「売り手市場」を背景に
法・経済など、実学志向の動き

河合塾 教育研究開発本部主席研究員の近藤治氏に、2026年度入試の実施概況や、志望校合格に向けた対策法についてお聞きしました。

INTERVIEW
近藤 治
学校法人河合塾 教育研究開発本部 主席研究員
Profile/こんどう・おさむ 1985年河合塾入職。教育情報分析部門、高校営業、営業統括部門を歴任後、教育イノベーション本部にて大学入試動向分析、進学情報誌「ガイドライン」「栄冠めざして」などの編集に携わる一方、生徒、保護者、高校教員対象の講演も多数実施。2018年より中部本部長として塾生指導に携わった後、2021年4月より現職。

問題数が増えた「情報Ⅰ」
“時間との勝負”の流れに

導入から6年目、新課程移行2年目を迎え、ようやく安定期に入ってきた大学入学共通テスト(以下、共通テスト)。今年は得点調整を要する科目間の平均点差もなく、大きな動きはみられなかったという。

「全体的には、従来の出題スタイルが踏襲されていました。日常の事象を意識した場面設定と、複数の資料を読み込んだうえで解答を導き出す2本柱です。ただ科目別にみると、少なからず変動はあります。ひとつが、国語です。現代文で大問が1つ追加され、情報を処理する力から『情報をどのように表現するか』を問う問題が中心となりました。また歴史総合 世界史探究は、日本史からの出題が増加しています」

昨年から登場した情報Ⅰは、難化傾向にあると分析する。

「出題傾向に変化はありませんが、初年度に比べて平均点が10点以上も低下しました。理由は問題量の増加です。冊子ページは32→34ページに、マーク数は51→60に増えました。そのため制限時間内での完答が難しかったと推測されます。共通テストは昨今、“時間との勝負”の様相を呈しています。情報Ⅰも、その流れに追随していくと思われます」

平均点では、物理も前年度を大幅に下回った。45.6点(-13.4点)は、前身の大学入試センター試験(以下、センター試験)を含めて過去最低の記録。物理は通常60点前後で推移しているため、異例の低さといえるだろう。

「物理の影響もあり、6教科理系型は昨年より30点減、6教科文系型は24点減となりました。理系生の多くは物理・化学で受験するため、文系生よりダメージを大きく受けた結果です。しかしながら過去10年を振り返ると、昨年の共通テストだけが“易しすぎた”とみるべきです。得点上は難化傾向を示していますが、例年の水準に近づいたと捉えたほうがいいでしょう」

共通テスト平均点ダウンで
私立大が大幅な志望者増に

志願動向は、国公立大学と私立大学で明暗が分かれた。

「18歳人口は、昨年から来年までの3年間は階段の踊り場状態です。その状況を踏まえて、国公立大学の志望者数はほぼ前年並み。対して私立大学は、難関大学を中心に大幅増となりました。共通テストの平均点が下がり、国公立大学をめざしていた受験生が私立大学専願に変更、あるいは併願を増やした影響が考えられます。国公立大学の中でも減少が顕著なのは、難関10大学と準難関・地域拠点大学です。地区別でみると、北関東(前年比95%)、南関東(同97%)、東海(同98%)、近畿(同99%)となっています。私立大学の選択肢が多いエリアほど、前年の水準を割り込んでいます」

一方で私立大学の志願状況は、一般方式の前年比志願数が109%、共通テスト利用方式は110%となった。

「模擬試験の時点(12月)では、私立大学の共通テスト利用方式は1割を超える増加率であったのに対し、一般方式は前年並みでした。当初は共通テスト利用方式で私立大学を併願するつもりだった受験生が、共通テストの平均点が下がったことで、一般方式に切り替えた動きがうかがえます。大学グループ別の志願状況は、首都圏では『早慶上理』や『MARCH』『成成明学獨國武』『日東駒専』などで、近畿圏では『関関同立』『産近甲龍』で軒並み増加。東海エリアでも愛知大学や中部大学をはじめ、多くの私立大学が志願者数を伸ばしています」

共学大と併願が
しやすくなった女子大学

女子大学にも注目が集まっている。“女子大離れ”といわれて久しいが、首都圏の前年比集計では120%となった。

「復調の主な要因は、共学大学との併願がしやすくなったことです。女子大学では、理・工・農学系や社会科学系をはじめとした学部・学科の新設や再編が進んでいます。加えて、女子学生の意識も変わってきています。とくに理工系分野に対する興味関心は、明らかに高まっています。しかも従来の受験者は女子大学だけを併願する傾向にありましたが、昨今は学びたい分野があるかどうかで進路を決める学生が増えています」

医・歯・薬・看護など
国公立大学は総じて減少

学部志望状況は、世相を反映する。「文理均衡」は続いているのか。

「今年は、やや文系増となりました。とりわけ国公立大学では、経済・経営・商が前年比102%、法・政治が同101%と伸びています。一方で理系では理・工・農は前年並みを維持していますが、医(同95%)・歯(同97%)・薬(同94%)・看護(同94%)・医療技術・他(同97%)と医療系は総じて減少しています。医療系はコロナ禍では人気を博しましたが、パンデミックが過ぎたうえ、新卒の就活は売り手市場に転じています。受験生の目は就職先の選択肢が広く、“つぶしがきく”とされる社会科学系に向けられています。ただし、この動きは国公立大学に限ってのこと。私立大学の医療系は、医(同101%)、歯(同117%)、薬(同110%)、看護(同103%)ともに増えています。さらに社会・国際(同114%)、法・政治(同115%)、経済・経営・商(同110%)も前年増となっています。私立大学の多くは社会科学系を設置しており、定員規模も大きいことから、志願者増につながったと考えられます」

