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がんと就労データ集

がん罹患者の3人に1人は就労世代

生涯で2人に1人はがんになり、年間で3人に1人はがんで亡くなる時代

厚生労働省の「人口動態統計の概況(確定数)」(2016年)を基に作成した「がん死亡者と全死亡者に対する割合」(=図1)を見ると、1940年代後半から一環してがん死亡者は増加し続けている。80年代初頭には死因の第1位になり、年間で3人に1人ががんで亡くなっています。国民の2人に1人は一生のうち1度はがんにかかる時代となり、まさにがんは「国民病」といえる。ところが近年では検診による早期発見・早期予防の重要性が認識され、治療技術の発展とともに生存率は改善され続けている。「がん=死」から「がんと共に生きる」時代へと変貌しつつあるといえる。そうしたなか、近年では働く世代でもがんが増え、その生き方や支援の在り方が問われている。

がん罹患者の3人に1人は就労世代

国立がん研究センターがん対策情報センターの統計(=図2)によれば、高齢者(65歳以上)のがん罹患者の増加とともに、生産年齢(15~64歳)におけるがん罹患者も増加していることがわかる。2016年に診断された全罹患者約100万人のうち、20~64歳は約26万人で全体の約26%を占める。20~69歳では約41万人で約42%となる。特に50代後半から急増していることがわかり、男性のほうが罹患率は高い。

36万5千人が治療しながら通院

一方、厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2016年)によると、現在、仕事を持ちながら治療のため通院しているがん患者は 男性15.4万人、女性21.1万人で計36.5万人(=図3)。男性は50代~60代が多く、女性は40代~50代で、比較すると女性のほうが患者数が多く、年齢層も若い結果になっている。

治療成績向上、がんと共に生きる時代へ

がんの治療成績は年々向上しており、「がんと共に生きる人生」が特別なことではなくなっている。地域がん登録に基づき国立がん研究センターがん対策情報センターが集計した「がんの5年生存率(全がん)の推移」(=図4)をみると、生存率の伸長は著しく、1993-1996年に比べ2006-2008年では約10ポイント上昇している。93年からの15年間でみても、がん医療の技術は進歩しているといえそうだ。

全がんの年齢調整死亡率(全年齢)を性別にみると、男性では、1980年代後半まで増加し、1990年代半ばにピークを迎え、1990年代後半からは減少傾向にある。女性では1960年代後半から減少傾向が続いている。男女計では、1960年代後半から1990年代前半まで緩やかに減少し、1990年代後半から減少傾向が明らかになっている。年齢階級を75歳未満に限った年齢調整死亡率は、男女とも全年齢の場合より減少傾向が明らかである(=図5)。

[公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計2018」がん年齢調整死亡率年次推移(1958年~2017年)]から。

がん検診率向上は道半ば

がん検診率は向上しているのだろうか。2007年6月策定の「がん対策推進基本計画」では、個別目標にがん検診の受診率50%以上が掲げられた。5年後に見直された2012年6月策定の計画では「5年以内に受診率50%(胃、肺、大腸は当面40%)」が定められ、受診率算定には40~69歳(子宮頸がんは20〜69歳)までを対象とすることになった。全国を対象に実施した国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」都道府県別がん検診受診率データによると、男女別がん検診受診率(40~69歳)は図6の通り。男女とも4年ごとの調査で受診率は向上している。男性は肺がん検診で初めて50%を超えたが、その他のがん検診受診率は半数以下であり、女性では「大腸がん」「胃がん」検診の受診率が4割弱程度と心許ない状況。がん検診率の向上は道半ばである。

がん患者はあらゆる規模の企業で働いている

がん患者はどのような企業で働いているのだろうか。厚生労働省の「平成22年国民生活基礎調査」を基に同省健康局が、「がんの治療で通院する15歳以上の被雇用者」を集計したデータによると、企業規模の大小に関わらず、あらゆる規模の企業で働いていることがわかる(=図7)。

