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Ahead! 大谷翔平が前に進むチカラ presented by 三菱UFJ銀行 大谷翔平が前に進むチカラ presented by 三菱UFJ銀行

Introduction

こんな顔をして何かに夢中になっていることが、自分にもあるだろうか。
マウンドで、バッターボックスで、躍動する大谷翔平を見ていると、
ふとそんなことを考えてしまう。

彼がいる場所には、いつもそこだけ爽やかな風が吹き抜けているようだ。
その風を体に浴びると、自分も顔を上げ、前に進まなければという気にさせられる。
大きく深呼吸をすることさえはばかられる息苦しい時代に、
彼が私たちの前にいることの幸運を思う。

高校時代から彼の歩みを間近で見てきたベースボールジャーナリストの石田雄太さんは、
大谷翔平の前進には終わりがないという。
なぜなら彼が近づこうとしている目標は、途方もなく遠い彼方の高みにいるからだ。

text by石田雄太
1964年愛知県生まれ。青山学院大学文学部卒業。NHKディレクターを経て92年フリーに。著書に『イチロー・インタビューズ激闘の軌跡 2000-2019』『大谷翔平 野球翔年I』『平成野球30年の30人』(いずれも文藝春秋)、『イチローイズム』『桑田真澄ピッチャーズ バイブル18』『声~Voice of Dice-K~松坂大輔メジャー挑戦記』(いずれも集英社)など。現在、週刊ベースボールで「石田雄太の閃球眼」、Sports Graphic Numberで「SCORE CARD」連載中。2021年9月発売のNumber 1035号では、シーズン終盤を迎えた大谷の生々しい肉声を伝える特別インタビューが話題になった。

野球の神様を信じますか――。

 そう訊くと、大谷翔平はこう言った。
「いると思いますよ、メチャクチャ野球がうまい野球の神様。小っちゃい頃から野球を始めて、終わるまでの野球人生が30年以上あったとして、全部の技術を習得することはできないと思うんです。走攻守、すべてにおいてレベル100なんてあり得ない。だからどこまでそこへ近づけるのかが一番の楽しみですし、現役のうちにできる野球の技術、すべてに取り組みたい。僕は、ここまで野球がうまくなった、ということを自分の中に残したいんです。すべてレベル100の全スキルを持っているのは野球の神様だけですからね」

大谷の永遠のライバル

 大谷が目指しているのは、野球の神様に近づくことだった。大谷にとっての野球の神様は永遠のライバルなのだ。となれば、今の自分が100のレベルだと思えない限り、誰に勝とうが、タイトルを獲ろうが、満たされる瞬間がくることはない。だから今の彼には時間がいくらあっても足りないのだ。練習をする、食事を取る、休む――彼の生活のすべては、野球がうまくなるための時間になっている。実際、大谷は生活のそれぞれについてこんなふうに話していた。たとえば練習についてはこうだ。

「練習するからには常にきっかけを求めてやっている、というのはあります。閃きというか、こういうふうに投げてみよう、こうやって打ってみようというものが、突然、降ってくることがありますからね。もし休みだからって練習をしなければ、その閃きには出会えない。そう考えると練習を休む怖さってありますよね。自分がもっとうまくなれたかもしれない可能性を自分で潰してしまうんですから……」

 また、食べることについてはこんな次元のことを平然と口にする。
「味のことは考えていません。基本のPFC(たんぱく質、脂肪、炭水化物)のバランスを整えることがメインで、調味料がどうのこうのではないんです。栄養素でいうと、たとえばオートミール、白米、玄米、パスタがあったとして、その人に合う炭水化物があるので、それをいろいろ試しています。美味しいかどうかではなく、筋肉の張り感とか体重の変化を見ながら、長期間、主食をオートミールに置き換えたらどうなるのかなとか、食事でそういう実験をしています」

 食事で実験とは……そこには「勝って美味いものをたらふく食いたい」などという発想はない。大好きなチョコレートやクレープも、体作りの邪魔になる時期に安易に口にすることはない。

