちを伝えられるか、つまり真実告知をどのようにするかということ。もう一つは、生まれた時は病気もなく元気そうに見える赤ちゃんでも、何が潜んでいるかはわかりません。当然これは実子であっても同じなのですが、途中から障害が出てくる赤ちゃんがいるかもしれないわけです。そうなったときでも、夫婦できちんと乗り越えていけるような心の準備をしていただきたいと思います。

小川 いま鮫島さんからもお話のありました真実告知ですが、子どもには本当のことを伝えてほしいと思います。ただ、3歳のときからすべてを伝えるというのではなく、年齢や状況に応じて、その子がきちんと受け止められるように伝えるのがいいと思います。皆さんも自分がどんな子どもだったのか、親から聞いて育ってきたのではないでしょうか。養子縁組で迎えた子どもにも同じことが必要です。私たちとしては、そうしたことがきちんとできる方にお子さんを託したいと考えています。それから、不妊治療をしていたときは、妊娠することがゴールだったと思います。でも特別養子縁組で大切なのはその先、子どもをどう育てるかということです。カウンセリングをしたご夫婦のなかには、縁組を途中で諦める方もいらっしゃいます。多くは、ご夫婦で意見の食い違いがあったり、そこまで子育てが大変であるとは思っていなかったりという理由なんですね。あるいは不妊治療を経てようやく授かった子どもを、特別養子縁組に託すご夫婦もいらっしゃいます。産むことがゴールになってしまうと、そうなってしまうんです。養親と実親を隔てる壁は、とても薄いものです。どちらも同じ状況になりうるということも頭の片隅に置いていただければと思います。

正しい支援がより良い親子関係に結びつく

武内 私も特別養子縁組で子どもを迎えましたが、普通に妊娠していたら、こんなにも熱心だったかなと思うくらい夫が子育てをしてくれるんです。それはやはり、養育が必要な子どもの現状を知り、子育てについて二人で研修を受けてきたからではないかなと思います。それから、養子を迎えるためには親の理解も欠かせないのですが、私と夫の母親は2人とも最初から反対でした。自分が産んだ子どもだけでも大変なのに、あえて血のつながらない子どもを育てなくてもいいんじゃないかというんです。子育ての大変さをわかっているからこそのアドバイスだったと思いますが、実際に私が子どもを育てて思うのは、実の子であるかないかは、これっぽっちも関係ないなと。それに、あれだけ反対していた母も赤ちゃんと会った瞬間、「おばあちゃんやでー」とメロメロ。そこからは電話がかかってきたり、写真送ってと言ってきたり、もう大変です(笑)。

鮫島 赤ちゃんを迎えてから冷たい対応をした祖父母は、私たちの協議会でもいませんね。反対していた方ほど「うちの孫が一番かわいい」とおっしゃる。それは、赤ちゃんが持っている不思議な力だと思います。

木佐 親子関係が不調になった場合は、どう対処すべきでしょうか。

小川 世界中のさまざまな事例を見てきましたが、親子関係が不調になるケースには共通項があります。ほとんどは、支援機関が正しい支援をしていないところなんですね。実親が団体のいいなりにならざるを得なかったり、子どもが自分の生い立ちを正しく伝えられていなかったりすると、子ども自身が怒りを抱え、親子関係に支障をきたすことがあります。私たちは養親さんに、どんなことがあっても「養子縁組だから」ということを理由にしないでくださいとお伝えしています。すべてを受け入れ、子どもを見守る姿勢を持ち続けてほしいと思います。

鮫島 養子縁組を解消したいという養父母さんは、これまで1組もいません。反抗期に差し掛かって「どう対処すればいいのか」いう相談がくることはありますが、親子関係を解消したいと考える方はゼロです。やはり、あっせんした団体とずっとつながっていること、困難が起きた時にSOSを出せる関係であることが大事だと思います。

武内 それはとてもありがたいと思っています。親がたくさんいる安心感というか。養子縁組で子どもを授かった方たちのコミュニティーもSNS上にはあるので、問題があってもいろいろな人に相談できるのは心強いです。

子ども自身が生い立ちを誇れるように

木佐 今回の法改正によって、今後どのようなことに期待を持っていいのか、逆にどんな課題が残っているといえるのでしょうか。

棚村 その前に一点だけ補足しますと、親子関係の解消が認められるケースも年間数件と、極めて例外的にはあります。養親が想定外の病気などで育てるのが難しくなったけれど、実親側に子どもを育てる環境が整ったときは、子どもの利益になると裁判所が認めた場合に限り離縁が認められます。今回の法改正は、子どもにとって何が最善かを踏まえた手続きになるという点では、期待をしていいと思います。ただし、特別養子縁組という制度を知らない人がまだ大勢いますから、そこをきちんと周知していく必要があるだろうと思います。それから、養子縁組ができる年齢が、6歳未満から15歳未満に引き上げられましたが、年齢が上がるほど心に傷を負ったお子さんが増えてきます。そうしたときに、覚悟だけで養育していくのは無理で、専門性や経験値を持った人、あるいはそうした支援を受けながら育てていける人でなければ難しいこともあります。児童相談所、民間機関、医療との連携がいままで以上に重要になってきますし、子ども自身が多くの人の愛情を受けて育ってきたと実感できる社会づくりは急務でしょう。子どもが持っている「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」を尊重しながら、一人でも多くの人が制度について理解を深める必要があると思います。

鮫島 当事者である養親さんたちがどう思っているのかというと、特別養子縁組を、特別なこととして捉えないでほしいというんですね。養子を迎えたというと「偉いわね」とか「かわいそうな子なのね」という目で見られてしまう。そう思われない社会になってほしいと願っているんです。そこで提案なのですが、学校教育のなかでも養子縁組について正しく伝える仕組みを作ってはどうだろうかと。

武内 すばらしいですね。私が子どもを迎えたときも、私を通して友人たちが養子への理解を深めてくれましたし、彼女たちの子どもは私が養子を迎えたことを自然に受け止めています。多分、その子どもたちはこの先も養子をごく普通のこととして捉えてくれると思うんですよね。

棚村 30年前は養子を迎えたことを世間に隠そうとする風潮もありましたが、そのときと比べるといまはオープンになってきたように感じます。とはいえ偏見や誤解はまだ残っていますから、法制度を変えるだけではなく、社会全体の意識を「大人優先」から「子どもファースト」に変えていく必要があるのではないでしょうか。

小川 私には、実子と養子縁組で迎えた2人の子どもがいます。当事者として言えるのは、子育てをするなかで実子であるか養子であるかは関係ないということです。思い出すとしたら、母子手帳を見返したときくらいでしょうか。ですから、悩んでいる方もまずは一歩踏み出してほしいと思います。不安があるなら短期里親から始め、改めて特別養子縁組を考えるのもいいのではないでしょうか。

鮫島 そうですね。この活動をしていて常々思うのが、養親さんも実親さんも、子どもが幸せになるためのパートナーだということです。子どもたちに生まれてきてよかったと思ってほしい、幸せを感じながら大きくなってほしい。私たちの活動は、その一言に尽きます。

武内 不妊治療をしているときは先が見えず、心底疲れ果てていましたが、養子縁組に一歩踏み出してからは希望しかありませんでした。子どもを迎えてまだ9カ月ですが、いま本当に本当に、ほんっとーうに幸せなんです。生活が一変して苦労することの方が多いですが、そんなの吹き飛ぶくらい幸せです。ほんの少しでも養子縁組について考えているのなら、ぜひとも動き出してほしいと思います。

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