官民協力でめざす国産木材の利用促進
一昨年末、東京の銀座で耐火木造12階建てのビルが竣工(しゅんこう)し、ニュースなどでも大きく取り上げられました。商業施設が集積する一等地に「木のビル」が誕生したことで、驚かれた方も多かったと思います。こうした木造の中高層建築は、この2、3年、全国で少しずつ増えてきました。札幌市には高層ハイブリッド木造ホテルが、仙台駅近くには7階建ての純木造ビルがあり、東京でも国内最大規模の木造オフィスビルが本年着工予定です。
2010年に公共建築物の木造化・木質化を促進する法律が制定され、木の町村役場や公会堂などを目にする機会は少しずつ増えてきました。しかし民間の建築物で「木のビル」は、まだニュースになるほど珍しいのが現状です。
ウッド・チェンジ協議会は、民間建築物における国産木材利用の促進を目的として、一昨年9月に発足しました。林野庁の主導の下、木材の供給事業者や建築事業者、行政、研究機関、経済団体など幅広い関係者が参画し、木造建築の経済効果や木の効用に関する研究、広報活動、木造化モデルの検討などを五つのグループで進めています。

高層木造ビル事例集をはじめ、ウッド・チェンジ協議会の活動の詳細は
こちらのページをご参照ください。
「災害に弱い」は誤解 環境の保全にも貢献
国土の67%を占める豊富な森林資源に恵まれながら、日本で木造の中高層建築が増えない大きな理由のひとつは、「誤解」であると私は考えています。これまで多くの場所で木造のメリットについてお話ししてきましたが、そこで返ってくるのは「木は簡単に折れるし、燃えるし、腐るじゃないですか」「日本は地震国だから木造高層なんて無理でしょう」といった言葉です。
少し意外かもしれませんが、木の文化の日本ではなく、石の文化の伝統を持つヨーロッパで、近年は街中に木造のビルが増えてきました。それを可能にしたのが、木の繊維が直交するように重ね合わせて強度を高めた「CLT」という木質部材です。こうした建材の進化により、多くの人が懸念する「耐久性がない」「燃えやすい」といった木造建築のデメリットは過去のものになっています。加えて日本には、木の扱いに長(た)けた建築や製材のプロが多く、その点でも木造建築にはまだ多くの可能性があるといえるでしょう。
ヨーロッパで木の建物が見直されるようになった背景には、環境意識の高まりがあります。木造建築は鉄筋コンクリート造などに比べ、建材の製造から運搬、建物の完成に至るまでの過程で排出する温室効果ガスが比較的少ないことがわかっています。また、建物の設計次第ではありますが、木という素材は断熱性や気密性が高く、ZEH(〈ゼッチ〉ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)のようなエネルギー効率の高い建物を実現することも可能です。
そもそも木は成長過程で二酸化炭素を吸収し内部に閉じこめている(=炭素を貯蔵)ので、木が建物に利用されている間は、炭素の排出を防ぐことにも役立っています。
新しい需要を生み林業を活性化したい
私は山口県の山々に囲まれた中で、木のぬくもりを肌に感じながら育ちました。そんな木への思い入れもあり、経済同友会などの活動を通じて国産木造建築の魅力を訴え続けてきましたので、ウッド・チェンジ協議会の会長を拝命した際、「言い出しっぺとしてこれは逃げられない」と思いました。もちろん、先に述べた環境性能や木の癒やしといったことも大きな魅力ですが、私個人が最も実現したいのは、林業の活性化を通じて若者の働く場所を創り地方を元気にすることです。
日本には急峻(きゅうしゅん)な山が多く、林道の整備も十分ではないので、外国のように大量に切り出して一気に運ぶことができません。また各地の林業を支えているのは代々その地で続いてきた小規模な事業者も多いので、サプライチェーンを束ねてスケールメリットを生み出すといったことが難しい構造になっています。こうした状況を変えていくには大きな需要を生み出すこと、それには日本中のビルを木造に変えていくことが鍵になると考えています。
実は、私が相談役を務める東京海上日動火災保険も28年に地上100メートルの木造中心のビルを竣工する予定です。東京・丸の内にシンボリックな木のビルが生まれることで、みなさまに木の魅力を再発見していただけたらと願っています。(談)

すみ・しゅうぞう/1947年山口県生まれ。早稲田大学理工学部を卒業し、東京海上火災保険入社。2007年、東京海上日動火災保険取締役社長。16年から同社相談役。経済同友会副代表幹事を経て、日本経済団体連合会副会長を歴任した。