 そして、大谷にとっては寝ることさえも、野球がうまくなるための時間になっている。
「これだけ毎日のように試合に出るとなると、リカバリーのほうが大事になってきますからね。どれだけフレッシュな状態で毎日、試合に入れるか。一試合単位で考えても、ケガをしないで1年間やり通すという意味においても、一番大事に考えているのは寝ることです。もともとシーズン中はいっぱい寝るようにしてきましたけど、今年はとくにいっぱい寝るようにしています。ナイター・デー(ナイトゲームの翌日がデーゲーム)なら6、7時間寝られればいいほうかなという感じですけど、ナイター・ナイターだったら10時間から12時間は寝ています」

2017年11月12日(朝刊)朝日新聞東京本社版夢に対する気持ちが小さくなったことはない――。プロ入りから5年、大谷はついに夢に見たメジャーへの挑戦を表明した。

「僕がダメでも」次の世代につなげられたら

 これほど大谷が野球のために24時間を費やすことができるのは、高校での3年間に彼が教え込まれた大切な考え方があるからだ。

「そうですね、迷ったら正しい方向を選ぼうとするようになりました。選ぶのと選ぼうとするのとでは違うと思いますけど、僕は選ぼうとします。今、毎日毎日、野球ばっかりやっていて楽しいんですけど、でも、ときにはイヤだけどやらなきゃいけないなと思うこともあるし、本当は練習したくないときもあります。そりゃ、それで打てるならそうですよ。毎日、家でゲームだけして、試合に行ったら打てるというなら、それでいいじゃないですか。それがおもしろいかもしれないし、おもしろくないかもしれない。そんなふうになったことがないからわからないし、僕はやらないと打てないので、練習、やりますけどね(笑)」

 楽しい、より正しい。
 やりたくなくても、成長するためにはやらなければならないとき、自分から取り組めるかどうか。楽しいことよりも正しいことをやろうと考えて行動した結果、閃きが成長をもたらす喜びを大谷は何度も味わってきた。だからこそ、何が正しいのかを考えて行動することの大切さを学ぶことができた。

 その原点は、この言葉にある。
「先入観は可能を不可能にする」
 思えば大谷からこの言葉を初めて聞いたのは、彼が高校生のときだった。高校時代に受け止めたその言葉、今の大谷にはどう響いているのか、訊いてみた。

「そこは今も、まったくその通りじゃないですか、という感じです。僕がプロで二つやっていこうと決めたときも、いずれはこっち(メジャー)に来たいと思っていて、その日が来たら、たぶんピッチャーをやるんだろうなと考えていました。でも、それさえもそうじゃなかった。自分がどうなるのか、どこまで行けるのかということは、自分でもわからないんです。予想以上にバッティングもよくなってくれたし、自分でもわからない可能性がいっぱいあったなと思います。だから自分ではできそうもないなと思ったことを、やるかやらないか。可能性を潰すか潰さないか。全部が全部をやったらいいかというわけじゃないと思いますけど、やることを止めなくてもいいなとは思います。ホント、何がどう転ぶかというのはわかりませんからね」

彼の一球、一打が「自分の可能性を諦める必要はない」というメッセージになる。子どもたちに与えた影響は計り知れない。

 大谷自身でさえ「メジャーではピッチャーをやるんだろう」と思っていた。しかしバッターとしての可能性を捨てなかったことで、大谷はベーブ・ルース以来の二刀流の選手としてメジャーの舞台へ降り立った。そして2018年、ピッチャーとして4勝、バッターとして22本のホームランを放って新人王を獲得する。さらに2021年、ピッチャーとして9勝を挙げ、バッターとして46本のホームランを放った大谷は、日本人としてイチロー以来2人目のリーグMVPに輝いた。各球団の監督、コーチの投票で決まるシルバースラッガー賞、野球専門のメディアが選ぶ最優秀選手賞なども含めると、トータルで何冠を手にしたか数えきれないほどだ。数字だけを見れば、投打とも大谷を上回る選手は他にいるのに、なぜなのか——。それは二刀流という大谷の存在がメジャーの価値観を変えたからに他ならない。

 実際、今年のオールスターゲームでは“1番DH、大谷”で“先発ピッチャー、大谷”という特別ルールが採用された。つまりピッチャーの大谷とバッターの大谷が二人揃って試合に出るという、あり得ないことが現実となったのである。そもそも大谷がメジャー移籍を希望したとき、メジャーの球団が二刀流でオファーを出すなんてあり得ないという声が大多数だった。ところが二刀流で、というチームはいくつもあった。そのことについて大谷はこう話している。

