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土に近づき風が抜ける、
自然と人に触れる暮らしを

建築家 伊東豊雄 さん
2016.1.1
せんだいメディアテークやTOD’S表参道ビル、多摩美術大学図書館(八王子キャンパス)など、使う人と場所に寄り添った柔軟な建築を提案する伊東豊雄さん。建築界のノーベル賞とも称されるプリツカー賞も受賞した世界的な建築家が考える、これからの住まいのあり方とはどのようなものなのだろうか。

被災地が教えてくれた、ともにあることの大切さ

私も東京では自然を感じることが少ない暮らしをしています。でも、自然や土から離れたこの生活は、なんだか動物的な感受性を失っていく気がしてならないのです。都心の生活は、あまりにも自然と切り離されてしまっています。そのことをより強く感じるようになったのは、東日本大震災の後、被災地を訪れて被災した方々と深くかかわるようになってからです。
避難所を訪ねたときにまず感じたのは、ここにいる人たちは、自然とともに村落共同体で暮らしてきたんだなということ。農業や漁業をなりわいとしてきた人には、手や皮膚や表情に刻まれてきた豊かな個性がありました。そして、寒くて不自由な避難所で「こんなときだからこそ、周りの人と助け合っていこう」と、お互いに手を取り合って生活していたのです。
しばらくして仮設住宅が完成しましたが、年配の人のなかには、避難所から仮設住宅へ移りたくないという人が多くいました。その理由は、「いままで一緒に暮らしてきた地域の人と離れてしまう。バラバラになってしまうのが嫌だから」というものでした。
避難所の暮らしは大変不便なものではありますが、もともと住んでいた地域の人が集まって生活しています。しかし、仮設住宅の場合、抽選などで入居が決まるので、入居者同士のつながりがありません。その設計においても、つながりが広がっていくようにはできていませんでした。入居した人たちに「この住居に足りないものは何か」と聞いたところ「洗濯物を干すひさしや近所の人とお茶を飲む縁側」という声が多かったです。避難所や仮設住宅に必要なのは、そこで暮らす人々が集い、憩える場所なのではないかという思いから「みんなの家」が生まれたのです。

自然の光や風が入る、心地いい暮らしを

機能や管理のしやすさばかり追求してきた近代建築の考え方や街づくりのあり方が、自然から独立し、個々の空間を切り分けていく、いまの都心の暮らしをつくってきました。
しかし地震や台風など、日本は災害の多い島国です。個々のつながりが希薄な都心で、大きな災害が起きたら、私たちは隣の人の安否を気づかったり、地域の人と手を取り合ったりして生きていけるでしょうか。そんな不安を抱いているのは、私だけではないはずです。
2011年以降、UターンやIターンをして地方で小さなコミュニティーを築き、新たな生き方を模索している若い人が多くなったような気がします。私も現在、伊東建築塾の塾生たちと、瀬戸内海の中央に浮かぶ大三島で島の人たちと一緒に、小さなプロジェクトを積み上げながら、自然の恵みに感謝して豊かに生きるこれからのライフスタイルを模索しているところです。
自然に近く、開かれた生活は、人とのつながりを広げ、深めていくと思います。経済効率が最優先される東京のような大都市では、地方でつくりあげたライフスタイルをすぐに実現することは難しいかもしれません。しかし人とのつながり、自然との共生がどれほど大切かということに、人は少しずつ気づいているはずです。「豊かさとは何か」ということにおいて、考え方の転換が必要な時代なのではないでしょうか。
私は都心のマンションでも、共有部分を工夫したりテラスやベランダを広くすることで、近隣の顔が見え、人とつながる設計ができると考えています。
例えばマンションの扉の内側に、窓や網戸のようなもう一枚の扉をつけて風が通るようにすれば、閉め切ってエアコンをつけるより、快適に過ごせるでしょう。自然の光が入り、風が抜ける暮らし方を、技術とアイデアで都心のマンションでも実現できるのです。これからを生きる若い人たちと一緒に、自然に開かれた豊かで心地いいライフスタイルを考えていきたいと思っています。(談)

「相馬 こどものみんなの家」 (C)鳥村鋼一
設計:伊東豊雄建築設計事務所+クライン ダイサム アーキテクツ
みんなの家とは?

集って話し、癒やし合う
みんなでつくる小さな場所

震災直後から復興計画に携わり、避難所や仮設住宅を訪れて「何かできることはないか」と思っていた伊東豊雄さん。被災者が集まって本を読んだりお茶を飲んだりできるスペースの必要性を感じ、「みんなの家」の発想が生まれた。
みんなの家には、主に三つの役割がある。一つ目は、被災して家を失った人が集まって食事をしたり、おしゃべりをして心を慰める場所であること。二つ目は、住む人、使う人と話し合ってみんなでつくること。そして三つ目は、みんなで復興を考える拠点となることだ。それぞれに役割が異なり、みんなで考え、みんなでつくる、みんなの家は、間もなく15軒目が完成する。

仙台市宮城野区の「みんなの家」(C)伊藤トオル
設計:伊東豊雄+桂英昭+末廣香織+曽我部昌史
建築家 伊東豊雄 さん

いとう・とよお/1941年生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。菊竹清訓建築設計事務所を経て、独立。伊東豊雄建築設計事務所代表。高松宮殿下記念世界文化賞、日本建築学会賞作品賞、王立英国建築家協会ロイヤルゴールドメダルなど受賞多数。

※掲載内容は取材・作成当時のものです。

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