大学入試は学力だけでなく
人間性も評価対象になる時代へ

合格可能性だけで選ぶと
“ミスマッチ”を招きやすい

大学受験に向けて、「何から手をつけたらいいのかわからない」と悩みを抱えている高校生は少なくないだろう。単に勉強時間を増やしても、合格に結びつくとは限らない。求められるのは、自分に合った対策だ。

「受験生で多いのは、受かりやすい大学から選択肢を絞っていくパターンです。でも、そのアプローチは望ましくありません。まずは自分の興味・関心からターゲットをリストアップし、選抜方法や入試科目などの情報を収集することがファーストステップです。偏差値や倍率も無視はできませんが、合格可能性だけで選ぶと、入学後に『思っていたのと違う』といったミスマッチにつながる場合があります」

河合塾のデータでも、合格した大学があるにもかかわらず、自ら浪人を選ぶ“合格浪人”が増えている。

「近年は合格がほしいあまりに、入学する気がない大学まで受けてしまうケースが目立っています。ところが、いざ入学を前にすると『本当にこの大学でいいのだろうか』と迷いが生じます。少しでも早く合格を手にしたい気持ちは理解できますが、志望校合格は人生のゴールではありません。大学選びには、先を見据えて向き合ってほしいと思います」

総合型選抜には欠かせない
「自分の言葉で伝える力」

総合型選抜は例年、9月1日から出願がスタートし、11月1日以降に合格発表が行われる。どのような準備が必要なのか。

「年内入試と呼ばれる総合型選抜や学校推薦型選抜では、合否判定において面接試験の比重が高まっています。受験を視野に入れたら、『その大学が本当に第一志望なのか』を自問自答してみましょう。私立大学では併願制も増えていますが、国公立大学は基本的に専願制で、合格後は特殊な事情がない限り、入学辞退は認められません。『なぜその大学・学部でなければならないのか』といった訴求ポイントを整理しておく必要があります。そのうえで身につけたいのが、自分の言葉で伝える力です。大学にどれだけ魅力を感じていても、面接担当者に伝わらなければ意味がありません。自分の考えをわかりやすく伝えるスキルを磨いてください」

今のうちに基礎を固めて
弱点を克服しておこう

一般選抜入試を考えている受験生は、この時期、何に取り組むべきか。

「基礎固めに尽きます。とくに苦手科目がある人は、弱点を洗い出してつぶしておいてください。国公立大学の受験は多くの場合、6教科8科目が課せられます。平均点をかなり下回る苦手科目が1つでもあると、たとえ得意科目があったとしても100点以上は取れないため、合計点勝負では不利になります。できれば高校3年生の夏休みが終わるまでには、基礎固めを完了しておきましょう。二次対策は、11月以降に始めても遅くはありません。ただ文章を書く、文章を読むトレーニングは積んでおくことをおすすめします。読解力や表現力が養われます。教材には、新聞が最適です」

一般選抜では、面接試験を導入する動きがある。

「筑波大学が、2028年度から一般選抜前期日程で、一部の学部を除いて面接・口述試験を実施すると発表しました。すでに国公立大学の医学部医学科では面接が必須ですが、筑波大学ほどの規模では類例がないのではないでしょうか。また文部科学省は、総合型選抜や学校推薦型選抜での面接必須化を打ち出しています。大学入試は学力だけでなく、人間性も評価対象になる時代がやってきています」

有効活用したい模擬試験と
オープンキャンパス

志望校合格へのステップのひとつに、模擬試験がある。判定結果には一喜一憂しがちだが、大切なのは「合格までの距離を測ることではない」という。

「模擬試験で示されるのは、学力と志望校合格判定です。何よりも重要なのは、テストが終わったら、すぐに自己採点をして、何をどういった理由で間違えたのかを確認することです。模擬試験は情報の宝庫です。過去の答案は、入試直前期に何にも勝る参考書になります。そのため河合塾では、河合塾PORTALにアクセスすれば、模擬試験で間違えた問題や解法などをいつでもチェックできるようになっています」

オープンキャンパスの活用法についても聞いてみた。

「志望校は足を運んで、初めて気づくことがたくさんあります。通学アクセスや周辺の環境、キャンパスの雰囲気など、より具体的に学生生活をイメージできるはずです。期間中は模擬授業や研究室公開などが行われることも多く、『研究を体感して魅力を感じた』など、自己PRを補強するエピソードの入手も可能でしょう。オープンキャンパスは、入学をめざす理由を明確にする絶好の機会といえます」

共通テスト難化による
志望校変更は冷静に判断

最後に、受験生とご家族に向けてのメッセージを聞いた。

「2026年度の共通テストは、平均点がダウンして難関大学の志望者が減少しました。こうした状況下では、安易な志望校変更は要注意です。『点数が取れなかったのは自分だけではない』と冷静さを保ち、初志貫徹を含めて進学先を検討しましょう。また大学入試は、一昔前とは形式も対策法も様変わりしています。保護者の皆様は、ご自身の経験やSNSなどの情報をもとにアドバイスするのではなく、一歩引いてお子さんを見守るか、もしくは共に情報を得るようにしてください」

INTERVIEW