企業のがんに対する知識は項目によってさまざま

東京都福祉保健局「がん患者の就労等に関する実態調査」(2014年)によると、がん治療やがんに罹患した労働者の実態に対する企業の認知度は項目によってさまざまであった(=図8)。「主な治療法」や「年齢とがん罹患のリスク」、「外来での治療の状況」については80%以上の企業が知っていたものの、「がんの罹患率」「がん患者の5年生存率」「身体障害者手帳の交付対象」の認知度は38.7%~66.9%であり、「がん診療連携拠点病院等」や「職場へのがん罹患の報告に関する実態」、「国におけるがん患者の就労に関する対策」の認知度に至っては20%未満であった。従業員規模によって認知度に大きな違いは見られなかった。

がんと診断されると働き方が変化する

がんと診断された後の働き方の変化についてみてみよう。厚生労働省がん臨床研究事業「働くがん患者と家族に向けた包括的就業支援システムの構築に関する研究」班が2012年8月に公表した「治療と就労の両立に関するアンケート調査」結果報告書によれば、診断時の就労状況と現在の変化において、正社員として継続している率が62%→49%と大幅に減少している。また無職になった者も5%→13%に増加している。正社員として働き続ける困難さが浮き彫りになった格好だ(=図9)。

働き方の変化については、診断後も「同じ職場の同じ部署に勤務した者」は55%と半数を超えるものの、「退職して再就職した」「再就職していない」「同じ職場の違う部署に勤務した」を合わせると37%となり、診断前とは働く場所などの環境が変わっている人が多いことがわかる(=図10)。

がん治療で長休職・休業した従業員のうち、約6割は復職

東京都保健局が2014年に公表した「がん患者の就労等に関する実態調査」報告書によると、2013年から過去3年間のうち、がんに罹患した従業員がいた法人は37.2%であり、従業員規模が大きいほど、その割合が高かった(=図11)。これは従業員数に比例しているといえよう。また、がんに罹患した従業員がいた法人のうち、1カ月以上連続して休職・休業した従業員がいた法人は73.8%であった(=図12)。一方、当該従業員の復職状況を見ると、「復職する場合が多い」と回答した法人が60.9%と最も多かった(=図13)。がん治療で長期の休職・休業した従業員のうち約6割が復職しているといえるが、一方で長期離脱した従業員の約4割は復職できていないとの見方もできる。

治療と仕事を両立する上で困難であったことは

東京都福祉保健局「がん患者の就労等に関する実態調査」(2014年)によると、治療と仕事を両立する上で困難であったことは、「治療費が高い、治療費がいつ頃、いくらかかるか見通しが立たない」(34.5%)や「働き方を変えたり休職することで収入が減少する」(29.7%)といった経済的な問題が多く挙げられており、次いで、「体調や治療の状況に応じた柔軟な勤務(勤務時間や勤務日数)ができない」(24.9%)、「体調や症状・障害に応じた仕事内容の調整ができない」(24.9%)、「治療・経過観察・通院目的の休暇・休業が取りづらい」(23.9%)などの柔軟な働き方についての問題が多く挙げられた(=図14)。

がんと診断後、収入ダウン

厚生労働省がん研究助成金「がんの社会学」に関する合同研究班の調査(=図15)によれば、がん診断後、勤め人のうち約31%が依願退職、約4%が解雇、自営業者で約17%が廃業というデータがある。がん診断後に3割以上の勤め人が退職また解雇される状況は深刻な事態といえる。自営業者らは比較的自身のペースで仕事ができるからなのか、廃業したという者は17%にとどまっている。2009年のNPO法人がん患者団体支援機構・ニッセンライフ共同実施アンケート調査(=図16)によると、有職者の診断前後の職業変化について「そのまま」だったのは約56%だが、無職になった者も約29%いる。有収入者の収入変化では「変化なし」が約58%だったものの、「1ランク以上ダウン」「収入なし」を合わせると約41%になる。この結果、平均年収の変化は、診断前の約395万円から約167万円にダウンしているといった調査結果だった。

がん患者にとって仕事は生き甲斐である

がん患者の就労意向はどうか。東京都福祉保健局「がん患者の就労等に関する実態調査」(2014年)によると、約8割のがん患者が「仕事を続けたい(したい)」と答えている(=図17)。仕事を続けたい主な理由を聞くと、「家庭の生計を維持するため」が73%、「がん治療代を賄うため」が44.5%と経済問題としての理由が挙がったが、「働くことが自身の生きがいであるため」と答えた人が57%おり、就労ががん患者の精神的な支えになっていることがわかる(=図18)。