「それは嬉しかったですね。僕が日本のプロ野球に入ったとき、二つなんてできるはずがないのに、という人のほうが多かった……少なくともそういうところは変えられたのかなと思うので、二つやってきてよかったなと思いました。この先は、僕がダメだったとしても、次の子どもが出てきてくれればそれでいいんです。一人失敗したからといって終わりだとは思いません」

2021年11月19日 朝日新聞PDF号外
2018年11月14日(朝刊)朝日新聞東京本社版“まるで漫画のよう”といわれる大谷物語が始まったルーキーシーズン。彼がこの先どこまで行くのか、誰にも予想がつかない。

一投一打に夢を描いて

 では、最後に夢物語を描いてみよう。

 ピッチャーの大谷とバッターの大谷――決してあり得ない対決をイメージして欲しいと、彼に二度、訊いてみたことがある。一度目はファイターズ時代。そのときの彼はこう言っていた。

「とりあえずピッチャーとしてはまっすぐを投げますよ。とくにコースは考えません。真ん中を狙って投げればストライクゾーンの中で適当に散らばりますから……で、バッターのほうはそのまっすぐを打ちにいって、ファウルかな。もしかしたら地味にレフト前あたりにヒットを打つかもしれませんね。やっぱり空振りだけはしたくないですから、ちょこーんと当てるだけの、つまんないバッティングをするんじゃないですかね(笑)」

 そして二度目は、メジャー1年目を終えたとき。そのとき彼はこう言った。
「高いレベルへ行けば行くほど、速いまっすぐはイヤだなと思います。だからピッチャーの自分がそのスタイルでよかったなって思うんです。バッターとしてはいくつかやりようはあると思いますし、たまたま1本打てばバッターの勝ちかもしれません。でもシーズンを通して戦って、何割打てるのかと言えば……やっぱりスピードのあるピッチャーはイヤですよ」

二刀流で戦い抜いた1年を終え、「多く試合に出られて楽しかった」と語った大谷。チームメイトは愛情を込めて“大きな子ども”と呼ぶ。

 バッターとしてニヤリと笑う大谷はふてぶてしく、自信満々。ピッチャーとしての大谷は口を真一文字に結んで緊張感を漂わせ、誰も寄せ付けない。ピッチャーとしては170キロのストレート、バッターとしては170メートルのホームランを思い描き、200勝とか2000本安打とは違う、一投一打に夢を抱く――それが誰も歩んだことのない真の二刀流のパイオニアとして、大谷の目指す瞬間最大風速となっている。

「僕、二つやると決めたときから数字には本当にこだわっていないんです。一年一年の結果は自分が何を残せたのかという指標として気にします。でも現役を終わるまでにどのくらい打ちたいとか、いくつ勝ちたいとか、そういう気持ちはまったくありません。現役でいられるうちにフィジカルも技術も、獲得し得るものは全部、獲得して終えたい。そこだけなんです。でっかいホームランを打ちたい、誰よりも速い球を投げたい。そう思って練習して、それができたときの嬉しい感じ……僕は今もその感覚を求めて野球をやっています」

 ライバルは万能の“野球の神様”――すべての能力で100点の野球の神様に渡り合おうとしているのだから、大谷翔平の野球に終わりなどあろうはずがない。

世界が進むチカラになる。世界が進むチカラになる。

誰よりも速い球を投げたい。誰よりも遠くまで打球を飛ばしたい。

ただ純粋に、「野球」に打ち込む大谷選手の姿は、どんな言葉よりも私たちを励まし、前に進むチカラをくれます。

野球選手として、グラウンドの中でやるべきことをやる。 大谷選手が考えているのは、おそらくそのことだけでしょう。 しかしそんなひたむきな姿は、野球を変え、人々の価値観を変え、 スポーツに打ち込む子どもたちの未来を、大きく変えようとしています。

私たち三菱UFJ銀行は、「世界が進むチカラになる。」を合言葉に 先の見えない世の中で前を向き、ビジネスや毎日の暮らしに 全力で取り組むみなさまを応援したいと考えています。 誰かが未来に踏み出すとき、その背中を支えるチカラになる。 私たちにとってはそれこそが、 “やるべきこと”だと思うからです。

三菱UFJ銀行は、これからも大谷翔平選手とともに、みなさまの明日を動かすチカラになりたいと願っています。

公開 2021/10/15

Photo:
Getty Images、三菱UFJ銀行